16 / 44
一章
16.レオの過去
しおりを挟むアースと買い物をした後、部屋に戻って片付けをしていた。そしてアースに昨日泡風呂で汚した風呂掃除もしてもらった。
「まさかあのアキトがレオをこの部屋に入れるなんてな。最近良く二人を一緒にする事が多いけど、何か変な感じだな」
風呂掃除を終えたアースが夕飯の準備に取り掛かりながら言った。
やっぱり変だよな。ただでさえ手の掛かるレオだ。俺といたら更に好き勝手やりだすのに何故か俺とレオを一緒にする事が増えた。
「アキトの奴、何か企んでるよな?」
「どうだろうな。俺はレオ好きだから良いと思うけど」
「俺も嫌いじゃねぇよ。うるせぇなとは思うけど、強いからなアイツ」
「本当に強くなったよな、レオは。初めてここに来た時は小さくて怯える子猫みたいだったのに」
「今じゃ猛獣だな。誰よりもデカく育ちやがって」
レオがここに来たのは俺が12歳の時だ。レオは俺の一個下だけど、同世代とは思えない程に痩せていて小柄だった。背も低く、常に眉毛を下げて震えていたな。
レオは親に虐待されていたんだ。長い間家に監禁されて、そこで酷い事をされ続けていたらしい。親が居ない間に窓をガラスごと割って外へ逃げ出した。長期間監禁されていたせいで、実年齢よりも筋力や知力が劣っていたらしく、逃げる時に割ったガラスで怪我をしたレオは大量の出血でそのまま道端で意識を失った。それをアキトが見付けてすぐに連れ帰って傷の手当てをして、レオの体力が回復するまで面倒を見たんだ。
レオは生まれた時から超人の力を覚醒させていた。レオは普通の人間よりも生命力が長けていた。それを周りに知られるのを恐れたレオの両親は隠すように育てていて、次第に扱いもぞんざいになり、虐待になってしまったらしい。
これはアキトがレオから聞いた話と個人的に調べた情報だ。
まぁレオはあの通り見事に立派に逞しく成長した訳だけど、知力の方はどうにもならなかったみたいだな。
「ところで今日の夕飯何?」
「ウルの好きなすき焼きなんてどうだ?」
長ネギをカッコよく持ったアースがそう言ってニヤリと笑った。
俺は居ても立っても居られず、アースがいるキッチンに駆け込み、冷蔵庫を開ける。すると朝は無かった綺麗な色の牛肉がこれでもかってぐらいに入っていた。
俺は興奮してすぐにアースに聞く。
「コレ、どうしたんだ!?」
「バージョンアップが終わった後にアキトに頼んだ♪ウルに好物を食わせたいからって言ったらすぐに手配してくれた♪さすがアキトだよな」
「すげぇ!早く食いたい!」
俺は肉が好きだ。中でも好物はすき焼き。特にアースが作るすき焼きはやや肉多めの俺好みのすき焼きなんだ。
牛肉の他にもきっと最高級であろう卵や野菜や豆腐達がキラキラと輝いていた。
アキトの奴、普段俺に厳しい癖にこういう餌付けみたいなのは惜しみなくやってくれるよな。
「喜んでくれて良かった♪すぐに準備するな~」
「おう!頼むぜアース!」
あ、ちょうど良いや。なんならレオとウィル呼ぶか?あいつも肉好きだからな。
「なぁ、ウィルと連絡取れるか?」
「ウィルが起動してれば出来るけど……呼ぶのか?」
本日二度目のアースの驚いた顔。
確かに俺が部屋に誰かを呼ぶのなんて今までにない事だろうけどよ。
「お礼言いたがってたじゃん。二人も呼んで一気に言えばいいじゃん」
「はは、すぐに呼ぶよ」
アースは嬉しそうに笑って目を閉じた。
新型の人造人間同士はこうして互いに通信する事が出来るようになっている。
どうやらすぐに繋がったみたいで、アースが目を開けて喋り出した。
「ようウィル。うちの主人からディナーの誘いなんだが、レオと来れるか?そうだな、30分後ぐらいに」
レオなら絶対来るだろ。
問題はレオが俺の部屋に入れるかどうかだ。昨日はアキトが俺の護衛の為に入れるようにしてくれたから泊まれたけど、基本的に俺とアキトの部屋へは許可が無ければ他の人間や人造人間は入れないようになっている。
もし入れないようになってたらアキトに訳を話して許可をもらえばいいだけだけど。
「……じゃあ待ってるよ」
どうやら来る事になったらしいな。
ウィルと話した後にアースは笑顔のまま作業に取り掛かかった。
「30分後に来るって。レオは寝てたみたいだけど、ウルの名前出したらすぐに起きたらしい」
「また寝てたのかよ」
「そう言えばレオが訓練室にいるのを見たけど、何でだ?昨日その斧男と戦ったばかりなんだろ?」
「知らね。ウィルに会いに行った事しか分からねぇ」
「まぁレオが来たら聞けばいいか。あ、一応アキトにも報告しておくな」
「やっぱ必要ー?まぁいいけど」
何かいちいちアキトに報告するのって、何をするのにも親の許可をもらわないとダメみたいで嫌なんだよな。
黙ってやって怒られる方が面倒だから従うけどさ。
アースは再び目を閉じて今度はアキトに連絡をする。
すると、すぐに部屋の電話が鳴った。
げっ。絶対アキトじゃん。
部屋の電話は至る所に設置されていて、今は一番近いキッチンの壁にあった電話のボタンを押した。
この研究所の電話は音と共にボタンが光り、そのボタンを押すとスピーカーから相手の声がして何かをしながらでも通話する事が出来るようになっている。
『ウルー!やっぱり寂しくなっちゃったー?私も早くウルに会いたいよ~』
「あー、違くて……今日の夕飯さ、レオとウィルも一緒にしていい?」
『あれ?今日はアースがすき焼き作る予定じゃなかった?』
「今作ってるよ。だからレオとウィルも一緒にと思って」
『…………』
「おい?アキト?」
『理由聞いてもいいかな?』
「理由って……うーん、アースが二人に昨日の事をお礼言いたいらしいんだ。俺もあれからウィルに会ってねぇし。てかもう誘っちゃったんだけどな」
『アースとウィリアムが通信したのは分かったけど、まさかそんなやり取りしてたなんてね。分かった。許可するよ。レオとウィリアムが部屋に入れるようにしておく。あ!アース!レオがウルに何かしそうになったら本気でやっていいからね!』
「はーい」
「サンキューアキト。じゃあ仕事頑張れよ~」
許可も出た事で俺はさっさと電話を切る。
やっぱりもうレオは入れなくなってたか。
アキトに連絡しておいて良かったかもな。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。
人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。
それに対抗する術は、今は無い。
平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。
しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。
さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。
普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。
そして、やがて一つの真実に辿り着く。
それは大きな選択を迫られるものだった。
bio defence
※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる