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1章
全部一人で抱え込むんじゃねぇ
しおりを挟む藤野の衝撃的な中学の頃の話を聞いてイライラが募った俺は、ただポテトをひたすら食べるしか出来なかった。
そんな俺に藤野は元気なさそうにボソッと言った。
「こんな話してごめん。秋山はずっと俺の事を気にしててくれてるから、話しておいた方がいいと思ったんだ」
「謝るな!」
「……うん」
「あのよぉ、俺は気の使える奴じゃねぇからろくな事言えねぇけど、お前はお前のままでいろよ。周りが何て言っても堂々としてろ。どうしても気になるなら偽ったっていい。俺はお前が良い奴だって知ってるからよ」
「秋山……うう……」
「だから偽ったとしても俺だけには今みたいに本音でぶつかって来い。そしたら全部受け止めてやるから。一緒に笑って一緒に怒ってやる。全部一人で抱え込むんじゃねぇ。俺みてぇに誰かに投げちまえ」
藤野は俯いて肩を震わせて声を殺して泣いていた。
俺はずっと藤野が落ち着くまで話題を変えていろいろな事を話し続けた。泣いている藤野から返って来る言葉は無かったけど、それでも俺は話し続けた。
さっき俺が藤野の話を聞いていたように、多分だけど藤野も黙って俺の話を聞いていた。
今はこれぐれぇしか出来ねぇ。ってか思いつかねぇんだ。
でも俺だったら自分が泣くぐらい辛い時は誰かに側にいて欲しいと思うし、黙ってて欲しくないんだ。何でも良いから言葉が欲しい。それだけで俺は一人じゃないって思えるから。
「でよ、戸塚んちで直登の誕生会やった時に俺と空でセーラー服のコスプレ衣装を買ってったんだわ。直登のプレゼントでだぜ?それが何故か俺が着る羽目になってさ~」
「……はは、それ見たかったな。秋山なら似合うだろうな」
時間が経って落ち着き始めたのか、藤野は俺の話に返事を返すようになった。
「似合うぜ?似合うけど、最悪なのはその後だ!直登と空が喧嘩しちまって、慌てて戸塚んち出て空と2ケツしたんだけどよ、俺コスプレしたまま出ちゃったんだわ!今なら笑えるけど、あん時はヤバかったな~!」
「本当、秋山って面白いな。みんなに愛される訳だ」
「そうでもねぇって。学年主任とか俺見るとすげぇ嫌な顔して来るんだぜ?あのバーコード野郎、あいつとは何があっても仲良くなれねぇ!」
「バーコードって……あの人あれでも高い育毛剤使ってるって聞いた事あるよ。まるで効果ないってみんなで話してたよ」
「何だそりゃ!良い事聞いたな!今度オススメの育毛剤探してやっか!」
「いいけど、くれぐれも俺の名前は出さないでくれよな~?」
「あ?まだ目立ちたくねぇとか思ってんのかよ。まぁ藤野が言うならいいけどさ」
「思うよ。目立ってまた変な噂が流れでもしたら嫌だからね」
「噂ね~。じゃあ俺とはいねぇ方がいいかもな」
藤野の話を聞いたらますますそう思った。
俺はそんなつもりはねぇけど、俺の周りにやたら人寄ってくるもんな。それも揃いも揃って変な奴らばっか。そんな中にいたら嫌でも目立っちまう。
俺が言う事に藤野は少し考えているようだった。
「……そうだね。でも、秋山とはこれからも仲良くしたいと思うんだ。偽りの俺としてじゃなくて、本当の俺としてね」
「あ?どっちだよ。俺は俺のまま変えるつもりはねぇぞ。俺と仲良くしてぇなら目立つの我慢するしかねぇぞ」
「うん……我慢してみるよ」
いやいや、すげぇ自信なさげじゃん。無理する事ねぇのにな。俺は藤野とは一緒にいなくても仲良くするつもりだ。教室ではたまに話すとかでもいいと思ってるし、前に紘夢んちでテニスやった時みてぇに外で遊べば目立たねぇだろ。
「無理すんなって。たまに休みの日とか遊ぼうぜ」
「……あ」
「ん?」
「今更だけど、下の名前で呼んでもいいか?」
「いいけど?」
「……貴哉」
「はい?」
「…………」
「呼んだだけ?」
「うん」
「あはは!マジで何なの?心って面白いのな」
「貴哉には負けるけどね。俺、貴哉といたら変われるかな?」
「変わる必要ねぇって。お前はお前のままでいろって言ってんだろ」
「そうじゃなくて、良い方にだよ。貴哉みたいに人目も気にせず振る舞えるようになりたいなって」
「それは良い事だけど、俺みてぇのにってのは辞めとけ。もれなく学年主任の恨み買うからな!」
そこで俺と藤野は大きな声で笑い合った。
まるで初めから仲の良かった友達のように。
俺と藤野は球技大会がきっかけで話すようになったけど、今日初めてちゃんと友達になれた気がした。
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