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一章
24.アキトの苦悩
しおりを挟む夜、アースと部屋で夕飯を食べていると、本当にアキトが帰って来た。
俺の前ではいつも笑顔なのに、少し疲れているような顔していた。
「ただいま~。私のウル~」
「おかえり」
部屋に入るなりテーブルに座る俺にぎゅーっと抱き付いて来るアキト。相当疲れてるな。
「はぁ、癒される♪アース、悪いんだけどお風呂沸かしてもらえるかな?」
「了解」
アースは言われた通り風呂場がある方へ歩いて行く。基本的にアースや他の人造人間は主人である人間の言う事しか聞かないが、アキトだけは特別で主人同様同じ対応をする。まぁアキトが作ったから当然っちゃ当然なんだけどな。
「すげぇ疲れてんじゃん。何かあったのか?」
「あったよ~。あの後ライアンの所へ行って来たのさ。この時間までずーっと話をしていたんだけれどね」
「へー、そりゃ大変だったな」
アキトが言うライアンというのは、このグレビリア国国家元首であり、代表と呼ばれる男の事だ。
アキトとライアンは昔馴染みらしく、相手は国の代表だけどアキトは俺と接するように親しく接している。
ライアンは国の代表なだけあってとても聡明だ。それだけじゃなく、自分の身分を乱用する事もなく、俺達や国の人達にも平等に接しているらしい。それもあってグレビリア国は他の国よりも栄えていて、治安も良いと有名だ。俺はこの地下しか知らないから実際はどうだか知らないけどな。
アキトは俺から離れて冷蔵庫からミネラルウォーターを出して俺の隣に座った。
そして優しく微笑んで話し始めた。
「ウル。前から地上へ行きたいと言っているけど、今でも気持ちは変わらないのかい?」
「……うん。変わらない」
「そうか」
ボソッと呟いてミネラルウォーターをコップに注いでグビっと飲んだ。
「何でそんな事聞くんだ?」
「ライアンに提案されたのさ、今回奴らに襲撃されたのを機に地上へ出てはどうだってね」
「!」
「これは前から言われていた事だけど、私が頑なに断っていたんだ。でもこの地下の維持費や修繕費等の事を考えると、ライアンの言う事も聞くべきなのかなってね」
「ライアンが全部負担してくれてるもんな」
俺が言うと、アキトは困ったように笑った。
実際この秘密組織Liveのトップはアキトだけど、それを支えているのはライアンだった。
トップ科学者としてアキトの事を認めていて、アキトが超人の研究をしているのも黙認している。代わりにライアンが処理しきれない仕事を手伝う事になっている。俺達がやっている任務がそうだ。
「なぁアキト、何でそんなに地下に拘るんだ?地上の方が便利なんじゃないのか?」
「……ウル、私は君を守りたいんだよ」
「俺を守る?」
「私が厳しいせいで地上に素敵な憧れを抱いているみたいだけれど、地上にあるのは綺麗な物ばかりじゃないんだ。それに触れた時、ウルが壊れてしまうんじゃないかと私は怖くて仕方がないんだよ」
「…………」
アキトは今度は悲しそうに笑ってた。
アキトが言う綺麗な物ばかりじゃないって言うのはきっと、戦争とかの事かと思った。それは授業で習ったから知っている。国と国同士がどちらかが敗北するまで争い合って、両国に多くの犠牲者を出したとか……確かにそんなのに巻き込まれたら俺達超人でも太刀打ち出来ねぇだろうけど、どの国の民が羨む平和国家グレビリア国に住んでてそんな心配あるのかなって思う。
俺はその事には触れずに、アキトの方を向いて思った事を言ってみた。
「でもさ、俺が壊れる前にアキトが止めてくれんだろ?俺が暴走した時みたいにさ。記憶消されるのは嫌だけど、それならまたこうして話も出来るし。それと、俺綺麗な物以外も見てみたいんだ。それに触れて自分がどう思うのか、試してみたいんだ」
「ウル……」
「ライアンのその提案、前向きに考えて欲しい。俺の為にもな」
「分かった。もー今日は抱き締めて寝るからね~!」
アキトのいつもの親バカっぷりにいつの間にかリビングに来ていたアースがニッコリ笑って見ていた。
アースにも見せてやりたい。地上がどんな所なのか、こんな地下なんかよりも広くて大きな所を。
俺は地上で暮らせる期待を少しだけしていた。
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