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一章
29.怪力のカラクリ
しおりを挟む次の日、俺はスズ達を連れて訓練室へ来ていた。目的はスズの戦闘能力を見る為だ。
訓練室を使おうと中に入ると、既に先客がいた。
その人物はガラス張りの向こうからいろいろな機器があるこちら側のエリアに入って来た。
「あ、ウル~♪」
「ルカ」
ルカとルカの人造人間のリリーだった。
俺を見付けたルカは嬉しそうに駆け寄って来て、付き添いのリリーもルカの少し後ろを付いて来てペコリと頭を下げた。
いつもキチっとした服装の二人だけど、こういう場所とは不釣り合いな気もするな。
ルカは俺越しにスズがいる事に気付いて目線をそちらに移してお辞儀をした。最年少なのに本当にしっかりしているな。
「初めまして!僕はルカって言います。こちらは付き添いのリリーです」
「初めまして。リリーと申します」
「これはこれはご丁寧にどうも~!スリーピーフォックスくん~♪」
「!」
「失礼ですが、貴方はどちら様ですか?」
通り名を呼ばれてビックリしてるルカ。そりゃそうだろ。俺もそうだった。
ルカの代わりにリリーがスズに聞いていた。
「僕はスズ!この前この研究所に侵入した男だよ~♪」
「え、貴方が?どうしてウルといるんですか?」
スズが正直に答えると、二人とも顔を強張らせていた。
無理もないか。二人がスズの事をどんな風に聞いているのかは知らないけど、敵である事に変わりはない。
その敵が何故俺といて、何故自由にこの研究所を出歩けているのか不思議に思うのは当たり前だ。
「スズが俺らの仲間になりたいらしいんだ。そんで、スズも旅行に行く事になったからアキトの指示でそれまで俺が世話してやるんだ」
「そうなんだ……」
「ルカはここで何してたんだ?」
明らかに良く思ってなさそうだったから話題を変えてみた。ルカがここにいるのは珍しいからな。
「あ、力の使い方を勉強していたんだよ。ウルも特訓するの?」
「ねぇ、スリーピーフォックスって念力が使えるんでしょー?僕見てみたーい♪」
「っ……」
「ルカ様、今日は力を使い過ぎたのでまたの機会にしていただきましょう」
リリーがルカの小さな肩を支えて言った。
ルカが力を使い過ぎるのは本当に良く無い。リリーはそれを管理する役割もあるんだ。
「ルカ頑張ってるな。俺にも今度どれだけ強くなったのか見せてくれ。だから今日はもう休め」
「うんっ♪あの、スズさん。申し訳ないのですが、僕はまだ未熟者です。体力を回復させたいので今日は失礼しても良いでしょうか?」
「ウルが言うなら~♪おやすみスリーピーフォックスくん♪」
ルカとリリーは一礼してから訓練室から出て行った。
スズを受け入れてもらうには時間が掛かりそうだな。
それにしてもスズの誰にでも変わらない態度には驚く。まるでレオだ。ここでやって行くには必要な事だけど、それを受け入れるのが難しい人もいるだろう。特に蒼司だな。
「スズ、早速だがお前の力を見せてくれ」
「いいよーん♪何をすればいいの?」
「怪力なんて能力ここじゃ珍しいからな、まずはどの程度までの物なら壊せるのか見てみたい。アース、ここで操作頼む」
「了解」
アースにいろいろな壊す物を用意してもらおう。
そう、アースがバージョンアップした時と同じような実験をスズにしようと思っているんだ。
今回はいろいろな形、大きさ、重さ、硬さの岩を用意してそれを壊してもらおうと思っている。
俺とスズはガラス張りの向こうの広い部屋へ移動してアースが準備するのを待った。
「ちなみに、ここで出て来る岩や石なら全部壊せるよ。アキトにもいろいろやらされたからね~」
「全部?ロンツデーライトもか?」
「ああ。それはさすがに硬かったな~。でもヒビは入れられたよ。ちなみに俺、武器を使うより素手の方が強いんだよね。僕の場合の怪力って能力は、筋肉を操るみたいな感覚で、一時的に拳や腕の筋肉を硬化させるんだ。するとどんな物質でも壊せる武器に早変わり~♪武器を使って壊せって言われたら、その武器の耐久度までの物しか壊せないけどね~」
「それは凄いな!そんなカラクリになっていたのか」
「部分的な硬化には時間が掛かったけど、結構便利だよ♪おかげでスラム街でもやってこれたって訳♪」
「それじゃあ熱や水はどうだ?俺達はそう言った訓練もするけど」
「怖っ!さすがに耐熱防水じゃないから、炎に包まれたら燃えるし、水に沈められたら溺死するよ!僕の能力はあくまで自分の力が他より強いってだけだしー?」
なるほどな。これはアキトが欲しがる訳だ。
アキトが俺達のように手を施したら更に強くなるのは間違いない。
そんなスズも見てみたかったけど、それはここにいるみんなに認めてもらってからだから時間が掛かるだろうな。
俺はアースに指示を出して初めの、ただの大きな岩を出してもらった。
「とりあえず俺が見たいからアキトに見せたようにもう一度見せてくれ」
「いいよーん♪代わりに今夜はご馳走期待してるよー♡」
スズはニヤリと笑って奥の壁から出て来たフューボット達が運んで来た岩にゆっくりと近付いて行った。
そして右肩を回して軽々と岩を殴り破壊した。
見ている限りスズは軽く触れただけだった。岩は粉々になり、それをすぐにフューボット達が片付けていた。
凄い……でもまだまだいろいろな物を壊してもらうぞ。
俺は次々にアースに指示を出して行った。
スズは特に疲れを見せる事なく出て来た物を軽々と破壊して行く。
むしろ楽しんでいるように見えた。
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