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一章
14.おかえりアース
しおりを挟むアースが俺の所に帰って来たのは夕方だった。
白いローブのまま俺の前に現れて笑顔で名前を呼んでくれた。
「ただいまウル」
「おかえりアース」
俺は蒼司と本がたくさん置いてある資料室で地上のいろんな場所の写真が載っている雑誌を読み漁っていた。
そこへバージョンアップを終えたアースが戻って来た。
「何読んでたんだ?」
そう言って隣の椅子に座って来るアース。
一日と少し離れていただけなのに、何だか懐かしい。
アースとは俺が10歳の頃から一緒だった。
忙しいアキトは、自分に代わって俺の面倒をつきっきりで見れるような存在を欲しがっていた。
そこでずっと研究していた人造人間だが、一般家庭用と戦闘型の人造人間を掛け合わせた旧型の人造人間が完成して、第一に俺の相棒であるアースが出来た。
当時は今のように万能じゃなかったけど、今回みたいなバージョンアップを繰り返して今のような人間に限り無く近い新型人造人間になった。
ちなみに新型人造人間は誰でも手に入れられる物じゃない。莫大な費用が必要になって来る為、簡単に作れる訳じゃないし、地上に出回る予定もない。
アキトの考えでは、もっとコストを抑えて作れたら地上にもと思っているらしい。
隣にいるアースを見てから読んでいた雑誌を見せてやる。それらがアースの瞳に映る。
瞬間的にアースはその瞳に映った物を記録する。だから俺が後からまた見たいと言えばアースをテレビやパソコンなどにリンクさせれば映像化されてそれを見る事が出来るようになっている。
もちろん記録した物を消す事も出来る。それはアキトが良くやっている事だ。
「海か。ウルは海に興味があるのか?」
「ある。アースは海を知ってるのか?」
「直接は知らない。頭の中には情報はあるよ。地球上の7割は海で、その海の海水には塩が溶け込んでいて舐めるとしょっぱいらしい」
「それは学校で先生が言ってたな」
「ウル、社会の授業はちゃんと聞いてたもんな」
「ああ、知らない事ばかりで面白かったからな」
「ところで兄さん、アースも来た事だしそれ取って貰ったら?俺もアキトに話があるから一緒に行こうよ」
蒼司が俺の首元を指差して言う。
昨日野々山に付けられた黒い首輪だ。
元々アキトが戻るまで研究室にいなくちゃいけなかったのを、腹が減り過ぎてコレを付ける条件で解放してもらえたんだ。
俺が万が一暴走した時にそれを止める為にな。コレだけじゃ暴走を抑制する事は出来ないけど、暴走しかけたら催眠薬を使って気を失わせる事は出来る。
俺は蒼司とアースを連れてアキトの所へ向かう事にした。
途中のエレベーターで蒼司と並んだアースを見て異変に気付く。
それは体格だ。
蒼司は身長はあるが、筋肉は少なくスラッとしていて細い。アースも同じような感じだったけど、何だかガッチリして見えた。胸元とか見た感じ分厚くなってて……
アースの胸に手を当ててぺたぺたと触ってみると、人間っぽい皮膚のすぐ下に硬い金属があるのが分かった。
「なぁアース。こんなガッチリしてたっけ?」
「良く分かったな♪耐久性を上げる為に数センチ厚くしたらしい。素材の硬度も上げたから動きは前より遅くなっちまったけどな」
「へー、また男らしくなって」
「頑丈じゃないとウルを守れないからな」
ニコッと笑うアース。中身はそのままで安心した。
俺の兄のようなアースは、勿論歳を取らない。こうやって少しずつバージョンアップして変化させるしか見た目を変える事は出来ない。
だから今回の変化は新鮮で少し驚いた。
俺とアースはお互いスピードタイプだった。スタミナが無い分、二人で相手の急所を的確に狙い、一瞬で片をつける戦法。
それが次からはどうなるのか。アースとなら何でもやれそうだけどな。
「兄さんもたくさん食べて大きくならないとね」
「そうだぞ♪ウルもバージョンアップ~」
「…………」
俺より10cmぐらい背の高い二人にニコニコ笑顔で言われて少しムッとした。嫌味にしか聞こえないが、二人はそんな事を言うような奴らじゃねぇ。
文句も言えないので、黙ってやり過ごす事にした。
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