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一章
20.バトル開始
しおりを挟む時間は予定の9時丁度。先程ゼロに不意打ちで吹っ飛ばされたレオに異常が無い事が分かった為、予定通り模擬戦を行う事にした。
まずはアースの動きを見たいから、レオと対戦してもらう。今日の俺は体を慣らす為にアースのサポートをする事にした。
何度も言うが、レオは強い。
とにかくパワーとスタミナならこの5人の中でずば抜けてるんだ。
俺とアースも弱くはないけど、正直二人でも勝てるかは分からなかった。
他の超人達は相棒と共闘する事はあまりしない。俺とルカだけだろう。あ、ゼロもだけど、ゼロの場合は凪を利用しているに近いかも。
「ウルー!そろそろ始めるぞー!」
少し離れた所に立ってるレオが俺達に向かって手を振って叫ぶ。
さて、アースはどう出るか……
「アース。かっこいい所見せてくれよ」
「ああ。任せとけ」
俺の前に立つアースは顔を向けずに微笑んでいた。
以前よりも逞しくなったアースは設定しているのもあるけど、年上らしくてとても頼りになる後ろ姿だった。
そして赤い髪をかき上げて地面を蹴り、アースに向かって走り出した。
先に動いたのはアースだが、レオはそれを見てニヤリと笑ってそのまま待ち受ける。
アースもレオも接近戦を得意とする。そして俺もだ。
スピードが落ちたと言うアースは確かに前よりは遅く感じた。目で追えてしまうぐらい。
動体視力の良いレオには止まって見えるんじゃないか?
真正面から飛び込んで行ったアースはレオの側まで行くと、シュンと素早く横に動きレオの目の前から消えた。レオは咄嗟に後ろを振り向くが、それよりも先にアースの攻撃がレオを襲った。
後ろに回り込んでまずは拳を胸の辺りに一撃。
レオは左腕でそれを受け止めてパシンと払って右腕を大きく振った。
それに対してアースも両腕で受け身を取り、レオからの強烈な攻撃をしっかりガードで受け止めていた。
一瞬辛そうな表情を浮かべたが、吹っ飛ぶ事なく両足でしっかりと立っていた。
「アース。凄ぇ……」
あのレオの攻撃を間近で受けて持ち堪えてるなんて、信じられなかった。
俺はてっきり避けるかと思ったから驚いて見惚れていた。
「やるなぁアス!じゃあコレはどうかな!?」
「……っ!」
レオはニヤッと笑って、ヒョイッと数メートルジャンプをして、勢い良くアースに回し蹴りをした。
アースはその攻撃に再び両腕でクロスを作って頭の上でガードしていた。
「やっぱレオは強いわ。ウルー!援護頼む!」
「おう」
しばらく二人のやり取りを見ていた俺はアースに呼ばれて、体に力を入れて意識を集中させる。
すると体中にブワッと漲る何か。
次第に視力や聴力などの体の機能が上がって行くのが分かる。
久しぶりのこの感覚……
そう、この前斧男と戦ったレオに纏ったようなオーラが今俺の体にも纏っていた。俺のオーラは髪の色と同じグレー。多分元々グレーの瞳の色もいつもより明るく光ってると思う。これが俺の戦闘モードだ。
俺達超人はオーラを纏った戦闘モードに入ると、通常よりも様々な能力が格段に上がる。
レオは主にパワーとスタミナが上がり、俺の場合は主に五感とスピードが上がる。
そして俺はレオから一方的に攻撃を受けているアースの元へ一瞬で辿り着き、レオの後頭部に蹴りを入れる。不意打ちだったからまともにそれを受けたレオは少しよろけたが、ゆっくりと手で蹴られた所を撫でて俺に振り向いた。
レオと目が合う。
いつもは緑色のレオの瞳は赤く光り、赤いオーラを纏っていく。レオも戦闘モードに入ったのが分かった。
「ウル……相変わらず軽いぜ!」
「ぐっ……」
