2 / 44
一章
2.人造人間
しおりを挟む野々山のいた研究室から出た俺は一人で静まり返った廊下を歩いた。
大きな窓から見える壮大な景色はとてもリアルだが、全て偽物だ。ここは地下だ。だから草木や大きな湖などがあるのはあり得ない。
今見えてる窓の外はただの壁で、俺は今リアルに映し出された映像を見ているだけだ。
時間の感覚を無くさない為に地上の時間や天気と同じように変化するように出来ているこの景色は退屈な日々を過ごす俺の暇つぶしでもあった。
俺は地上には数回しか行った事が無いから比べようが無いけど、写真や映像などで見る限りは同じ物だった。
今は夜か……だからこんなに静かなのか。
いつも研究所には誰かしらいる。こうして歩いてると必ず社員達とすれ違うが、今は誰とも会わない。
時間が遅いのと、昨日俺が暴れたからだろう。
野々山と同じで徹夜で後片付けなどにあたっていて今日は休みでももらったんだろうな。
ペタペタと裸足のまま歩いて行き、同じ階にある医務室に辿り着いた。
入り口まで行くとドアが勝手に開いて中に入る事が出来た。ドアにカメラが付いていて自動で認識してくれる。勿論登録されていない人は入る事が出来ないようになっている。
「やぁ気分はどうだい?破壊神」
「腹減った」
「うむ!元気そうで何よりだ。早速検査してしまおう」
中に入ると疲れた顔の医者が俺を見て言った。
破壊神とはたまにふざけて呼ばれる名前だった。俺が暴走すると何でも壊してしまうからそう呼ばれるようになった。
ちなみに俺の通り名は「デストロイウルフ」何でも壊してしまう所と、この銀色の髪と瞳でそう呼ばれていた。
「僕は君が起きるまで寝ないで待っていたんだ。いつ目覚めるか分からないからね」
「それがアンタの仕事だろ」
「……はい始めるよ。ではまず名前を教えて下さいな」
「ウル・ラミレスだ。知ってんだろーが」
「確認で口頭で聞くってルール、知ってるでしょうが。ほんとに生意気だね君は。まぁいつも通りって事なんだろうけどね」
ブツブツ喋る医者をシカトして、いつものように診察台の方に移動する。
この医者の名前はトキ。ガキの頃からそう呼んでる。肩まである黒い髪を前髪ごと一本に縛り、いつも白衣を羽織っている。歳はアキトと野々山と同じだ。三人は大学が同じでそれからずっと一緒に働いているらしい。
ペタペタと歩き、壁を背にして目を閉じて立っている人形の横を通り、診察台にスタンバイすると機械音が鳴り出し、検査が始まった。
診察台から白いレーザービームのような物がピーと言う音と共に浮かび上がって来て、そのまま俺の体を通って、頭からつま先まで動いて行った。
今は身長と体重を測っているんだと思う。
全て終わるまで目を閉じて待つ事にした。
「はーいお疲れ様~。終わったから動いていいよー。ウルくんは今年18歳だよね。少し体重が軽い気もするが……ちゃんと食べてる?まぁ他は異常無いから今はいいけど」
呑気な声が聞こえて目を開ける。
数十分寝転がっていただけだった。
そりゃ散々脳をいじられたらおかしくなるだろうよ。俺が周りより筋肉が少なくて細いのは知ってる。
それよりもやっと飯が食える。腹が減ってイライラするから無言で起き上がって立ち去ろうとすると、トキが俺に言った。
「そう言えば、第三研究室には行かない方がいいよー。まだ工事中で危ないからね」
「第三?」
「ふぁぁ、さて僕は帰るよ。おはようリビィ……あとは頼んだよ~」
トキがそう言うと、壁を背にして立っていた人形の目が一瞬光って機械音と共に動き出した。
「お任せ下さい。トキ先生」
ニコッと笑ったこいつはまるで人間のようだった。喋った感じや表情、仕草、更には瞳の輝きまで全てが生きているようだった。だがこいつ、リビィは人形だ。正に人造人間だ。
人造人間の言語や性格などは持ち主が好きにカスタムする事が出来る。ただし新型のみ。旧型は無表情で動作や口調も機械的だ。
新型になると、専用のアプリが搭載されていていつでも自由に変更する事が出来るんだ。
「ウルくんは部屋に戻るのかい?」
「いや、食堂に行く。腹減ったから飯食うんだ」
「その格好で?確かに今なら人は少ないけど」
「…………」
今の俺は野々山の所からずっと全裸に白いローブを羽織ったままの姿だった。仕方ないから部屋に戻って着替えてから行くか。
そのままトキと別れて、近くのエレベーターを使って部屋に向かった。
筒形のエレベーターは広くて数十人は入れる広さだ。勿論ここも登録された人しか使えない。ちなみ人造人間も登録されていれば一人で使う事が出来るようになっている。
俺の部屋は一番下の階にあるからしばらくエレベーターの中で過ごす事になる。
しばらく待つとエレベーターの扉が開き、目的地に到着した。
着いたのは広くて暗い空間。ここが俺の部屋だ。キッチンや洗面所、風呂などもあって部屋もいくつかに分かれていて、家みたいになっている。
ついでに言うと、アキトの部屋でもある。俺とアキトは同じ部屋に住んでいる。
廊下にあった姿見に映る自分を見る。
周りに比べて細い体に銀色の髪。そして銀色の瞳。切れ長の鋭い目。何も変わっていない。記憶通りで少しホッとした。
部屋に一歩足を踏み入れると照明が点いて視界が明るくなった。同時に暗かった窓にも景色が映り出されて、さっきの研究所内で見たような感覚になる。
奥に進んで自分の部屋に入る。同じく勝手に照明が点いた。
