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一章
28.危ない場所
しおりを挟む買い物の後、俺は日光浴をする為に二人を連れてトレーニングエリアに来た。
日光浴と言っても人工的に作られた施設の事で、直接太陽の日光を浴びる訳じゃない。ここで長期間働いている人間はこうしてたまにここに来て日光浴をする事を義務付けられていた。
俺の場合は全く地上に出ないので日光浴の他にサプリメントも飲んでいる。
日光浴は月に何回かで良かったけど、今回、旅行の話が出てアキトから毎日浴びるよう言われていた。
地上に出た時に直射日光に耐えられるようにだろう。
「ほへ~!こんな施設まであんのー?さすがアキト様だね~」
「ただこの部屋で数時間好きな事をしているだけだ。日焼け止めを塗った方がいいぞ」
「まぁこんな地下にずっといたんじゃ不健康だもんな~」
部屋の中に入ると、長い廊下が続いていて、壁に小さい部屋へ繋がる扉が何個もある。その中の空いている部屋を使えるようになっている。
アースは必要無かったけどいつも俺の付き添いで一緒に過ごしてくれていた。今日から一週間はスズも一緒だ。
個室になっているそれぞれの部屋の中は部屋によって違う。部屋の大きさはどれも一緒だけど、映し出される景色が違うんだ。俺はその時の気分で変えているが、今日は海辺にした。
「うわー!綺麗な海~♪ウルは海が好きなのか?」
「勿論行った事ないけど、見てる分には好きだ。寄せては返す波が不思議だし、何より広いからな。あと音も聞いていて落ち着く」
「ロマンチストだね~♪あ、でもアース兄さんは苦手なんじゃない?そこら辺人造人間ってどーなってんの?」
スズはアースをつつきながら尋ねていた。
アースや人造人間は機械だから水は苦手だけど、防水加工してあるから多少の水なら大丈夫だ。
だけど海水はどうだろう。
「海水は入れない。鉄で出来てる部分が錆びるからな」
「ふーん。そう言えば僕の斧を食らった人造人間はどうしたの?」
「アキトが直して元通りだよ」
「そっか~。直せたなら良かったな」
「なぁ、スズの能力って怪力なんだろ?どの程度の重さまで持てるんだ?」
「結構何でもいけるよ。でも僕が持てる大きさの物に限るけどね。重い物を持つ他にも硬い物を壊すのも得意だよ♪ほら、僕が持ってた斧あるでしょ?あれで大抵の物は壊せるよ~」
体に似合わない大きな斧をあの時は軽々と扱っていたのが、理由を知れば納得だ。
どうやって地下まで侵入したのかは知らないけど、その後の下の階層への行き方がスズの能力らしいやり方だなと思った。
スズが壊した箇所は既にほとんど修復されているけど、俺が暴走して壊れた第三研究室のすぐ後の出来事だったから修復に当たった作業員はもうヘトヘトだろう。
「そう言えば僕の斧どうしたんだろう?ウル知らない?」
「知らねぇ。アース分かるか?」
「分からないな。多分調べられてると思うけど」
「部屋に戻ったらアキトに聞いてみようぜ。てかあんなの持ち歩くの大変じゃね?」
「アレは軽い方だよ。単独で潜入だったし、目的はデストロイウルフを連れ出す事だったから。だからアングリーライオンがいたのは計算外。戦闘するならもっと実用性のある武器持って来てたよ」
そう言えばスズは俺を見て「見付けた」と言っていた。何故俺を連れ出したかったんだ?それは、聞いても大丈夫なのか?
「なぁ、何で俺を連れ出そうとしていたんだ?」
「んー、これは話せないかもなぁ」
「そっか。ならいい。じゃあさ、地上の話は出来るか?スズが過ごして来た場所とか風景とかでいい。いろいろ教えて欲しい」
地上から来た人間は珍しいからな。地上の話を聞くチャンスだ。
俺が聞くと、スズはパァッと笑って楽しそうに話し始めた。
「いいぜ♪まず、俺が住んでたところはとある研究所なんだけど、暗くて、物がたくさんあって狭く感じる所だった。まぁその研究所がある街自体が暗い雰囲気なんだけどさ~」
「暗いって、地上なのにか?」
「もちろん地上だよ。太陽の陽は当たるけど、治安が悪いんだよ。スラム街みたいな所だな」
「スラム街……って確か人が住むには不便な場所じゃないのか?」
俺はピンと来なかったのでアースに問い掛けてみると、いつものようにスラスラと答えてくれた。
「貧しい人達が密集して生活している地域の事で、道や建物などもちゃんとしていない危ない地区の事だ。他にも公的サービスなどが受けられず、都市からも見放されているエリアだ」
「そんな街がグレビリアにもあるのか?」
「あるよ~。平和国家だのなんだの言われてるけど、そんなの限られた人間が住む場所だけで、僕達貧困者には冷たい国なんだよ~」
「知らなかった……」
「ウル、スラム街には近付かない方がいい。そこにはウル達超人を利用する奴らも多くいるんだ。もし捕まったりでもすれば……」
アースは悲しそうな顔をしてそう言った。
そんなに酷い場所なのか。でもスズはそこで暮らして来て、今まで生きてこれているじゃないか。
俺の考えている事がスズに伝わったのか、軽く笑って喋り出した。
「僕も一回捕まったよ~。そんでこんな悪趣味なタトゥーを入れられたのさ。僕の場合戦闘向けだと判断されたから殺されはしなかったけどね」
「そうだったのか」
「アキトならその刺青消せそうだけどな。スズが望むならだけど」
「確かに。頼んでみるか?」
「んー、まだ半分は信用されてないし、完璧に信用されたらでいいかな~?下手な事言って怒らせたくないしな!」
へへと笑うスズ。そんな生い立ちがあったなんて意外だった。いや、超人なら誰しもが辛い経験はしているんだ。それは分かっていた。
俺はスズが早くみんなに信用されればいいのにと思った。
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