33 / 44
一章
33.劣悪な環境と今
しおりを挟む夜。何となく眠れなくて体を起こす。
俺の隣にはスズが大の字になり、布団からはみ出て寝ている。
アースはスリープモードにし、充電をしながら壁にもたれ掛かって座っていた。
そして、この部屋唯一のベッドで寝ている筈のアキトの姿が無かった。
また研究か、緊急で何かあったのか。アキトはここのトップで忙しそうにしているから特に気にはならなかった。
俺は水を飲みたくなって、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してゴクゴク飲んだ。
明日はスズをゼロに会わせよう。
俺はスズの事をここにいる超人全員に会わせるつもりでいる。
蒼司は俺と一緒にこの部屋で会っている。その時の反応を見る限りあまり良くは思ってないみたいだったな。まぁ蒼司の場合はアキトと俺以外にはみんなにああだから分かりにくいんだけどな。
ルカにはたまたま訓練室で会う事が出来た。ルカの反応もイマイチだったな。敵だった奴がいきなり仲間になりました何て言われても、はいそうですか、なんて笑顔作れる訳もないよな。
レオはまぁまぁだな。元々敵味方とか気にしないタイプだけど、さすがにウィルの件で怒ってたからな。心配だったけど、ウィルのおかげで丸く収まって良かった。
そして残るはゼロだ。ゼロの存在はスズも知らなかったみたいだからどうなるか未知数だ。ゼロ自体はレオと同じで敵味方とか気にしなそうだけど、絶対スズと戦おうとすると思う。あいつは戦闘狂だからな。
「どうしたー?眠れないのかぁ?」
ミネラルウォーターを閉まって布団へ戻る途中でスズがむくりと起き上がり目を擦りながら聞いて来た。
「そんなとこだ。起こしたか?悪かったな」
「別にいいよ~。眠れないなら話そうぜ。そうだなー、ここにいる超人の話が聞きたいなぁ」
「それなら俺よりスズの方が詳しそうだけど」
スズは俺達の通り名や能力、更には顔なども知っていたみたいだからな。
「詳しくはないよ~。うちのボス、必要無い事とかは教えてくれなかったし。なんつーかさ、Liveの超人達って思ってたよりのびのびしてていいなーって思ったよ」
「スズがいた所は違うのか?」
「全然違うね!大きく違うところはトップとの関係かな~」
「トップって、うちだとアキトの事か?」
「そ!Liveの超人達ってアキトからすごーく大事にされてるじゃん?家族みたいな感じー。それがさ、凄く羨ましいなぁって思ったな~」
「……それって、普通じゃねぇの?」
「まさかぁ!アキトみたいな人は珍しいと思うよ~?実を言うとさ、僕って研究所を二箇所も経験してるんだよね~。一個目はマジで最悪だった。毎日全身をいじられて、化け物みたいなのと戦わされたり、ご飯なんてまともに貰えなかったんだ」
「ひでぇな」
俺は驚き過ぎてそれしか言葉が出て来なかった。
超人達を実験体にして人間以下の扱いをする研究所があるって噂には聞いていたけど、こうして実際経験した超人から聞くと、何て言ったら良いのか分からなかった。
でも、興味はあった。他の研究所の事。俺の知らない世界だ。
「だろぉ?そこで瀕死状態になってた僕を拾ってくれたのが二個目の研究所なんだけど、そこもここに比べれば酷い方だなって思うよ。超人の事を道具としか思ってないんだ。でも、ちゃんと働けばご飯は食べられたからね~。僕頑張ってたよ~」
「スズ……なぁ、Liveに入りたいのって本心なのか?」
「本心だよ。何度も言うように、ご飯が美味しい!そして好きな時に好きなだけ食べられる!それと、アキトの技術狙いかな?ぶっちゃけ他の研究所の研究員達って下手くそばかりなんだよ。だから超人達が無駄に死んで行くんだ。みんなアキトみたいに上手で、超人想いならいいのに」
薄暗い灯りで薄っすらとしか見えないけど、スズの顔が悲しいものに見えた。
そうか、他の研究所はこことは全然違うのか。
「スズ、諦めなければお前もここにいられるようになるよ」
「うん♪ウル、君に会えて良かった。本当にありがとう。それと、ごめんね?」
「何で謝るんだ?」
「ボスからの命令とは言え、ウルの事を拉致ようとしてたからだよ。ボスはウルに対して凄い執着心があったよ。だから拉致して研究所に帰ってたらウルがどんな目にあっていたか……」
「おやおやー?二人共まだ起きていたのか?」
スズが喋ってる途中でアキトが部屋に入って来て間に入って来た。
そこでスズは「あ」と小さく声を洩らしていた。きっとアキトに口止めされていた話だったのだろう。俺もこれ以上は聞かずに、寝る準備をした。
「アキトこそこんな遅くまで仕事か?」
「そうだよ~。スズの為に徹夜しようと思ってたんだけど、ちゃんと睡眠は取ろうと思ってね」
いや、きっとスズが口止めした事を話そうとしている事に首輪を通して気付き、止める役目のアースはスリープモードだから、自ら入って来て止めたんだろう。
「僕の為って~?何してくれてたのー?」
「ふふ♪それは完成してからのお楽しみ~♪さぁ寝るよ~」
何をしていたのかは俺も気になった。スズの為って、新しい武器作りとか?
スズはその後もアキトに聞き出そうとしていたが、軽く怒られて渋々布団に潜り込んだ。
まぁ完成したら分かるし、とりあえず俺はスズをみんなに会わせて認めてもらう事に集中しよう。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ベル・エポック
しんたろう
SF
この作品は自然界でこれからの自分のいい進歩の理想を考えてみました。
これからこの理想、目指してほしいですね。これから個人的通してほしい法案とかもです。
21世紀でこれからにも負けていないよさのある時代を考えてみました。
負けたほうの仕事しかない人とか奥さんもいない人の人生の人もいるから、
そうゆう人でも幸せになれる社会を考えました。
力学や科学の進歩でもない、
人間的に素晴らしい文化の、障害者とかもいない、
僕の考える、人間の要項を満たしたこれからの時代をテーマに、
負の事がない、僕の考えた21世紀やこれからの個人的に目指したい素晴らしい時代の現実でできると思う想像の理想の日常です。
約束のグリーンランドは競争も格差もない人間の向いている世界の理想。
21世紀民主ルネサンス作品とか(笑)
もうありませんがおためし投稿版のサイトで小泉総理か福田総理の頃のだいぶん前に書いた作品ですが、修正でリメイク版です。保存もかねて載せました。
【SF短編】エリオの方舟
ミカ塚原
SF
地球全土を襲った二一世紀の「大破局」から、約二〇〇年後の世界。少年エリオ・マーキュリーは世界で施行された「異常才覚者矯正法」に基づいて、大洋に浮かぶ孤島の矯正施設に収容された。無為な労働と意識の矯正を強いられる日々の中で、女性教官リネットとの出会いが、エリオを自らの選択へ導いてゆく。
【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。
人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。
それに対抗する術は、今は無い。
平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。
しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。
さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。
普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。
そして、やがて一つの真実に辿り着く。
それは大きな選択を迫られるものだった。
bio defence
※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる