1 / 44
一章
1.ウルの目覚め
しおりを挟むズキン……
頭の中で何かが動いていて酷く痛かった。
体が動かない。何かで固定されているのか、目を開けてもぼんやりしていて何も見えなかった。
ズキン……
ここはどこだ?声が聞こえる。だけど、何を話しているのかは聞き取れない。
ズキン……
頭が割れそうだ。
ズキン……
痛い痛い痛い!
ズキッ……
次の瞬間、ぼやけた視界が強い光に包まれた。
その強い光の後、頭痛は無くなって頭の中で動いていた何かも無くなった。
すると蘇る記憶。
確か何かに怒っていた気がする。
……何だっけ?
強い光は次第に収まり、鮮明になる視界。
見えたのは見慣れた研究室の天井。
そうか、俺はまた暴走したのか。
暴走したから捕まりここで脳をいじられて、記憶を消されたのか。
俺は確かに生きている。
次々と蘇る記憶。
俺は幼少期からずっとこの研究所に住んでいる。
幼少期からと言うのはそれ以前の記憶が全く無いから分からないだけで、生まれてからずっと住んでいるのかもしれないけど、俺が知っている限りでは幼少期からだ。
この研究所の名前は「Live」。
表向きは地上で使われているAI搭載型ロボット、通称ヒューボットを作ってそれを販売している世界的にも超有名な会社だ。ここはその会社の地下にある裏の部分だ。
裏の顔は人に似せたロボット、人造人間を開発していて、ヒューボットと違って本物の人間のように動くロボットを作っている。
今は我らがグレビリア国のトップである国家元首、代表と呼ばれている人物の管理下にある為、長年やってこれたって訳だ。
ちなみに俺はそのどちらでもない。人間だ。
ただ普通の人間とは少し違う、この世界では「超人」と呼ばれる存在だ。
超人とは文字通り、通常の人間の持つ能力をはるかに超えた能力を持つ人間の事で、それは世界各地に存在した。
俺が発症したのは記憶がある5歳からだ。正確には自分では覚えていないが、俺の今の保護者であるアキトがそう言うから信じるしかない。
Liveの最高責任者はアキトだ。そして俺の叔父だ。本当の親は両方共、俺が1歳の時に事故で亡くなったらしい。それからはアキトの養子になり、今に至る。
そして発症する年齢やタイミングは人によって様々である事が分かっている。能力もバラバラで、大きい物から小さい物まで。中には発症していても気付かないまま一生を終える人もいるとか……
と言っても超人が誕生するのは稀な事で、発症したとしても隠す人がほとんどだろう。さっきも言ったけど、発症する能力はバラバラ。良い能力も悪い能力もあるって事だ。
発症した人間はどこかの研究所へ連れて行かれて何かの実験体にされたりもする。身分の低い人程そうなるから余計に隠すんだ。
この研究所もその一つだ。人造人間を作りながら超人の研究もしている。ただ、他の研究所と違うのは誰でも構わず連れて来ない事。ここにいる超人は何人かいるが、必ず理由があった。
「あ、気が付いた?ウルくん」
俺を名前を呼ぶのは、ここの研究員の一人。男の名前は野々山。優秀な研究員で、家庭用や戦闘型ヒューボットの他にも人造人間の開発にも携わっている男。この地下のサブリーダーだ。アキトがいない時の責任者は野々山になる。
「おい、これ外せよ」
「こわーい。てかそれが人に物を頼む態度?少しは大人しくしてくれないかな」
「なぁアキトは?どこにいんの?」
「アキトなら外出中だよ。戻るまで君をこうしておくよう言われているんだ。だから我慢してね~」
野々山は寝癖の付いた白髪混じりの髪をかき上げて眠そうに欠伸をしていた。どうやら徹夜で俺をいじってたらしいな。眼鏡を外して椅子に座ってコーヒーを飲み始めた。
ちなみにアキトと同い年で35歳のはずだが、アキトより老けて見える。逆にアキトは実年齢より若く見えるけどな。
アキトは、表では世界中に名前を轟かせている有名な科学者だ。多分アキトを知らない人はいないだろう。
俺は何も出来ずにただ天井を見ていた。
きっと俺を拘束している物なら簡単に壊せる。だけどそんな事する気なんか起きなかった。今は頭に装置が付いてるからだ。
その装置は俺の頭の中に信号を送るらしく、それをやられると動けなくなるからだ。
力が抜けて酷い時は気を失う。
ちなみに俺が暴走した時はコレを毎回やられるんだ。頭に装置を付けられて脳に信号とやらを送り、直前の記憶を操作して消去する。どんな仕組みかは俺は知らないけど、綺麗に消されるらしく、暴走した時の事を思い出した事は無い。
面倒くせーけど、アキトの帰りを待つか。
「なぁいつ戻ってくるんだ?腹減ったんだけど」
「さぁね。さっき出てったから今日は帰ってくるか分からないよ」
「はぁ?何だよそれ!くそっ」
「本当にやんちゃだなぁ君は。仕方ないから電話してあげる。ウル君を自由にしていいか聞いてみるから待ってて」
野々山は呆れながらアキトに電話をかけていた。
幸い、こういった人の記憶やその人に対しての感情などは消されたりしないからマシだ。いや、消されていたとしても覚えていないんだから分からないけどな。
幼い頃に今と同じように暴走した事があり、その時もすぐに捕まって頭をいじられたんだけど、その時は初めての実験だったので、失敗して全ての記憶が消えた。らしい。
だからその前の記憶が一切俺には無い。
にしても腹が減った。暴れる前の俺って何も食って無かったのか?俺には暴れる直前の記憶が無いから何をしていたのかも分からない。
そんな事をぼんやり考えていると、電話を終えた野々山が近寄って来た。首だけ動かしてそっちを見てみると、忌々しい黒い金属の首輪を持っていた。
「ちっ、条件付きか」
「当たり前だろー?ウルくんが暴れたら止められる人なんていないんだから」
「飯が食えれば何でもいいや」
野々山に首輪を着けられてる間大人しくしていた。
この首輪は肌にピッタリ張り付くタイプで、犬に付ける首輪みたいな物。素材は黒い金属で出来てる。自分では外せないようになっていて、GPSか何かが付いていて、すぐに俺を探し出せるようになっていた。
万が一俺が暴れたりしたら首輪から催眠薬が分泌されて俺はまたこの部屋に送られる仕組みになっているクソみたいな代物だ。
「一応アキトの許可は出たけど、ご飯食べる前に医務室で身体チェック受けてね。受けたら俺にデータが来るようにしておくから、そのままご飯食べていいよ」
「へいへい」
首輪を着けられた後、体を拘束していた物も外されて、頭にあった機械も取られた。
やっと自由に動けるようになって体を起こすと、少し目眩がした。
全裸だった俺に野々山が白いローブのような物を掛けた。
「分かってると思うけど、二日間は激しい運動は出来ないよ。なんせ脳をいじられてるんだからね」
「じゃあな」
寝転がっていた台から降りて自動ドアを通って外に出る。
そこは変わらないいつも通りの研究所内だった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。
人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。
それに対抗する術は、今は無い。
平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。
しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。
さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。
普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。
そして、やがて一つの真実に辿り着く。
それは大きな選択を迫られるものだった。
bio defence
※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?
俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。
この他、
「新訳 零戦戦記」
「総統戦記」もよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる