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一章
21.レオの急成長の原因
しおりを挟む模擬戦は俺とアースの勝利で終わった。
気を失ったレオは、アースと共に医務室へ運ばれて、ウィルも一緒に付いて行った。
残された俺はアキト達と別の階にある会議室で話し合う事になった。各々好きなところにバラバラに座った。
「いや~さすが私のウルだね!みんなも見ただろう!?アースとの素敵なコンビネーション!」
一人で興奮して俺を褒めまくるアキト。
それよりもさっきのアースのアレはなんだよ?
多分他の奴らも気にしてんじゃねぇの?
「おいアキト、アースに何したんだ?」
「え?何って?」
「あんなの見た事ねぇっつーの。放電とか言ってたじゃん」
「ああ。バージョンアップの時にちょっとね」
人差し指を唇に当てながら俺の質問にウインクして返すアキト。
やっぱりアキトが仕組んだのか。
「放電。そのままだよ。普段人造人間達はエネルギーを電気で充電してるよね?その蓄えたエネルギー、つまり体にある電気を放電して攻撃したのさ」
「なるほど!だからアースさんはエネルギー切れで倒れたのですね」
「ルカは賢いな~。その通り。まだ使い慣れないから残ってる全てのエネルギーを使ったんだろうね。まぁレオを見て分かる通り全てのエネルギーを使えば気を失わせるぐらいの感電はさせられるって事だね」
「え、でもアースは一ヶ月は保つぐらいのエネルギーは蓄えてるぞ?それを使ってもその程度なのか?」
「バージョンアップでバッテリーの容量も増やしたのさ。フルで充電すれば三ヶ月は保つよ。それとレオが気絶で済んだのは丈夫なのもあるかな。もしウルやルカが食らったとしたら命を落とすかもしれないね」
「…………」
「…………」
俺とルカは顔を見合わせて沈黙した。
代わりにゼロが話し始めた。
「あの技って凪には付けられねぇの?」
「出来るけど、凪はバランスタイプだからバッテリー容量も標準に作ってある。だからレオみたいに頑丈な相手に使ったとしても痛いぐらいで、気を失わせるのは難しいかもしれないね」
「えー、じゃあタイプ変えてよ。俺の凪もアースと同じにしてくれよ」
「おいゼロ。生意気な事を言うな」
ここでずっと黙ってた蒼司がゼロを睨んで言う。
元々上下関係には厳しい蒼司は、ゼロの態度やアキトへの言葉遣いが気に入らなかったんだろう。
これにゼロは態度を変えずに反論した。
「だってウルとアースばっか強くなってズルいじゃん。なんかかっけぇし?凪も使いたいよな?」
「ゼロくんのお役に立つなら……」
「ゼロさん、アースさんを見たでしょう?大容量のバッテリーを持つアースさんでもレオさんを気絶させるのがやっと。それもエネルギーを使い果たしてしまい、自分も行動不能に。言わば捨て身の技です。他にも戦い方はありますし、良く考えてからの方が良いのでは?」
ルカがそう言うと、ゼロは納得してないように口を尖らせて、頭の上で腕を組んでそっぽを向いた。
ルカの言う通りだ。あの技は相手の動きを止めるには最適だが、自分も倒れるんじゃ意味がない。それに、放電させるまでに数秒必要みたいだったから、相手がレオじゃなければ待ってはくれないだろう。
アキトはゼロを見てやれやれと言った顔で話し出した。
「まぁ凪のバージョンアップ、考えておくよ。ウル、さっきレオとやってみてどうだった?結果は勝ったけど、感想を聞かせてよ」
「んー、やっぱりまだ本調子じゃねぇなって思った。体が重くて全然動けなかったし。それと、レオのスピードに驚いた。あいつあんな速く動けたっけ?」
「それ、僕も気になりました。レオさんがあんなに素速く動けるなんて……ウルのスピードは戦闘モードに入ってからは健在だったよ♪」
ルカに褒められてほっこりした。
やっぱり上で見てた奴らも気付いてたか。俺らの中で一番速度の無いレオのあの動きはみんな気になるみたいだな。
「そう。今回みんなに見学してもらった理由は私の可愛いウルがカッコよく戦う所を見せたかったのが一番だけど、あとはアースの新技を見せたかった。早速使ってくれたから良かったよ。それと、みんなも気付き始めてるレオの成長速度だ」
アキトの言葉をみんな大人しく聞いていた。
