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一章
27.くすぐったい気持ち
しおりを挟むショッピングエリアに到着すると、スズは楽しそうに笑って喜んでいた。
気持ちは分かる。
「すげぇ!何ここ!普通に服とか売ってんじゃん!雑貨屋もある~♪」
「ここで働く人はみんな寮で暮らしてるから、地上と同じような生活が出来るように作られたんだよ。ちなみに俺は好きなだけ買い物できるから欲しい物あったら言えよ。全部アキト負担で、買った物もアキトにバレるけどな」
「何そのセレブみたいなシステムー!あ、じゃああそこ見たーい♪」
目をキラキラさせて目的の店に走って行くスズ。俺とアースは黙って付いて行く。
入った店は若者向けの洋服屋で、大きめのTシャツやパーカーが目立っていて、柄物が多かった。ゼロとかが着てそうな服が置いてあった。
「うわー!これかっけー♪なぁどう思うー?」
「どうって、着れれば何でもいいんじゃないか?」
「そう言う事言うなって~!僕、友達と買い物なんて久しぶりでワクワクしてるんだから、合わせてよ~」
「…………」
「あ、こっちもいいな~。なぁ、どっちがいいと思うー?」
俺はスズに言われた言葉に何て返したらいいのか分からなくてその場に固まってしまった。
スズは気付いてないみたいで、アースに肩を叩かれて優しく言われた。
「ウル、普通にしていればいい。何も言わなくても大丈夫だ」
「そうなのか?」
「ちょっとー!二人で何話してるのさ~!ほら試着してみるからちゃんと見てよな~」
何着かの洋服を持って試着室へ入って行くスズ。
初めて言われた言葉。それは「友達」だ。俺にはそれは存在しなかった。意味ならアキトに教えてもらった事があるから知っている。
互いに心を許し合って、対等に接し、一緒に遊んだり喋ったりする関係の人の事を言うらしい。
アキトが言っていた。友達とは素晴らしいものだと。
俺はずっと友達が欲しいと思っていた。でもこんな地下にいたら叶うはずもなくいつの間にか諦めていた存在だ。だからアースの事をその対象として見ているんだけど、同じ人間に友達と言われたのは初めてだった。
「良かったな」
「アース。でもスズは……」
「俺は良いと思うぜ。ウルが喜ぶならそれで。俺が良いと思ってるって事はアキトも良いと思ってるって事だろ」
アースの言う通りだ。俺がアキトにとって触れて欲しくない事や都合の悪い事をしたり聞いたりすると、アースの思考は制御されるんだ。
アキトが付ききっきりで監視している訳じゃなくて、フューボット達に管理させて何かあればアキトの耳に入るようになっているんだ。
アキトは俺とスズを仲良くさせたいのか……
でも何でだ?初めは俺がスズと接触するのを嫌がっていたのに、何で突然?
分からない。でも分かるのは胸がくすぐったいって事だ。
俺とアースが大人しくカーテンの近くで待っていると、勢いよく開いて服を着たスズが現れた。
デカい黒地のTシャツには、大きな赤のハートが描かれていて、華奢な細い腕が更に細く見えた。下はライトブルーのタイトなダメージジーンズ。そしていつの間に持って行ったのか、大きなサングラスまで付けていた。
頬から首まで続く刺青の効果もあって、とても柄が悪く見えた。
「どうー?このハートちょー可愛いくない?」
「派手……だけど似合ってるよ」
「ほんとー?じゃあコレにしよっかなぁ~。あ、違うのも着てみようかー?」
「いや、いい。てか全部買えよ。何着かあった方がいいだろ」
「え♡全部いいのー?やったぁ♡」
「よし、服はもういいな?次日用品行くぞ。アース、買った物をアキトの研究室の部屋に届けるよう手配しておいてくれ」
「了解」
アースは近くにいたフューボットに声を掛けて、買った物を運ぶように指示していた。
俺とスズはその後も買い物を楽しんだ。俺は午前中にしたのに、更に買い足すという事もしつつ満喫していた。
「あー買った買った~♪いっぱい歩いたら疲れたな!なぁあそこのカフェで休もうぜ」
スズが指定したカフェに入ると、休憩をしていた社員達が気まずそうに店から出て行った。
スズの事もだが、俺も好かれてはいないからな。ほぼ貸切りになったカフェで一休みする事にした。
「あー、やっぱこれ隠そうかなぁ?このタトゥー目立つよな?」
「気にしてるなら隠せばいい」
さっき社員達に取られた態度を気にしてるのかスズが自分の頬を触りながら言った。
確かにスズの刺青は目立つ。今はさっき買ったばかりの服を身に付けているから首までしか見えないけど、その刺青は鎖骨辺りまで続いているからな。
「僕は気にならないけど、周りが気を使うでしょ」
「ちなみに刺青入ってる奴なら他にもいるぜ?なぁアース」
「ゼロだろ。首に入ってるよな」
「ゼロ?聞いた事ないなぁ~ここの超人?」
「そ。新人でちょっと危ない奴。その内会うと思うから紹介するな」
「新人がいたのかぁ~。僕が聞いていたのはデストロイウルフ、ルースレスバード、アングリーライオン……それとスリーピーフォックスの四人だけだ。へー、五人いたのか~」
「てか奴らって何者なんだ?俺らの通り名までバッチリとかすげぇな」
「奴らね~。ごめん!それについては僕からは話せないや」
「別に謝らなくてもいい。首輪のからくりは知ってるし、アースもいつもそうだ。ところでお前何飲む?オススメはミックスジュースだ」
「ウルが勧めるならマンゴージュースにしようかな♪」
俺が勧めたのと違うのを選んでニヤリと笑うスズ。俺はミックスジュースを飲むけどな。
飲み物を買って席に座ってその後はたわいない話で盛り上がった。
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