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一章
6.アキト
しおりを挟む俺はしばらくレオを抱えながら壊れた天井を見ていた。そして倒れている血まみれの斧男に目を向ける。
レオがボコボコにしてしまったが、まだ息はあるようだ。レオにあそこまでされて生きていられるなんて普通の人間じゃないだろう。
そして少し離れた所に倒れているアースを見る。敢えて起こせるか確認しなかったのはレオの為だ。今はレオの側に居てやりたかった。
それから少しして、エレベーターが動く音がした。侵入者は全員片付いたのか。アキトが帰って来たって言ってたし、他の超人が片付けたのか。
そしてエレベーターから一人の男が降りてこちらに向かって歩いて来た。
アキトだ。
腰まである長い黒い髪を一本に縛り、顎までの長さの前髪を掻き分けて、倒れているアースをチラッと見た。すぐに視線をこちらに戻して再び歩いて来る。
黒い冬用の上着を肩に掛けてワイシャツのボタンを外しながら長い足でこちらに真っ直ぐ向かって来る。
すぐ俺の側まで来て立ち止まり、レオを抱き抱える俺を見下ろして来た。鋭い切れ長の目にスッと通った鼻筋。口元の口角は下がっていて無表情。かなりの威圧感があった。
「ア、アキト……」
「ウル、怪我は?」
そう聞かれたから首を横に振った。
そしてしゃがんで目線を俺の目線に合わせて来て、俺からレオを乱暴にどけた。
すると、次にアキトはニッコリ笑って俺を抱き締めた。
「ただいま私のウル♡怖い思いさせて悪かったねー♡」
「……はぁ」
レオをどかした後、ぎゅーっと思い切り深く俺を抱き締めて来るのはいつもの事だ。
俺の事を何よりも大事にしていてとにかく大好きらしい。俺からしたらそれがいつものアキトだ。
「レオを残して正解だったね。ウルも良く暴れなかったね♡偉いぞ♡」
「なぁ、ウィルだけど……」
「ウィリアムか。何があったのかは知らないけど、後で監視カメラとウィリアムとアースのデータを見てみるよ。ウィリアムのコアに傷が付いて無ければ良いけど」
「おいアキト!コイツなんなんだよ!もっと殴っていいか!?」
アキトにどかされたレオは起き上がって倒れている斧男を指差して言った。まだ怒りが収まらないらしい。そりゃそうだろう。ウィルをあんなにしてしまったんだからな。
「もう十分だろ。まだ息があるみたいだからちょうど良い。でかしたぞレオ♪ご褒美あげなきゃだな」
「ご褒美!?なになにー?わーい!」
アキトの提案にコロッと表情変えて嬉しそうに俺とアキトの周りをくるくる回ってはしゃぐレオ。まるで子供だ。いつものレオに戻ったっちゃ戻ったが、アキトなりの配慮だろう。
単純なレオを怒りから喜びに興味を向けさせた。そのご褒美とやらも大体は想像がつくけどな……
「そうだなぁ~。ウルが動けるようになるまで私達の部屋で寝泊まりしていいよ♪ご飯もお風呂も寝る時もウルと一緒だよ。君にとってこれ以上のご褒美はないと思うけど」
「アキト様万歳!!よっしゃー!!ウル!!今夜は寝かせないぞー♡」
「やっぱり……」
アキトに負けず劣らず俺の事を気に入ってるレオだ。喜ぶに決まってる。普段は俺とアキトの部屋に入る事は禁止されてるから尚更だ。
ウィルはもちろん、アースもメンテナンスするんだろう。お互い人造人間が居なくなるから俺の護衛をレオに、レオの世話を俺にやらせるつもりらしいな。
きっと今回の件でアキトはしばらく研究室に籠るだろう。
しばらくしてエレベーターから続々とここの職員達とヒューボット達が降りて来た。荒れた現場を調べて処理する警備隊達と、アースとウィルと今回の元凶の斧男を回収しに来た救急隊員達が来て、騒がしくなった。
俺とレオはそのままアキトと部屋に戻って来た。アキトは俺達から少し話を聞いてから研究室へ向かうらしい。
アキトには相棒の人造人間は居ない。代わりに用がある時は俺達超人がお供している。主に俺だ。次に多いのは二番目にやって来た超人だな。
俺とアキトの部屋のリビングのテーブルに、俺とレオが並んで座り、反対側にアキトが座った。
「それじゃあ軽く話を聞きたいんだけど、まずウルとレオが合流したのはいつ?どこで?」
「現場の近くの食堂だ。アースを連れて飯食ってたらレオとウィルが来た。時間は2時過ぎてた。目が覚めてから医務室で検査受けてから、着替える為に部屋に戻ってその後すぐだ」
「俺はそれまで寝てたぜ。ウィルにレオが起きたって聞いて飛んでったんだ」
「なるほど。レオ、飛んで行ってくれてありがとう。お前がいなかったら大変な事になっていたな」
「確かに、あの武器じゃアースでも勝てるか分からなかったしな」
「きっと無理だろうね。アースはスピード重視で作ってあるから耐久性は無い。ウィリアムと同じ事になっていただろうね」
「なぁ、アキトー、ウィルは元に戻るのか?」
「もちろんコアが破壊されていなければ戻るよ。もし少しでも傷が付いていたら完璧に戻るのは厳しいけどね」
「そっか……」
「レオ、今日は疲れただろう。ウルにうんと甘えるといい」
「おう!」
「もう少し聞きたい事があるんだけど、それは少ししてからにしよう。ウルもゆっくり休みなさい」
アキトはニッコリ笑って言った。
確かに俺はともかくレオは疲れてると思う。人よりスタミナはある方だけど、あれだけ動いたら今日はすぐに寝てしまうんじゃないか?
それから少し話してアキトは立ち上がり俺の頭をポンポンと撫でて部屋から出て行った。
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