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一章
38.二人に救われる超人達
しおりを挟む医務室からルカが出て来て、次は俺の番だと立ち上がると、アースも研究室へ行こうと立ち上がった。
どうやらリリーはまだ終わってないらしいな。
「こんにちはウルにアースさん。スズさんも……それと……猫?」
ルカが俺達に気付いて挨拶をして来た。順番に見て行って、スズといた黒豆を見て固まった。
誰でもそう言う反応するよな。だってここ地下の研究所だもん。
「僕の相棒の黒豆だよ!えっと……ルカ?」
この前ルカに会った時は通り名でしか呼んで無かったスズは、少し照れながらルカの名前を呼んでいた。するとルカはパァッと表情を明るくさせてルカにグイッと近付いた。まるで子供がはしゃぐように。
「あのっ相棒の黒豆くんを触ってもいいでしょうか!?」
「えっ!あ!もちろんいいよー♪はい♪」
なるほどな。ルカは黒猫の黒豆が気になってたのか。スズがヒョイっと黒豆を持ち上げてルカに渡すと、満面の笑みで抱き上げた。
「うわぁ♪可愛い~♡黒豆くん!僕はルカと言います。よろしくね♪」
「うむ。ルカ殿は良い匂いがするにゃ~。いい人にゃ~」
「あはは♪可愛い~♪」
すっかり黒豆を気に入ったルカは、普段見せないようなあどけない笑顔で一生懸命黒豆に頬擦りをしていた。
「黒豆、ルカは王族出身なんだぜ」
「王族か……」
「と言ってももう滅びています。なので今は一般人ですよ。気を使わずに接していただけたら嬉しいです」
ボソッと呟くスズに、ルカは丁寧に言った。
多分ルカの通り名を知っていたから、ルカの過去も聞かされていれば知ってる筈だ。国同士の戦争だから有名な話でもあるしな。
さて誰にでも馴れ馴れしいスズはどうでる?
「ルカはオルトリン王国の末裔。で合ってるかな?」
「ご存知でしたか。そうです。一族は皆殺されました」
「っ……」
「スズ?どうした?」
珍しく言葉に詰まってるスズの様子がおかしかったから聞くと、すぐに笑顔になっていつものように話し始めた。
「いやー!悲しい過去があるのに気丈に振る舞ってて凄いなぁってさ!僕なんかよりまだ小さいのに~」
「僕が今こうして笑顔でいられるのはアキトさんとウルのおかげです。二人がいてくれたから僕はまた前を向いて生きていけています。それと、悲しい過去があるのは僕だけではありません。傷を舐め合う訳ではありませんが、どうして自分だけがとか悲観的になるのはやめたんです」
「アキトと、ウルのおかげ?」
「あー、この話はいいだろ。俺はそろそろ行くぜ~。それと、アース!ルカを研究室まで送ってってやれ。リリーが出て来るまで側にいろ」
「了解」
「ウルありがとう♪アースさん、よろしくお願いします」
俺が間に入って無理矢理話を終わらせると、スズは黙って座っていた。ルカの腕から離れた黒豆が膝に飛び乗った。
そしてルカもアースと一緒に研究室へ向かって行った。
ルカの言うアキトと俺のおかげっていう意味は何の事か分かる。
でもこの話は照れるからあまりして欲しくないんだ。俺は普通にしているけど、ルカや他の奴らにとってはとても有難い事らしく、今でも感謝されたり懐かれたりしている。
ここにいる超人は皆んな何かしらの体や心の傷を抱えている。初めは皆んな崖っぷちだった。それをアキトが連れて来て、慣れない環境に怯えて心を開かない中、地上から来た超人、そして人間に興味がある俺が一緒に過ごす。
アキトはああいう性格だから放っておけないんだろう。
俺は自分の為だった。ずっと地下にいて同世代の子供を知らなかった。だからとても興味が湧いて一緒に遊びたかった。いろんな話を聞いたり、いろんな事を一緒にやりたかった。
ただそれだけの理由で一緒に過ごしていたんだけど、どうやらそれがルカ達にとっては救いだったらしい。
ルカだけじゃない。蒼司、レオ、少し違う気もするがゼロもにしておこうか。
皆んないろんな過去があり、それを覚えていてそれでも今は前を向いて生きている。
だけど、俺には過去の記憶が無い。
みんなを見ていると覚えているのは良い事なのか悪い事なのか分からなくなる事もあるけど、俺は自分の過去を知りたいと思っている。
ま、アキトが教えてくれねぇけどな。
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