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一章
36.人造猫
しおりを挟むアキトの研究室へ戻ると、実験台で寝てた筈のゼロがいなくなっていた。
あいつどこ行ったんだ?
すると、実験台の向こう側から紫の頭がひょこっと見えた。
それに対してアキトは叱るように言って近付いて行った。
「何してるんだゼロ!君はまだ絶対安静なんだよ!」
「あ!アキト!目ぇ覚めたらこいつがいたんだよ!何でこいつこんなとこにいんのー?」
ゼロは何かを持っていて、それをアキトに見せていた。
ゼロが持ってるのは、あれは確か「猫」という生き物だったような気がする。図鑑で見た事があるだけだから合ってるかは分からないけど、多分そういう感じの生き物だ。
四足歩行をする尖った耳をしている全身毛に覆われた生き物。人間が手で抱き上げる事が出来る大きさで、その見た目からペットにするのが一般的なんだ。
俺は初めて見る猫に驚いて、自然と近寄っていた。
「ニャー」
「!!」
喋った!!と言うより鳴いた!?
なんだこの黒くてもふもふした小さい生き物は!
か、可愛い!!
「ゼロ!貸せ!」
「ちょ!ウル!」
ゼロから奪い取って猫を抱き上げる。前脚の脇を掴んで天井に掲げるように持つと、猫は俺を見てまた「ニャー」と鳴いた。
黒い毛の小さい猫。でも、持ち上げて少し分かった。これは本物じゃない。きっとアースとかと同じ、造られた猫だ。
「アキト、これ造ったのか?」
「ウルには分かっちゃったか~。さすが私のウルだね♪そう!人造人間ならぬ人造猫ちゃんだよー♪可愛いだろう?」
「えっコレ生きてねぇの!?機械なの!?すげぇ~!ちゃんと温もりとかあったけど!」
「ヒーター搭載してるからね。前から愛玩用で考えていたんだけど、試作で造ってみたんだ。スズ、おいで」
「おう」
一人、まだ研究室の入口に突っ立っていたスズを指名して近寄らせる。
もしかして、アキトが言うスズへのプレゼントって……
「この猫ちゃんがスズへのプレゼントだよ♪」
「!!」
やっぱりな。でも何で人造猫なんかを?
俺から猫を受け取ってスズへ渡すアキト。本当にアキトの考える事は分からねぇな。
猫を受け取ったスズは、どうしたらいいのか分からない状況らしい。あのいつでもどこでも誰にでも自由奔放なスズを困らせるなんてやるじゃねぇか。
「ここにいる超人達には人造人間という付き人が付いているのは知ってるね?この猫ちゃんはスズの付き猫だよ♪もし人型がいいなら少し時間が掛かるけど」
「僕の、付き……猫……」
「にゃー」
自分の腕で抱き抱えている猫と見つめ合うスズ。実際人型の方が身の周りの世話をしてくれるから楽だけど、こういう癒し系も有りなのかもな。
スズは戦いでは単体でも十分に強いし、レオみたいに自分の事が出来ない訳じゃないみたいだしな。
「ありがとうアキト!僕、この猫ちゃんがいい!」
「そうか♪喜んでもらえて良かった」
「可愛いなぁ♡名前は何にしよう?小さいからチビ?黒いからクロ?もー楽しすぎぃ♡」
「性格とかいろいろカスタム出来るけど、どうする?仕様は他の人造人間と変わらないから困った事があったらアースや凪に聞くといいよ」
「カスタムするー!洋服も着せてやるんだ♪」
すっかり猫に夢中になったスズはまるで子供だった。俺とゼロはそんな光景をポカンとして見ていた。
するとアースが俺の肩を叩いて不安そうに顔を覗き込んで来た。
「ウルも猫が欲しいのか?」
「ア、アース!」
「シクシク……アースくん、俺達はそろそろ引退なのかな……」
う……凪まで!
そりゃ猫は可愛いし、癒されるけど!
でも俺はずっと一緒にやって来たアースがいい。
ゼロがぐずる凪のおでこにデコピンして言った。
「余計な心配すんなっての。俺の下僕はお前で十分だ。あんな可愛い猫に無理させられねぇからな」
「ちょ、俺の事下僕とか思ってたの!?」
「アースもだぞ。俺の相棒はお前じゃなきゃ務まらない。そうだろ?」
俺がアースを見上げて言うと、ニカっと笑った。
俺が誰かと戦うにはアースが必要だ。それだけじゃない。俺の事を誰よりも理解して分かってくれているのは間違いなくアースだ。アキトよりも一緒に過ごした時間は長い。
「そうだな相棒♪これからもよろしくな♪」
アースに拳を作って出されたらから自分も握り拳を作りそれにくっ付けてみる。
それをゼロに思い切り見られてニヤニヤと笑われた。
「ウルとアースは本当に仲良いよな~」
「お前も少しは凪を大切にしろよ」
「何で俺が?凪はドMの設定にしてあるからいいんだよ」
「ドM?って何だ?」
知らない言葉に、不思議に思ってると、すぐにアースが教えてくれた。
「痛め付けられる事が趣味の人の事だよ」
「え、凪をそんな設定にしてるのか?」
「してませんよ!二人共間に受けないで!俺は健気で真面目でちょこっとおっちょこちょいな好青年設定ですー!」
「ちょこっとだ!?大分マヌケじゃねぇか!お使いもまともに出来ねぇくせによ!」
「それはゼロくんが無茶な物を頼むからでしょー!俺一生懸命やってるもん!」
「何だかんだゼロと凪も仲良いよな」
「だなー」
こんな風に自分の思っている事を言い合う超人と人造人間も珍しい物だ。
人造人間は主人のカスタムで大体の性格などは決まるけど、一緒に過ごして行く中でも主人の行動や言動などを記憶してそれに似合ったように少しずつ変化していくんだ。
アキト曰く、人造人間とは主人に付き従い正しい道に導くもの。
だから凪がこういう行動するのはゼロがそれを求めているからかもしれない。
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