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一章
19.ルカとゼロ
しおりを挟むそれから少ししてルカが現れた。
小柄でまだ幼い見た目で、誰がどう見ても子供。いや、実際子供だけどさ。
でも普通の子供とは違ってルカには品がある。物腰も柔らかく、落ち着いていて、とても育ちの良さそうな立ち振る舞いをする。
それは元王族出身だからだろう。
ルカは既に戦争で滅びてしまったが、一国の第三王子だった。家族は勿論、王族の血筋は全て殺されて、特殊な能力を持っていたルカだけ敵国に捕まり奴隷のように扱われていた過去がある。
たまたま仕事でその国にいたアキトが、ルカを見付けて救い出したんだ。
レオ同様、ここに来たばかりの頃は怯えてアキト以外とは誰とも話そうとしなかったが、今では誰にでも明るく振る舞い、みんなから可愛がられている。
「ウル!久しぶりだね♪今日はお誘いありがとう。とても楽しみにしてたよ」
「おうルカ。相変わらず可愛い奴だなぁ」
俺を見るなり駆け寄って来た小さいルカ。
キラキラ輝くライトブラウンの髪は綺麗にパーマを掛けたようにフワッとウェーブしていて、思わず触りたくなり自然と頭を撫でていた。
「えへへ」と嬉しそうに笑うルカにほっこりしていると、ルカの相棒の姿が見えない事に気付く。
「なぁリリーは?」
「リリーは僕の代わりに学校へ行かせて授業を聞いて貰ってるよ。終わったらリリーも来るよ♪」
「なるほどな。よしよし。ルカは絶対レオみたいにはなるなよ」
頭の良いルカの頭脳はレオを超えているだろう。
格好もいつもキッチリしたフォーマルな服装が多く、今日なんかは白のワイシャツに紺のベスト。履いているハーフ丈のパンツとお揃いの茶色いチェック柄のネクタイを付けていた。
リリーとはルカの人造人間で、女性型だ。見た目は二十代半ばぐらい。格好はいつも紺色のスーツにヒラヒラしたスカートを履いている。その上から白いエプロンを付けていて、昔読んだ本に出て来た「メイド」のような姿をしている。
ピンクの髪色で、肩につかるぐらいの前下がりミディアムヘアー。前髪は短く、大きい綺麗な瞳が印象的だ。
昔、ルカの世話をしていた乳母を似せて作ったらしい。
「ルカ~!こっちへおいでー」
上からアキトが手を振ってルカを呼ぶ。
気付いたルカは愛想良く手を振り返して俺に笑顔で言った。
「それじゃあウルさん、頑張ってね♪」
「おう」
階段を登るルカを見送って準備運動に戻ろうとしてると、入口付近が騒がしくなった。
レオが来たのかと思い振り返る事無くアースの所へ歩いていると、何か言い合う声が聞こえて来た。
「よっしゃー!俺が一番~♪」
「だーからっ!俺が先だっつの!」
「ノロマのデブ猫~!お前より俺が先に足入れたっつーの」
「俺の頭のが先に入ってたー!」
入口を見ると、やっぱり派手な逆立った金髪がいた。黄色のタンクトップに黒のジャージを履いたとてもレオらしい格好。
そしてその隣には紫の髪色の男もいた。ゼロだ。珍しい色の髪もだけど、ゼロは首にある刺青も目立つ。「龍」という、架空の生き物らしい物が入っていた。フードの付いた緩めの黒のパーカーに、赤地の柄の入ったハーフパンツを履いた男。
どうやら二人は来る途中で会ったのか、ここにどちらが先に着くか競っていたみたいだ。
ゼロは俺に気付いて、ヒョイっとジャンプしてレオの後頭部を蹴って吹っ飛ばしてから俺に近寄って来る。まるで邪魔な物をどかすように……
吹っ飛ばされたレオは油断していたのか、壁まで飛んで行き、見事に頭をぶつけていた。
後から入って来たウィルがレオに近付いて行く。
そしてウィルと一緒に入って来たもう一人の人造人間はゼロの付き人だ。
ウィルに安否確認されているレオをチラッと見て「あちゃー」と言った顔をして二人に謝りに行っていた。
名前は凪。
いつも黒のスーツ姿で、ベースは黒髪だが毛先は白。そして両サイドはツーブロックで襟足は長めという奇抜なヘアースタイル。見た目はアレだが、ゼロがカスタムした性格はアプリのお陰で基本的な世話は出来るが、どこか頼りなくて少し抜けてるお兄さんだった。アースと同い年ぐらいだ。
今も起き上がって怒り狂うレオと、それをなだめてるウィルに向かってヘコヘコしている。
ゼロはそんな三人を気にする様子もなく、俺に声を掛けて来た。
「ウルじゃん♪元気~?」
「この通りだよ」
「相変わらずクールだね。いや、ボーッとしてるだけか~!キャハハ」
「お前は相変わらずイカれてんな」
呆れながら俺が言うと、ゼロはニヤニヤ笑って近付いて来た。
「今日は先輩方から勉強させていただきますよー♪期待してますんで」
「何なら実戦で勉強させてやろーか?」
「滅相もない!俺なんかがウルに敵う訳ねぇじゃん?まぁ相手してくれるって言うんなら喜んで受けるけどー♪」
「コラー!ゼロー!レオを負傷させてどうするんだー!早くこっちへ来なさい!」
さっきのやり取りを上から見ていたのか、アキトが身を乗り出してゼロに言った。
「へいへい。アレぐらいじゃノロマ猫はくたばらねぇだろうになぁ。キャハハ!」
ゼロはここに来た時からこんな感じだった。
背格好こそ普通だけど、ダラダラしていそうに見えて意外と素早かったり、さっきみたいに相手が油断した所に鋭い一撃を入れたりと、戦いにおいてはセンスはあると思う。
まぁまだ人造人間になりたてだから本当の実力は良く知らないけど。
ゼロは5番目の超人になってまだ半年とかだけど、この研究所には一年前からいる。
初めはここで働くヒューボットの管理の仕事をしていて、普通の人間にしては珍しく俺に声を掛けて来ていた。そしていつの間にか仲間になっていた不思議な奴だ。
正直、俺はゼロの生い立ちは知らない。
アキトは知っているだろうけど、ゼロは蒼司の事を「師匠」って呼んでるんだ。だから蒼司と何かあったんかなぁって思ってる。
ウィルと凪も上に行き、ギャラリー席が賑やかになった。
さて、今ここに全ての超人が揃った訳だが、これは凄く珍しい事だ。
基本的に俺達が揃って連む事はない。普段は各々アキトから指示された任務や訓練などを行うか、それ以外はこの研究所内で好きにやっている。
俺はふと思う。
5人が一斉にバトルしたら誰が勝つのか?
サポート系のルカは戦闘力は高くないから早々に脱落するだろう。
まだ新人のゼロも経験不足もあって保たなそうだ。
かと言って残った二人を相手にするのも自信が無いので三番手に俺が脱落か。
じゃあ勝つのは蒼司かレオか……
一見経験の多さと武器を扱う蒼司の方が有利に見えるが、レオの丈夫さは度肝を抜く物がある。
それと、パワー、スタミナでは圧倒的にレオの優勢になるだろう。
一度やってみたい気もするが、今は感覚を取り戻して動きに慣れる事に集中しよう。
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