カラフルパレード

pino

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一章

11.研究室と訓練室

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 研究室がある階の廊下を歩く。昨日も歩いた廊下だ。今日はまだ昼間だから白衣を着た人達とすれ違った。
 研究室は何ヶ所かあって、アキト専用の研究室は一番奥にある。三人でずっと歩いて行き、辿り着いた研究室の前で立ち止まる。勿論入るには生体認証が必要だ。ドアの前に行くと勝手にカメラが起動して一瞬で俺を上から下まで写した。そしてやっと中に入る事が出来る。
 同じ手順で二人も入って来る。

 研究室内の実験台の上には何も無かった。

 中にアキトはいなかった。代わりに白衣を着た研究員が数名と、野々山がいた。
 昨日会った時よりも髪型が乱れている野々山には酷い隈が出来ていて、虚な目で俺達を見て来た。


「おや~?三人お揃いで何の用かな~?」

「アキトは?」

「アキトなら休憩に行ったよ。人の事は休まずに働かせる癖に、自分はしっかり休むんだから。本当人使いが荒いったらないよ。あー、何か天井に白いフワフワしたのが見えるなぁ。あれは天使かなぁ?お迎えに来てくれたのかなぁ?」


 天井を見上げながらニヤニヤしてる野々山。俺も天井を見るけど何も無かった。こいつ、不眠不休で相当キテるな。


「なぁ野々山~!ウィルは?」


 そんな野々山に構わずに話し掛ける強者は勿論レオだ。
 研究室内をキョロキョロしながら尋ねていた。


「ウィリアムなら隣の研究室だよ。コアが無事だったから体が直ればまたお世話してもらえるよー」

「まじ!?やったー♪ちょっと俺行ってくる!」


 レオは嬉しそうに部屋から出て行った。
 俺もアースの事を聞いてみよう。
 アースは倒れただけだから無事だろうけど、ここには見当たらないからな。


「野々山、アースは?」

「アースはさっきまでここにいたよ。特に異常は無かったけど、アキトがバージョンアップさせるとかで少しいじってたんだ。アキトが休憩から戻ったら起動実験する予定~。ふあ~」


 ここで野々山が大きな欠伸をした。メガネを外して目を擦っていた。そしてフラフラと歩いてパソコンがある机に座ってキーボードを叩き始めた。
 もういつ倒れてもおかしくないんじゃないか?
 

「良かったね。兄さん」

「ああ。バージョンアップって何したんだろ?」

「役に立つ機能だといいね」

「うん」


 隣にいた蒼司が機嫌良さそうにそう言った。レオがいなくなったからだろう。

 バージョンアップなんかしなくても十分だと思ったけど、性能が上がるならやってもらうに越した事はないか。
 俺と蒼司は起動実験が行われるであろう、訓練室へ行く事にした。

 訓練室はこの研究室の奥の扉の向こうにある。
 そこへ入るにもまた生体認証が必要で、ここに入った時と同じ手順で入る。

 訓練室は、研究室の倍の広さで入ってすぐは研究室と同じような器具や機械がある。そして入ってすぐに目に入るのは全面ガラス張りの壁。そのガラスの向こうが今からアースが起動実験をする場所になっていた。

 ここは俺達、超人も良く使う場所で、今は何も無い部屋だけど、場合によっては訓練の内容に合わせて物を配置する。

 ガラスの向こうに昨日俺が着ていたような白いローブを着たアースが横たわっているのが見えて、少しホッとした。向こう側には専用のマイクを使わないと声は届かない。


「アース……」

「アキト、早く戻って来るといいね」

「そうだな」


 横たわっているアースを見る限りどこか特別変わったようには見えない。実戦に役立つバージョンアップか?何にせよどう変わったのか少し楽しみだった。


「兄さんはアースと仲が良いよね」

「ああ。兄弟が欲しかったからこんな兄貴がいたらいいなって思ってカスタムしたんだ。出来過ぎなぐらいの兄貴になったけどな」

「そっか」

「蒼司のサクラも姉ちゃんみたいでいいじゃん」

「俺はサクラにそういうのは求めてないから。良くも悪くも俺の邪魔にならなければそれでいい。アキトにそう言ってカスタムしてもらったよ」


 蒼司の相棒は女性型で、見た目は大人しそうな感じ。整った顔でスタイルも綺麗な姉ちゃんだ。
 言葉遣いや仕草も丁寧で、大人しい蒼司とお似合いだと思うけど、蒼司本人がこう言うから敢えて口には出さない。

 蒼司は俺とアキト以外には常に冷たい。自分の相棒にさえこの有様だ。

 しばらくして、訓練室のドアが開き、一際目立つ全身黒の髪の長い男が大声と共に入って来た。間違いない。アキトだ。

 
「ウルー♡ここかー!?」


 入って来るなり俺を呼び、目が合うと両手を広げて飛び付いてくるアキト。


「野々山から聞いたよー♪私に会いに来てくれたんだってねー!ウルは本当に可愛いんだからっ♡」

「ア、アキト……みんな引いてるから……」


 訓練室にいた数名の研究員達が気まずい物を見るかのようにしていたからそう言うと、アキトがそれを睨むと、みんなパッと視線を逸らして作業に集中し始めた。
 蒼司は何も言わずに微笑んでいた。
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