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一章
15.変わりゆく心
しおりを挟むアキトは研究室の外にある廊下の休憩スペースにいた。
一人でベンチに座りコーヒーを飲んでいた。
エレベーターから降りて歩いて行くと、俺に気付いたアキトが嬉しそうに笑って手を振った。
「ウル~♡また会いに来てくれたのかい?」
「おう。コレ外してもらおうと思ってな」
「ああ、それがあればウルがどこで何をしているのか分かりやすいから黙っていたんだけど。やっぱり嫌がるよね」
「…………」
こいつ、分かってて外さなかったのかよ。
こっちへおいでと指示されてアキトの隣に座ると、黒い首輪を外してくれた。この首輪はアキトか野々山じゃないと外せないように出来ている。指紋か、生体認証か仕組みは教えてくれない。不思議なもんだ。
アキトは外した首輪をクルクルと指で回しながら、アースを見てニッと笑って言った。
「アース、かっこよくなっただろ?」
「ああ。めちゃくちゃかっこよくなった。俺も出来ねぇの?」
「肉体改造?そんなのダメ!ウルはそのままでいいんだ!」
「…………」
蒼司の義手になった腕を見てアキトを見ると、ため息を吐いて俺の手を握って来た。
「蒼司は自ら望んで両腕を失った訳じゃないんだ。補助する意味で付けただけ」
「じゃあレオは?初め俺より小さかったのに今じゃあんなにムキムキじゃん」
「レオも特別改造してる訳じゃないよ。あの子の体格が良いのは元々の遺伝子でしょ。私がみんなに施すのは脳に特定の信号を送って元々持っている能力の限界以上の力を引き出すだけ。むやみに肉体をいじったりしたらそれこそ命の危険が大きくなるからね」
「なぁ、アイツは?斧男。アイツも普通の人間じゃないよな?」
ここでアキトが黙った。本当に俺には斧男の事に触れて欲しくないみたいだな。
でも気になるじゃん。俺達の他にも超人がいるかも知れないなんてさ。
「ふぅ、分かったよ。そんなに彼の事が気になるなら少しだけ会わせてあげる。でも今は疲れて寝てるから話は出来ないよ」
「……んじゃ違う時でいい。話せるようになったら会わせてくれ」
「兄さんが会う時、俺も立ち会いたいです」
「おや、蒼司も彼に興味があるのかい?まぁいいよ。蒼司もいる方が安心っちゃ安心かな」
アキトは残った缶コーヒーを飲み干して、立ち上がって俺の頭を撫でた。
「さて、私は仕事に戻るよ。しばらく野々山が休みに入るから忙しいんだ」
「あ、アイツやっと休めるんだ」
アースの起動実験の時、倒れる寸前だったもんな。俺がそう言うと、蒼司がクスクス笑った。
「ウル、今夜も部屋には戻れなさそうなんだ。寂しい思いをさせてごめんね?」
「ん、アース戻ったし、平気だけど」
「本当は私に甘えたいよね!うんうん。本当に可愛いなぁウルは!なるべく戻れるようにするからねっ!アース、ウルの事頼んだよ」
「了解」
俺の言う事は無視して、俺をギューっと抱き締めていつものアキトっぷりを炸裂させると、後ろの二人は笑っていた。
この後俺とアースは違う階にあるいろんな店があるエリアに行くつもりだ。まだ白いローブ姿のアースに新しい服を着せる為だ。部屋にもあるけど、暇だし買い物に行こうと思う。旅行に行くかもしれないしな。
蒼司はそのままアキトと一緒に研究室へ行った。
「なぁアース、明日は一緒に訓練室に行こうな」
「お、ウルが手合わせしてくれるのか?」
「本当は今すぐにでもやりたいけど、あと一日は大人しくしてなきゃだからな~」
「ちゃんと守って偉いぞ♪」
「アースがどんなけ強くなったのか楽しみだな」
「俺も。ウルと新しい戦い方が出来るのが楽しみだ」
エレベーター内での会話。笑顔のアースと目が合ったから笑ってやると、驚いた顔をした。
え、今の俺変だったか?
「どうした?」
「いや、俺がいない間に何かあった?」
「特にねぇけど。何で?」
「部屋の外でウルがそんな風に笑うなんて、珍しいから」
言われてみればそうかもしれない。
基本的に俺はあまり笑わない。周りから見たら無表情な奴だと思う。アースといる時は普通に笑顔になれるけど、他の奴に対してあまり感情が湧かないから笑ったりもしなければ怒ったりもしない。
アースに言われて自分で自分の顔を触ってみると、あははと笑われて頭を撫でられた。
「俺はウルがこうして自然と笑顔になれるのは好きだ。俺と離れていろんな人と関わって心が変わったのかもな」
「いろんな人っても蒼司とレオぐらいだぞ?」
「あー、二人共ウルの事大好きだもんな~。そっか。俺がいない間、二人が付いててくれたのか」
「レオは途中でいなくなったけど。あ、ウィルの様子見に行ったんだよアイツ。ウィルも復活したんだよな。良かったな」
「俺は停止してたから全く分からないけど、ウィルに何かあったのか?アキトと野々山がウィルがどうのこうのとは言ってたけど」
「そっか。アースは斧男の事知らないのか」
俺はアースに昨日の出来事を簡単に教えてやった。アースは驚きもしなければ笑いもせずにしっかり聞いていてくれた。
こうして俺が話した事はアースは一字一句間違える事なく記録する。そして俺が設定した性格に合わせたような返事をするようになっている。
だから普通の人間と話しているのとあまり変わらない。
たまに俺がアキトに禁止されてる事をしたり、アキトの都合が悪くなるような事を言ったりすると、アースの頭から機械音が鳴って、一瞬固まってから喋り出したり、ロボットっぽい一面もあるけど、それが無ければ人間と変わらない。
俺が斧男とレオとウィルの話をすると、冷静に聞いた後悲しそうな表情を浮かべた。
あ、自分が一番最初に倒れて何も出来なかった事を悔やんでるな。
アースは正義感が強いヒーローのような設定にしてあるから気にしてるんだと思う。正義感が強いだけだと堅っ苦しそうだから、プラス友達のようなフランクな性格にもしてある。
「俺がもっと丈夫だったらウィルを傷付けなくて済んだかもしれないのに」
「いや、わざとアースを起こさなかったのは俺だ。まず得体の知れない相手だったし、何よりレオがいたから大丈夫だろうと思ったんだ。アイツが遊ばないでさっさと倒してればウィルが犠牲にならなくて済んだんだよ。だからアースが気にする事はねぇよ」
「優しいなウル。後で二人にお礼を言いたいな」
別にレオだし礼なんて言わなくていいと思ったけど、ウィルの様子も見たいからどっかで時間作ってやるか。
エレベーターが目的の階に到着して、扉が開く。一際明るくてカラフルなエリアだ。ここは地上にあるいろんな物があるから好きだ。
欲しい物が無くてもたまに訪れる場所だ。
そして俺とアースは久しぶりの買い物を楽しんだ。
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