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一章
22.斧男の名前
しおりを挟む会議室を出てアキトと蒼司と三人でアキトの研究室へ向かう。とうとう斧男に会わせてくれるらしい。アースはまだいないけど、蒼司が立ち会うのは約束してたから一緒に付いて来てくれた。
「一応伝えておくけど、彼はもう完全に復活していて普通に生活もしているよ。ただこの研究所を壊して侵入して来た奴だから行動は制限させてもらってるけどね」
「それがいいでしょう。奴らの仲間なのだからまた暴れかねません」
アキトと蒼司の会話を黙って聞いていた。
斧男が奴らの仲間だってみんな分かってるみたいだな。じゃあ奴らの仲間に俺達と同じ能力を持った超人がいるって知らないのは俺だけなのか?
って聞いてもはぐらかされるだけだろうから斧男に聞きゃいいか。
アキトの研究室に到着した。中には誰もいなかった。一際広くて綺麗な研究室で、他と違うのはガラス張りの実験室が無い事。その代わりに、アキトが仮眠を取ったり研究室へ篭る時に使う部屋と繋がっている扉がある。
どうやら斧男はそこにいるらしい。
「この奥に彼がいるよ」
「おう」
アキトに付いて行き、扉の奥へ入る。
とても広くて簡易的なベッド、テーブル、キッチンがある普通の部屋がすぐにあり、何個かある扉は風呂やトイレに繋がっている。
部屋には人の気配はなく、監視型ヒューボットが部屋の隅に四体配置されていた。
そして扉の一つの風呂場からシャワーが止まる音がして、そこから真っ裸の細い男が出て来た。
「おわっ!ビックリした!あんた来てたのか!」
「今起きたのかい?気分はどうかな?」
俺達に気付いた斧男らしき人物は、ギョッとしていた。アキトは普通に話していて、思ったより普通に感じた。もっと反抗的で高圧的な態度を取るものだと思っていたから、俺も蒼司も呆気に取られていた。
斧男と出会った時は、顔にマスクをしていたから分からなかったけど、今は全裸だから顔も確認出来る。体の印象は変わらず小柄で細身。顔は猫のような大きな目と、ニヤリと笑うイタズラ好きそうな口元が印象的だった。そして何よりも目が行ったのは、その口元の横の頬から鎖骨にかけて入っていた刺青だった。何の模様かは分からないけど、左右対称に入っていた。
「気分はまぁまぁかな。ご飯は美味しいし、ずっと寝てても文句言われないからね~。てか今日は珍しい客連れてんじゃん♪よう!アンタ、デストロイウルフだろ?」
「!」
自分の通り名を呼ばれて驚く。いや、この男はレオの通り名も知っていたからおかしくはないか。
斧男は髪を拭きながらベッドに座って白いローブを身に付けながら一人で喋っていた。
ここでチラッと見えた首に、この前俺が付けていたのと同じ黒い首輪が付けられていた。
「僕はアンタに会いに来たんだよ。そしたらアングリーライオンがいてビックリ!めちゃくちゃな戦い方するって聞いてたからどうなるかと思ったけど、やっぱり負けちゃった~♪きゃはは!」
良く喋る。そして喋り方もまるで親しい人に人に話すような口調で、少し調子が狂う感じだ。きっと蒼司はこういうタイプは大嫌いだろうな。
「猫ちゃん元気ー?また戦いたいんだけど~」
「お前は誰なんだ?」
「僕?僕はスズって言うんだ。アンタと同じ超人だ♪」
あっさり教えてくれるんだな。やっぱり超人だったのか。アキトも黙って聞いていたから俺が聞いても大丈夫なんだろう。
首輪が付いてるから、まずい話になったらアキトが好きなタイミングで気を失わせる事が出来るからな。
「ただの超人じゃないよな?誰かと連絡を取っていたけど、相手は誰なんだ?」
「その話はそこにいるお兄さんにしたけどー、またする?」
スズはアキトに確認していた。どうやらアキトには話したみたいだ。
アキトは首を横に振って俺を見た。
「その話は私からするよ。今日は部屋に帰るからその時にね」
「お兄さん~、ついでにあの話もしてくれなーい?僕から話すより分かってもらえるんじゃないかな」
「ああ、そのつもりだよ。ウル、そろそろ行こうか。そろそろアースも復活してる頃だ」
「ああ」
「あれ、もう行っちゃうのー?また話そうよウル♪」
正直もっと聞きたい事はあったけど、アキトがいる以上根掘り葉掘り聞く事は出来ない。日を改める事にした。
先に出て行くアキトの後を追うように扉に振り向くと、隣にいた蒼司がもの凄い怖い顔でスズを睨んでいるのが目に入った。
「蒼司、行くぞ」
「……うん」
三人でスズがいる部屋を出た。
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