レオは笑顔のまま俺に向かって右腕を勢い良く振った。ギリギリ避けられたが、先程とは比べ物にならない程の音と風圧。体重の軽い俺は、風圧だけで飛ばされそうになった。
何とか持ち堪えるが、しっかりと地に足をつけていたにも関わらず、5メートルは立ったまま後ろに下がってしまった。
やっぱりレオ相手じゃ長くは保たないな。俺も本調子じゃないし、ダラダラしてたらスタミナ有利のレオに遊ばれて降参するのがオチだ。
俺は考えた。楽しいバトルが好きなレオ。俺も少し遊んでやるか。
「レオ!俺に付いて来い!追い付けるもんならな」
「……!」
俺がそう言うと、ボーッと考えていたレオはすぐに嬉しそうに笑って俺に飛び掛かって来た。俺も向かって来たレオから逃げるように訓練場内を、走って跳んで逃げ回る。
もちろんスピードなら俺の方が有利だ。だから追い付かれる事はないけど、わざとレオに捕まりそうになりながら逃げた。レオは楽しそうに何度も何度も俺を捕まえようと向かって来る。
「にゃはは~♪ウル速ーい!」
「早く捕まえてみろ」
「捕まえたらもっと遊んでくれるー?」
「ああ、好きなだけ遊んでやる」
「やったー♡」
レオは一層楽しそうに笑って両脚で地面を蹴って勢い良く俺に向かって直進して来た。俺もまた逃げようと左に動こうとするが、レオとの距離が縮まらない事に気付く。かろうじて避けられたが、もう少しでレオの伸ばす腕に捕まりそうになった。
「あー惜しい~」
「…………」
今のは何だ?あんなレオは見た事が無いぞ。
ギャラリー席からも少し驚くような声が聞こえて来た。
まだ俺が本調子だじゃないからか?その為速度の無いレオにも追い付かれそうになったのか?
いや、俺が戦闘モードに入ったらスピードは蒼司に並んでトップクラスだ。速度を捨てた能力を持ってるレオに追い付かれるなんて有り得ない。
もう一度試そうと試みるが、既にレオが動いていた。気付いたらすぐ目の前にいて、楽しそうに笑っていた。
どうしてレオがこんなに素早く動けるんだ?
俺は不思議に思いつつもレオに捕まらないように後ろに逃げようと考えていると、俺達から離れた所にいたアースが叫んだ。
「レオ!こっちだ!」
「アス?」
首だけ捻って後ろにいるアースを見るレオ。今の内だと後ろに下がってレオから間合いを取る。
そしてアースはレオまで近付いて左手で右手首を押さえながらレオに向けた。すると、アースの広げた右手の指が5本全てポロっと取れた。
「ええー!?アス!指っ!指が!!」
目の前で起こった事に驚くレオ。いや、これには俺も驚いた。アースは一体何をしようとしてるんだ?
だけどアースは驚く俺達に構わず両脚でしっかり踏ん張って集中していた。
次第にアースの無くなった指先ら辺がバチバチと音を出し始めた。
電気?
「放電!!」
「!?」
アースがそう言うと、バチバチ言っていた右手の指先からバチッ!と大きな音が鳴って、一瞬だけどまるで雷のような物がすぐ近くにいたレオを襲った。
放電……そうか!アースが電気を放出したのか!それでレオに攻撃を……
でもどうやって電気を放った?今までこんな事をするアースは見た事がないぞ。
「!!!!」
それをまともに受けたレオは悲鳴をあげる間も無く一瞬硬直して、そして地面に倒れた。
感電して気を失ったのか?
え……て事は、俺とアースの勝ち?
俺は信じられない出来事に、すぐにアースに振り向くが、そこにはよろよろと膝から地面に崩れるアースの姿があった。
「アース!」
「へへ……エネルギー全部使っちマッタ……ゼ……」
ここでアースの瞳から光が消えた。
まるで斧男からレオを守ったウィルのように。
その後アースの体はバタンと地面に倒れた。
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