カラフルパレード

pino

文字の大きさ
上 下
6 / 44
一章

6.アキト

しおりを挟む

 俺はしばらくレオを抱えながら壊れた天井を見ていた。そして倒れている血まみれの斧男に目を向ける。
 レオがボコボコにしてしまったが、まだ息はあるようだ。レオにあそこまでされて生きていられるなんて普通の人間じゃないだろう。

 そして少し離れた所に倒れているアースを見る。敢えて起こせるか確認しなかったのはレオの為だ。今はレオの側に居てやりたかった。

 それから少しして、エレベーターが動く音がした。侵入者は全員片付いたのか。アキトが帰って来たって言ってたし、他の超人が片付けたのか。
 そしてエレベーターから一人の男が降りてこちらに向かって歩いて来た。

 アキトだ。

 腰まである長い黒い髪を一本に縛り、顎までの長さの前髪を掻き分けて、倒れているアースをチラッと見た。すぐに視線をこちらに戻して再び歩いて来る。
 黒い冬用の上着を肩に掛けてワイシャツのボタンを外しながら長い足でこちらに真っ直ぐ向かって来る。
 すぐ俺の側まで来て立ち止まり、レオを抱き抱える俺を見下ろして来た。鋭い切れ長の目にスッと通った鼻筋。口元の口角は下がっていて無表情。かなりの威圧感があった。


「ア、アキト……」

「ウル、怪我は?」


 そう聞かれたから首を横に振った。
 そしてしゃがんで目線を俺の目線に合わせて来て、俺からレオを乱暴にどけた。

 すると、次にアキトはニッコリ笑って俺を抱き締めた。


「ただいま私のウル♡怖い思いさせて悪かったねー♡」

「……はぁ」


 レオをどかした後、ぎゅーっと思い切り深く俺を抱き締めて来るのはいつもの事だ。
 俺の事を何よりも大事にしていてとにかく大好きらしい。俺からしたらそれがいつものアキトだ。


「レオを残して正解だったね。ウルも良く暴れなかったね♡偉いぞ♡」

「なぁ、ウィルだけど……」

「ウィリアムか。何があったのかは知らないけど、後で監視カメラとウィリアムとアースのデータを見てみるよ。ウィリアムのコアに傷が付いて無ければ良いけど」

「おいアキト!コイツなんなんだよ!もっと殴っていいか!?」


 アキトにどかされたレオは起き上がって倒れている斧男を指差して言った。まだ怒りが収まらないらしい。そりゃそうだろう。ウィルをあんなにしてしまったんだからな。


「もう十分だろ。まだ息があるみたいだからちょうど良い。でかしたぞレオ♪ご褒美あげなきゃだな」

「ご褒美!?なになにー?わーい!」


 アキトの提案にコロッと表情変えて嬉しそうに俺とアキトの周りをくるくる回ってはしゃぐレオ。まるで子供だ。いつものレオに戻ったっちゃ戻ったが、アキトなりの配慮だろう。
 単純なレオを怒りから喜びに興味を向けさせた。そのご褒美とやらも大体は想像がつくけどな……


「そうだなぁ~。ウルが動けるようになるまで私達の部屋で寝泊まりしていいよ♪ご飯もお風呂も寝る時もウルと一緒だよ。君にとってこれ以上のご褒美はないと思うけど」

「アキト様万歳!!よっしゃー!!ウル!!今夜は寝かせないぞー♡」

「やっぱり……」


 アキトに負けず劣らず俺の事を気に入ってるレオだ。喜ぶに決まってる。普段は俺とアキトの部屋に入る事は禁止されてるから尚更だ。
 ウィルはもちろん、アースもメンテナンスするんだろう。お互い人造人間が居なくなるから俺の護衛をレオに、レオの世話を俺にやらせるつもりらしいな。

 きっと今回の件でアキトはしばらく研究室に籠るだろう。

 しばらくしてエレベーターから続々とここの職員達とヒューボット達が降りて来た。荒れた現場を調べて処理する警備隊達と、アースとウィルと今回の元凶の斧男を回収しに来た救急隊員達が来て、騒がしくなった。




 俺とレオはそのままアキトと部屋に戻って来た。アキトは俺達から少し話を聞いてから研究室へ向かうらしい。

 アキトには相棒の人造人間は居ない。代わりに用がある時は俺達超人がお供している。主に俺だ。次に多いのは二番目にやって来た超人だな。

 俺とアキトの部屋のリビングのテーブルに、俺とレオが並んで座り、反対側にアキトが座った。


「それじゃあ軽く話を聞きたいんだけど、まずウルとレオが合流したのはいつ?どこで?」

「現場の近くの食堂だ。アースを連れて飯食ってたらレオとウィルが来た。時間は2時過ぎてた。目が覚めてから医務室で検査受けてから、着替える為に部屋に戻ってその後すぐだ」

「俺はそれまで寝てたぜ。ウィルにレオが起きたって聞いて飛んでったんだ」

「なるほど。レオ、飛んで行ってくれてありがとう。お前がいなかったら大変な事になっていたな」

「確かに、あの武器じゃアースでも勝てるか分からなかったしな」

「きっと無理だろうね。アースはスピード重視で作ってあるから耐久性は無い。ウィリアムと同じ事になっていただろうね」

「なぁ、アキトー、ウィルは元に戻るのか?」

「もちろんコアが破壊されていなければ戻るよ。もし少しでも傷が付いていたら完璧に戻るのは厳しいけどね」

「そっか……」

「レオ、今日は疲れただろう。ウルにうんと甘えるといい」

「おう!」

「もう少し聞きたい事があるんだけど、それは少ししてからにしよう。ウルもゆっくり休みなさい」


 アキトはニッコリ笑って言った。
 確かに俺はともかくレオは疲れてると思う。人よりスタミナはある方だけど、あれだけ動いたら今日はすぐに寝てしまうんじゃないか?
 
 それから少し話してアキトは立ち上がり俺の頭をポンポンと撫でて部屋から出て行った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

体内内蔵スマホ

廣瀬純一
SF
体に内蔵されたスマホのチップのバグで男女の体が入れ替わる話

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ベル・エポック

しんたろう
SF
この作品は自然界でこれからの自分のいい進歩の理想を考えてみました。 これからこの理想、目指してほしいですね。これから個人的通してほしい法案とかもです。 21世紀でこれからにも負けていないよさのある時代を考えてみました。 負けたほうの仕事しかない人とか奥さんもいない人の人生の人もいるから、 そうゆう人でも幸せになれる社会を考えました。 力学や科学の進歩でもない、 人間的に素晴らしい文化の、障害者とかもいない、 僕の考える、人間の要項を満たしたこれからの時代をテーマに、 負の事がない、僕の考えた21世紀やこれからの個人的に目指したい素晴らしい時代の現実でできると思う想像の理想の日常です。 約束のグリーンランドは競争も格差もない人間の向いている世界の理想。 21世紀民主ルネサンス作品とか(笑) もうありませんがおためし投稿版のサイトで小泉総理か福田総理の頃のだいぶん前に書いた作品ですが、修正でリメイク版です。保存もかねて載せました。

【SF短編】エリオの方舟

ミカ塚原
SF
地球全土を襲った二一世紀の「大破局」から、約二〇〇年後の世界。少年エリオ・マーキュリーは世界で施行された「異常才覚者矯正法」に基づいて、大洋に浮かぶ孤島の矯正施設に収容された。無為な労働と意識の矯正を強いられる日々の中で、女性教官リネットとの出会いが、エリオを自らの選択へ導いてゆく。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...