36 / 44
一章
36.人造猫
しおりを挟むアキトの研究室へ戻ると、実験台で寝てた筈のゼロがいなくなっていた。
あいつどこ行ったんだ?
すると、実験台の向こう側から紫の頭がひょこっと見えた。
それに対してアキトは叱るように言って近付いて行った。
「何してるんだゼロ!君はまだ絶対安静なんだよ!」
「あ!アキト!目ぇ覚めたらこいつがいたんだよ!何でこいつこんなとこにいんのー?」
ゼロは何かを持っていて、それをアキトに見せていた。
ゼロが持ってるのは、あれは確か「猫」という生き物だったような気がする。図鑑で見た事があるだけだから合ってるかは分からないけど、多分そういう感じの生き物だ。
四足歩行をする尖った耳をしている全身毛に覆われた生き物。人間が手で抱き上げる事が出来る大きさで、その見た目からペットにするのが一般的なんだ。
俺は初めて見る猫に驚いて、自然と近寄っていた。
「ニャー」
「!!」
喋った!!と言うより鳴いた!?
なんだこの黒くてもふもふした小さい生き物は!
か、可愛い!!
「ゼロ!貸せ!」
「ちょ!ウル!」
ゼロから奪い取って猫を抱き上げる。前脚の脇を掴んで天井に掲げるように持つと、猫は俺を見てまた「ニャー」と鳴いた。
黒い毛の小さい猫。でも、持ち上げて少し分かった。これは本物じゃない。きっとアースとかと同じ、造られた猫だ。
「アキト、これ造ったのか?」
「ウルには分かっちゃったか~。さすが私のウルだね♪そう!人造人間ならぬ人造猫ちゃんだよー♪可愛いだろう?」
「えっコレ生きてねぇの!?機械なの!?すげぇ~!ちゃんと温もりとかあったけど!」
「ヒーター搭載してるからね。前から愛玩用で考えていたんだけど、試作で造ってみたんだ。スズ、おいで」
「おう」
一人、まだ研究室の入口に突っ立っていたスズを指名して近寄らせる。
もしかして、アキトが言うスズへのプレゼントって……
「この猫ちゃんがスズへのプレゼントだよ♪」
「!!」
やっぱりな。でも何で人造猫なんかを?
俺から猫を受け取ってスズへ渡すアキト。本当にアキトの考える事は分からねぇな。
猫を受け取ったスズは、どうしたらいいのか分からない状況らしい。あのいつでもどこでも誰にでも自由奔放なスズを困らせるなんてやるじゃねぇか。
「ここにいる超人達には人造人間という付き人が付いているのは知ってるね?この猫ちゃんはスズの付き猫だよ♪もし人型がいいなら少し時間が掛かるけど」
「僕の、付き……猫……」
「にゃー」
自分の腕で抱き抱えている猫と見つめ合うスズ。実際人型の方が身の周りの世話をしてくれるから楽だけど、こういう癒し系も有りなのかもな。
スズは戦いでは単体でも十分に強いし、レオみたいに自分の事が出来ない訳じゃないみたいだしな。
「ありがとうアキト!僕、この猫ちゃんがいい!」
「そうか♪喜んでもらえて良かった」
「可愛いなぁ♡名前は何にしよう?小さいからチビ?黒いからクロ?もー楽しすぎぃ♡」
「性格とかいろいろカスタム出来るけど、どうする?仕様は他の人造人間と変わらないから困った事があったらアースや凪に聞くといいよ」
「カスタムするー!洋服も着せてやるんだ♪」
すっかり猫に夢中になったスズはまるで子供だった。俺とゼロはそんな光景をポカンとして見ていた。
するとアースが俺の肩を叩いて不安そうに顔を覗き込んで来た。
「ウルも猫が欲しいのか?」
「ア、アース!」
「シクシク……アースくん、俺達はそろそろ引退なのかな……」
う……凪まで!
そりゃ猫は可愛いし、癒されるけど!
でも俺はずっと一緒にやって来たアースがいい。
ゼロがぐずる凪のおでこにデコピンして言った。
「余計な心配すんなっての。俺の下僕はお前で十分だ。あんな可愛い猫に無理させられねぇからな」
「ちょ、俺の事下僕とか思ってたの!?」
「アースもだぞ。俺の相棒はお前じゃなきゃ務まらない。そうだろ?」
俺がアースを見上げて言うと、ニカっと笑った。
俺が誰かと戦うにはアースが必要だ。それだけじゃない。俺の事を誰よりも理解して分かってくれているのは間違いなくアースだ。アキトよりも一緒に過ごした時間は長い。
「そうだな相棒♪これからもよろしくな♪」
アースに拳を作って出されたらから自分も握り拳を作りそれにくっ付けてみる。
それをゼロに思い切り見られてニヤニヤと笑われた。
「ウルとアースは本当に仲良いよな~」
「お前も少しは凪を大切にしろよ」
「何で俺が?凪はドMの設定にしてあるからいいんだよ」
「ドM?って何だ?」
知らない言葉に、不思議に思ってると、すぐにアースが教えてくれた。
「痛め付けられる事が趣味の人の事だよ」
「え、凪をそんな設定にしてるのか?」
「してませんよ!二人共間に受けないで!俺は健気で真面目でちょこっとおっちょこちょいな好青年設定ですー!」
「ちょこっとだ!?大分マヌケじゃねぇか!お使いもまともに出来ねぇくせによ!」
「それはゼロくんが無茶な物を頼むからでしょー!俺一生懸命やってるもん!」
「何だかんだゼロと凪も仲良いよな」
「だなー」
こんな風に自分の思っている事を言い合う超人と人造人間も珍しい物だ。
人造人間は主人のカスタムで大体の性格などは決まるけど、一緒に過ごして行く中でも主人の行動や言動などを記憶してそれに似合ったように少しずつ変化していくんだ。
アキト曰く、人造人間とは主人に付き従い正しい道に導くもの。
だから凪がこういう行動するのはゼロがそれを求めているからかもしれない。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【SF短編】エリオの方舟
ミカ塚原
SF
地球全土を襲った二一世紀の「大破局」から、約二〇〇年後の世界。少年エリオ・マーキュリーは世界で施行された「異常才覚者矯正法」に基づいて、大洋に浮かぶ孤島の矯正施設に収容された。無為な労働と意識の矯正を強いられる日々の中で、女性教官リネットとの出会いが、エリオを自らの選択へ導いてゆく。
【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。
人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。
それに対抗する術は、今は無い。
平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。
しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。
さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。
普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。
そして、やがて一つの真実に辿り着く。
それは大きな選択を迫られるものだった。
bio defence
※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ
海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。
衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。
絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。
ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。
大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。
はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?
小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。
カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる