カラフルパレード

pino

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一章

2.人造人間

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 野々山のいた研究室から出た俺は一人で静まり返った廊下を歩いた。
 大きな窓から見える壮大な景色はとてもリアルだが、全て偽物だ。ここは地下だ。だから草木や大きな湖などがあるのはあり得ない。

 今見えてる窓の外はただの壁で、俺は今リアルに映し出された映像を見ているだけだ。
 時間の感覚を無くさない為に地上の時間や天気と同じように変化するように出来ているこの景色は退屈な日々を過ごす俺の暇つぶしでもあった。

 俺は地上には数回しか行った事が無いから比べようが無いけど、写真や映像などで見る限りは同じ物だった。

 今は夜か……だからこんなに静かなのか。

 いつも研究所には誰かしらいる。こうして歩いてると必ず社員達とすれ違うが、今は誰とも会わない。
 時間が遅いのと、昨日俺が暴れたからだろう。
 野々山と同じで徹夜で後片付けなどにあたっていて今日は休みでももらったんだろうな。

 ペタペタと裸足のまま歩いて行き、同じ階にある医務室に辿り着いた。
 入り口まで行くとドアが勝手に開いて中に入る事が出来た。ドアにカメラが付いていて自動で認識してくれる。勿論登録されていない人は入る事が出来ないようになっている。


「やぁ気分はどうだい?破壊神」

「腹減った」

「うむ!元気そうで何よりだ。早速検査してしまおう」


 中に入ると疲れた顔の医者が俺を見て言った。
 破壊神とはたまにふざけて呼ばれる名前だった。俺が暴走すると何でも壊してしまうからそう呼ばれるようになった。
 ちなみに俺の通り名は「デストロイウルフ」何でも壊してしまう所と、この銀色の髪と瞳でそう呼ばれていた。


「僕は君が起きるまで寝ないで待っていたんだ。いつ目覚めるか分からないからね」
 
「それがアンタの仕事だろ」

「……はい始めるよ。ではまず名前を教えて下さいな」

「ウル・ラミレスだ。知ってんだろーが」

「確認で口頭で聞くってルール、知ってるでしょうが。ほんとに生意気だね君は。まぁいつも通りって事なんだろうけどね」


 ブツブツ喋る医者をシカトして、いつものように診察台の方に移動する。
 この医者の名前はトキ。ガキの頃からそう呼んでる。肩まである黒い髪を前髪ごと一本に縛り、いつも白衣を羽織っている。歳はアキトと野々山と同じだ。三人は大学が同じでそれからずっと一緒に働いているらしい。
 
 ペタペタと歩き、壁を背にして目を閉じて立っている人形の横を通り、診察台にスタンバイすると機械音が鳴り出し、検査が始まった。
 診察台から白いレーザービームのような物がピーと言う音と共に浮かび上がって来て、そのまま俺の体を通って、頭からつま先まで動いて行った。
 今は身長と体重を測っているんだと思う。
 全て終わるまで目を閉じて待つ事にした。


「はーいお疲れ様~。終わったから動いていいよー。ウルくんは今年18歳だよね。少し体重が軽い気もするが……ちゃんと食べてる?まぁ他は異常無いから今はいいけど」


 呑気な声が聞こえて目を開ける。
 数十分寝転がっていただけだった。

 そりゃ散々脳をいじられたらおかしくなるだろうよ。俺が周りより筋肉が少なくて細いのは知ってる。

 それよりもやっと飯が食える。腹が減ってイライラするから無言で起き上がって立ち去ろうとすると、トキが俺に言った。


「そう言えば、第三研究室には行かない方がいいよー。まだ工事中で危ないからね」

「第三?」

「ふぁぁ、さて僕は帰るよ。おはようリビィ……あとは頼んだよ~」


 トキがそう言うと、壁を背にして立っていた人形の目が一瞬光って機械音と共に動き出した。
 

「お任せ下さい。トキ先生」


 ニコッと笑ったこいつはまるで人間のようだった。喋った感じや表情、仕草、更には瞳の輝きまで全てが生きているようだった。だがこいつ、リビィは人形だ。正に人造人間だ。
 人造人間の言語や性格などは持ち主が好きにカスタムする事が出来る。ただし新型のみ。旧型は無表情で動作や口調も機械的だ。
 新型になると、専用のアプリが搭載されていていつでも自由に変更する事が出来るんだ。


「ウルくんは部屋に戻るのかい?」

「いや、食堂に行く。腹減ったから飯食うんだ」

「その格好で?確かに今なら人は少ないけど」

「…………」


 今の俺は野々山の所からずっと全裸に白いローブを羽織ったままの姿だった。仕方ないから部屋に戻って着替えてから行くか。

 そのままトキと別れて、近くのエレベーターを使って部屋に向かった。
 筒形のエレベーターは広くて数十人は入れる広さだ。勿論ここも登録された人しか使えない。ちなみ人造人間も登録されていれば一人で使う事が出来るようになっている。
 俺の部屋は一番下の階にあるからしばらくエレベーターの中で過ごす事になる。

 しばらく待つとエレベーターの扉が開き、目的地に到着した。
 着いたのは広くて暗い空間。ここが俺の部屋だ。キッチンや洗面所、風呂などもあって部屋もいくつかに分かれていて、家みたいになっている。
 ついでに言うと、アキトの部屋でもある。俺とアキトは同じ部屋に住んでいる。

 廊下にあった姿見に映る自分を見る。
 周りに比べて細い体に銀色の髪。そして銀色の瞳。切れ長の鋭い目。何も変わっていない。記憶通りで少しホッとした。

 部屋に一歩足を踏み入れると照明が点いて視界が明るくなった。同時に暗かった窓にも景色が映り出されて、さっきの研究所内で見たような感覚になる。
 奥に進んで自分の部屋に入る。同じく勝手に照明が点いた。
 部屋にはベッドと布団が有り、ベッドの方には人造人間が横たわっている。


「起きろアース」


 クローゼットを開けながら呪文の様に呟くと、ベッドに居た人造人間の瞳が一瞬光ってムクっと起き上がった。


「おう、戻ったのかウル。って何で真っ裸なんだよ」


 ちょうど着替えている時に見られて聞かれた。そうか、アースの記録も消されたか。

 立ち上がって近付いて来る俺の相棒の人造人間は、歳の近い兄貴みたいなカスタムにしてある。理由は簡単で、兄弟が欲しかったからだ。名前はアース。ガキの頃ハマってたアニメに出て来たキャラクターから取って付けた。
 見た目もそのキャラクターに似せて赤い髪に正義感の強そうなしっかりした顔にした。

 基本的にここにいる超人は、人造人間とマンツーマンで行動するように言われている。特に俺は厳しく言われていた。
 アースが部屋にいるって事は今回俺が暴走した時アースはずっとここにいたのか、先にメンテナンスを終えたアースを誰かがここまで運んだかだ。
 この部屋には俺とアースとアキトしか入れないからアキトだな。


「また暴走したらしい。なぁ一緒に飯行こうぜ」

「暴走か……ダメだ。俺のメモリ綺麗に消されてらー」


 記録を辿ってくれたみたいだけど、消されるなんてのは毎回の事でもう慣れた。上の不都合になる事は全部消される。お陰で俺は自分でも知らないような事が起きてたりするもんだ。
 服を着てアースを誘うとニッと笑って付いて来た。

 部屋を出る時に時計を見たら深夜二時を過ぎていた。
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