部屋にはベッドと布団が有り、ベッドの方には人造人間が横たわっている。
「起きろアース」
クローゼットを開けながら呪文の様に呟くと、ベッドに居た人造人間の瞳が一瞬光ってムクっと起き上がった。
「おう、戻ったのかウル。って何で真っ裸なんだよ」
ちょうど着替えている時に見られて聞かれた。そうか、アースの記録も消されたか。
立ち上がって近付いて来る俺の相棒の人造人間は、歳の近い兄貴みたいなカスタムにしてある。理由は簡単で、兄弟が欲しかったからだ。名前はアース。ガキの頃ハマってたアニメに出て来たキャラクターから取って付けた。
見た目もそのキャラクターに似せて赤い髪に正義感の強そうなしっかりした顔にした。
基本的にここにいる超人は、人造人間とマンツーマンで行動するように言われている。特に俺は厳しく言われていた。
アースが部屋にいるって事は今回俺が暴走した時アースはずっとここにいたのか、先にメンテナンスを終えたアースを誰かがここまで運んだかだ。
この部屋には俺とアースとアキトしか入れないからアキトだな。
「また暴走したらしい。なぁ一緒に飯行こうぜ」
「暴走か……ダメだ。俺のメモリ綺麗に消されてらー」
記録を辿ってくれたみたいだけど、消されるなんてのは毎回の事でもう慣れた。上の不都合になる事は全部消される。お陰で俺は自分でも知らないような事が起きてたりするもんだ。
服を着てアースを誘うとニッと笑って付いて来た。
部屋を出る時に時計を見たら深夜二時を過ぎていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ベル・エポック
しんたろう
SF
この作品は自然界でこれからの自分のいい進歩の理想を考えてみました。
これからこの理想、目指してほしいですね。これから個人的通してほしい法案とかもです。
21世紀でこれからにも負けていないよさのある時代を考えてみました。
負けたほうの仕事しかない人とか奥さんもいない人の人生の人もいるから、
そうゆう人でも幸せになれる社会を考えました。
力学や科学の進歩でもない、
人間的に素晴らしい文化の、障害者とかもいない、
僕の考える、人間の要項を満たしたこれからの時代をテーマに、
負の事がない、僕の考えた21世紀やこれからの個人的に目指したい素晴らしい時代の現実でできると思う想像の理想の日常です。
約束のグリーンランドは競争も格差もない人間の向いている世界の理想。
21世紀民主ルネサンス作品とか(笑)
もうありませんがおためし投稿版のサイトで小泉総理か福田総理の頃のだいぶん前に書いた作品ですが、修正でリメイク版です。保存もかねて載せました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。
人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。
それに対抗する術は、今は無い。
平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。
しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。
さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。
普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。
そして、やがて一つの真実に辿り着く。
それは大きな選択を迫られるものだった。
bio defence
※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【なろう430万pv!】船が沈没して大海原に取り残されたオッサンと女子高生の漂流サバイバル&スローライフ
海凪ととかる
SF
離島に向かうフェリーでたまたま一緒になった一人旅のオッサン、岳人《がくと》と帰省途中の女子高生、美岬《みさき》。 二人は船を降りればそれっきりになるはずだった。しかし、運命はそれを許さなかった。
衝突事故により沈没するフェリー。乗員乗客が救命ボートで船から逃げ出す中、衝突の衝撃で海に転落した美岬と、そんな美岬を助けようと海に飛び込んでいた岳人は救命ボートに気づいてもらえず、サメの徘徊する大海原に取り残されてしまう。
絶体絶命のピンチ! しかし岳人はアウトドア業界ではサバイバルマスターの通り名で有名なサバイバルの専門家だった。
ありあわせの材料で筏を作り、漂流物で筏を補強し、雨水を集め、太陽熱で真水を蒸留し、プランクトンでビタミンを補給し、捕まえた魚を保存食に加工し……なんとか生き延びようと創意工夫する岳人と美岬。
大海原の筏というある意味密室空間で共に過ごし、語り合い、力を合わせて極限状態に立ち向かううちに二人の間に特別な感情が芽生え始め……。
はたして二人は絶体絶命のピンチを生き延びて社会復帰することができるのか?
小説家になろうSF(パニック)部門にて400万pv達成、日間/週間/月間1位、四半期2位、年間/累計3位の実績あり。
カクヨムのSF部門においても高評価いただき80万pv達成、最高週間2位、月間3位の実績あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる