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一章
1.ウルの目覚め
しおりを挟むズキン……
頭の中で何かが動いていて酷く痛かった。
体が動かない。何かで固定されているのか、目を開けてもぼんやりしていて何も見えなかった。
ズキン……
ここはどこだ?声が聞こえる。だけど、何を話しているのかは聞き取れない。
ズキン……
頭が割れそうだ。
ズキン……
痛い痛い痛い!
ズキッ……
次の瞬間、ぼやけた視界が強い光に包まれた。
その強い光の後、頭痛は無くなって頭の中で動いていた何かも無くなった。
すると蘇る記憶。
確か何かに怒っていた気がする。
……何だっけ?
強い光は次第に収まり、鮮明になる視界。
見えたのは見慣れた研究室の天井。
そうか、俺はまた暴走したのか。
暴走したから捕まりここで脳をいじられて、記憶を消されたのか。
俺は確かに生きている。
次々と蘇る記憶。
俺は幼少期からずっとこの研究所に住んでいる。
幼少期からと言うのはそれ以前の記憶が全く無いから分からないだけで、生まれてからずっと住んでいるのかもしれないけど、俺が知っている限りでは幼少期からだ。
この研究所の名前は「Live」。
表向きは地上で使われているAI搭載型ロボット、通称ヒューボットを作ってそれを販売している世界的にも超有名な会社だ。ここはその会社の地下にある裏の部分だ。
裏の顔は人に似せたロボット、人造人間を開発していて、ヒューボットと違って本物の人間のように動くロボットを作っている。
今は我らがグレビリア国のトップである国家元首、代表と呼ばれている人物の管理下にある為、長年やってこれたって訳だ。
ちなみに俺はそのどちらでもない。人間だ。
ただ普通の人間とは少し違う、この世界では「超人」と呼ばれる存在だ。
超人とは文字通り、通常の人間の持つ能力をはるかに超えた能力を持つ人間の事で、それは世界各地に存在した。
俺が発症したのは記憶がある5歳からだ。正確には自分では覚えていないが、俺の今の保護者であるアキトがそう言うから信じるしかない。
Liveの最高責任者はアキトだ。そして俺の叔父だ。本当の親は両方共、俺が1歳の時に事故で亡くなったらしい。それからはアキトの養子になり、今に至る。
そして発症する年齢やタイミングは人によって様々である事が分かっている。能力もバラバラで、大きい物から小さい物まで。中には発症していても気付かないまま一生を終える人もいるとか……
と言っても超人が誕生するのは稀な事で、発症したとしても隠す人がほとんどだろう。さっきも言ったけど、発症する能力はバラバラ。良い能力も悪い能力もあるって事だ。
発症した人間はどこかの研究所へ連れて行かれて何かの実験体にされたりもする。身分の低い人程そうなるから余計に隠すんだ。
この研究所もその一つだ。人造人間を作りながら超人の研究もしている。ただ、他の研究所と違うのは誰でも構わず連れて来ない事。ここにいる超人は何人かいるが、必ず理由があった。
「あ、気が付いた?ウルくん」
俺を名前を呼ぶのは、ここの研究員の一人。男の名前は野々山。優秀な研究員で、家庭用や戦闘型ヒューボットの他にも人造人間の開発にも携わっている男。この地下のサブリーダーだ。アキトがいない時の責任者は野々山になる。
「おい、これ外せよ」
「こわーい。てかそれが人に物を頼む態度?少しは大人しくしてくれないかな」
「なぁアキトは?どこにいんの?」
「アキトなら外出中だよ。戻るまで君をこうしておくよう言われているんだ。だから我慢してね~」
野々山は寝癖の付いた白髪混じりの髪をかき上げて眠そうに欠伸をしていた。どうやら徹夜で俺をいじってたらしいな。眼鏡を外して椅子に座ってコーヒーを飲み始めた。
ちなみにアキトと同い年で35歳のはずだが、アキトより老けて見える。逆にアキトは実年齢より若く見えるけどな。
アキトは、表では世界中に名前を轟かせている有名な科学者だ。多分アキトを知らない人はいないだろう。
俺は何も出来ずにただ天井を見ていた。
きっと俺を拘束している物なら簡単に壊せる。だけどそんな事する気なんか起きなかった。今は頭に装置が付いてるからだ。
その装置は俺の頭の中に信号を送るらしく、それをやられると動けなくなるからだ。
力が抜けて酷い時は気を失う。
ちなみに俺が暴走した時はコレを毎回やられるんだ。頭に装置を付けられて脳に信号とやらを送り、直前の記憶を操作して消去する。どんな仕組みかは俺は知らないけど、綺麗に消されるらしく、暴走した時の事を思い出した事は無い。
面倒くせーけど、アキトの帰りを待つか。
「なぁいつ戻ってくるんだ?腹減ったんだけど」
「さぁね。さっき出てったから今日は帰ってくるか分からないよ」
「はぁ?何だよそれ!くそっ」
「本当にやんちゃだなぁ君は。仕方ないから電話してあげる。ウル君を自由にしていいか聞いてみるから待ってて」
野々山は呆れながらアキトに電話をかけていた。
幸い、こういった人の記憶やその人に対しての感情などは消されたりしないからマシだ。いや、消されていたとしても覚えていないんだから分からないけどな。
幼い頃に今と同じように暴走した事があり、その時もすぐに捕まって頭をいじられたんだけど、その時は初めての実験だったので、失敗して全ての記憶が消えた。らしい。
だからその前の記憶が一切俺には無い。
にしても腹が減った。暴れる前の俺って何も食って無かったのか?俺には暴れる直前の記憶が無いから何をしていたのかも分からない。
そんな事をぼんやり考えていると、電話を終えた野々山が近寄って来た。首だけ動かしてそっちを見てみると、忌々しい黒い金属の首輪を持っていた。
「ちっ、条件付きか」
「当たり前だろー?ウルくんが暴れたら止められる人なんていないんだから」
「飯が食えれば何でもいいや」
野々山に首輪を着けられてる間大人しくしていた。
この首輪は肌にピッタリ張り付くタイプで、犬に付ける首輪みたいな物。素材は黒い金属で出来てる。自分では外せないようになっていて、GPSか何かが付いていて、すぐに俺を探し出せるようになっていた。
万が一俺が暴れたりしたら首輪から催眠薬が分泌されて俺はまたこの部屋に送られる仕組みになっているクソみたいな代物だ。
「一応アキトの許可は出たけど、ご飯食べる前に医務室で身体チェック受けてね。受けたら俺にデータが来るようにしておくから、そのままご飯食べていいよ」
「へいへい」
首輪を着けられた後、体を拘束していた物も外されて、頭にあった機械も取られた。
やっと自由に動けるようになって体を起こすと、少し目眩がした。
全裸だった俺に野々山が白いローブのような物を掛けた。
「分かってると思うけど、二日間は激しい運動は出来ないよ。なんせ脳をいじられてるんだからね」
「じゃあな」
寝転がっていた台から降りて自動ドアを通って外に出る。
そこは変わらないいつも通りの研究所内だった。
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