俺を自慢したいと言うのはスルーして、アースの放電はどうやらアキトがやれと指示した訳では無さそうだ。模擬戦だったからアース自身がどこまで通じるのか試したみたいだな。
そして最後のレオの成長速度。ここにいる誰よりも日に日に強さを増している男だ。レオの事をみんなは馬鹿猫とかノロマ猫とか言うけど、強さだけは認めてるだろう。
「これには私達も数年前から注目していてね。実はレオに対してはいろいろ実験をしていたんだ」
「は?何の実験だよ」
「成長速度の実験さ。正直原因が分からないんだ。私達が特別な施術を施している訳でも無いし、レオの元々の遺伝子が理由って訳でも無さそうなんだ。彼の肉体の成長は遺伝子だとしても、それにしては成長するのが速すぎる。そこで、こっそりいろいろと試していたのさ。あ、これを知ってるのは私達研究員と、ウィリアムだけだよ」
いつもの笑顔で説明していくアキト。
レオの成長速度の原因を知る為に実験をしていた事。俺にはいくつか思い当たる節があった。
それは最近になってやたらとレオと組まされる事だ。それどころか自分の部屋へ入るのを出禁にまでしているレオを泊めさせて俺と二人きりで過ごさせたり、アースが復活してからも俺がレオを部屋に入れるのをあっさり許したりと、驚く事が多々あった。
「まさか、俺とレオが組むのが増えたのも?」
「ふふ。その通りだよ。正確にはレオにはウルだけじゃなく、ここにいる全員と同じ回数の任務に就かせたり、日常生活も共にさせた。最後がウルだったんだけど、ウルと組ませた時だけ異常な程に彼の様々な能力がパワーアップしていたよ。それも肉体的だけじゃなく、メンタル面でもね。あと、ルカともウル程ではないが数値が高かったね」
楽しそうに話していくアキト。
え、ここにいる全員と?蒼司とも一緒に風呂に入らせたり飯食わせたりしたのか?
驚いて隣に座っている蒼司を見ると、不機嫌そうにブツブツ呟いた。
「おかしいとは思ったんだ。俺と馬鹿猫を任務だと称して二日間に渡る要人護衛に就かせた事。普段ならあの程度の任務なら俺一人で十分だった。むしろはしゃぐレオの世話が増えて俺の負担が大きくなり、いつもより倍以上に苦戦したんだ」
「ご、ご苦労様」
レオを毛嫌いしてる蒼司だ。これは相当過酷な任務だったに違い無い。
「僕は楽しかったですよ。サーカスのゲストとして呼ばれた時なんかはレオの豪快さと奔放さにみんなも観客も笑顔で楽しんでました」
「そんな任務あんのか!?」
俺そんなのやった事ねぇぞ?あ、でもルカの能力なら適任かもな。
「俺も面白かったかな~。暗殺の任務だったんだけど、新人の俺は見学って言われてたから、真剣にやってるレオを邪魔したりして暇つぶしてたんだけど、本気で怒ったりして笑ったわ~」
「レオじゃなくても怒るわ」
ゼロは思い出してケラケラ笑っていた。
そうか。普段はみんなバラバラで、各々アキトから指示されているから知らなかったけど、レオとはみんなも一緒に過ごしていたのか。
で、一番効果が現れたのが俺とだったって訳か。
「今回の実験が終わったからこうして公表したんだけど、何故ウルと過ごした事によってレオが急激に成長したのかはまだ調査の途中なんだ。結果次第ではみんなの成長にも役立つんじゃないかと思っている」
「なぁなぁ。んじゃ次俺がウルと任務行きたい。任務じゃなくても何日か過ごせばいいんだろ?」
「ゼロ!お前は口の聞き方に気を付けろ!」
「アキトは何も言ってないんだからいいでしょ。師匠は堅物だな~」
「お前の師匠になった覚えは無いっ」
「まぁまぁ、ゼロの言いたい事も分かるからさ。そこでだ!蒼司からも相談されていたんだけど、近々みんなも人造人間も研究員達も揃って全員で社員旅行に行こうと思っている!」
「!」
旅行!これは俺と蒼司が話していた話題だ。本当に蒼司がアキトを説得してくれたんだ。
俺は嬉しくて蒼司を見ると、ゼロに苛ついていたのかまだ不機嫌そうにしていたが、俺が見ている事に気付くと、パッと柔らかい表情に変えて微笑んだ。
「兄さん、良かったな」
「蒼司!ありがとう!俺、地上に行けるんだよな?」
「勿論。準備しないとな」
今回いろいろ気になる話はあったが、旅行の話が出てそれが一気に俺の中での一番の話題となり、早くアースに教えてやりたくて仕方なくなった。
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