未熟な欠片たち

pino

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2章

ファミレス

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 澪も合流して三人でショッピングセンターに来た。
 三人が揃ってどこかに出掛けるのは久しぶりだった。


「ねぇねぇ!この浴衣どうかな!?」

「おー水色とか涼しげー。似合うじゃん」

「澪は明るい色が似合うよね」

「二人ともお祭りとか行きたいなぁ♪やっぱり二人といると楽しいもん♪」


 水色の浴衣を手に取って嬉しそうにクルクル回る澪。
 

「てかお前バイト入れ過ぎじゃね?遊び誘ってもいつもバイトって言うじゃん」

「食費稼がなきゃだからね!」

「他にもシフト多くしてる理由あるだろー?」

「どんな理由なの?」

「弘樹に言ってねぇの?」

「言ったよー。好きな人出来たーって♪ね?」

「ああ、大学生の人か。その人がいるからバイトたくさん入れてるんだ」

「それもあるかなぁ。佐倉さんといるとね、楽しくて幸せになれるのぉ♡二人にも会わせてあげたいなぁ♡」

「佐倉さんって今日何時までいるんだ?夕飯食べに行こうぜ。弘樹大丈夫だろ?」

「俺は大丈夫だけど、澪は?」

「もちろん行くー♡早く会いたいなぁ♡」


 いつもの澪に、俺と弘樹は顔を合わせて笑い合った。澪に相応しい男か見定めてやらねぇとな!

 そして俺達はそれぞれの買い物を済ませてショッピングセンターを出て目的地のファミレスへ向かう。


「ところで夏樹、今日律くんはー?一緒に買い物とかしないの?」

「あいつ風邪で寝てんだよ。午前中見舞いに行ったけど、すげー辛そうだった」

「嘘!夏の風邪は長引くって言うもんね~。早く良くなるといいね」

「薬飲ませて寝かせたから大丈夫だろ。夜も様子見に行くけどな」

「いいなぁ♡俺も早く佐倉さんの家に行きたーい♡」

「まずは告白だろ」


 澪の妄想が始まった。俺と弘樹はやれやれと笑う。
 
 そして俺達はまだ少し夕飯には早い時間だったけど、佐倉さんに会う為にファミレスに向かった。
 澪の話だと、今日佐倉さんは17時までのシフトらしい。
 何だかんだ澪のバイト先に行くのは初めてだった。どうせなら働いてる澪を見たかったけど、それはまた今度。今日は佐倉さんだ。

 店内に入ると、俺らと同世代っぽい女の店員が澪に気付いて手を振った。


「澪ちゃんお疲れ様ー♪ご飯食べに来たのー?」

「ららちゃんお疲れー♪うん!友達連れて来たのー♡夏樹とヒロくん!よろしくねー」

「うわ、凄いイケメン!」


 店員は俺と弘樹を交互に見て言った。澪と仲良さそうだな。職場の人とは上手くやってるみたいで安心した。


「そうでしょー?二人共自慢の親友なの~♡ところでさ、佐倉さんまだいる?」

「佐倉さんならさっき上がってたけど、まだ裏にいるんじゃないかな?」

「ほんと!?ちょっと行って来る!あ、ららちゃん、二人を席に連れてってあげて♪」

「りょうかーい♪こちらどうぞー♡」


 ニッコリ笑うららちゃんは明るい茶髪のボブで、薄いメイクの明るい感じの今時の女の子。案内された席に座ってメニューを見ながら澪を待つ事にした。


「澪、楽しそうだな。良かった良かった」

「そうだね。澪なら大丈夫だとは思ってたけど」

「あいつのコミュ力はすげぇもんな。どんな奴とでもすぐ仲良くなっちまうんだもん」

「あはは、ほんと面白いよね澪って」


 笑ってる弘樹と目が合って、何故かさっき家で澪が来るまでの事を思い出してしまった。
 恥ずかしくなって顔を背けると弘樹は寂しそうに言った。


「あんな事して本当にごめん。俺のせいで気まずくなっちゃったよね」

「俺もごめん。弘樹の気持ちは分かってたけど、いざああいうのされると、ほら……意識しちゃうだろ?」

「うん。ごめん……あれ?意識してくれてるの?」

「そりゃ、するだろ」

「なんか嬉しい。夏樹は俺の事、なんとも思ってないのかと思ってたから」

「んな訳あるかっ!弘樹は澪とは違うだろー?澪にされたとかなら笑ってやり過ごせるけどよ」

「……夏樹、もしかして俺にもチャンスあるのかな?」

「え?なんて?」


 どういう意味なのか分からず、弘樹の目を見て聞き返すと、弘樹は真面目な顔で真っ直ぐに俺を見ていた。少し恥ずかしそうなその顔は今では見なくなった昔の弘樹みたいだった。
 と、ここで澪が戻って来て俺達は慌てていつも通りを演じる。が、澪にはバレた。


「佐倉さん今ご飯食べてるから、食べ終わったら来てくれるって♡っていうか何ー?この甘い空気はー?えー、二人ってそういう仲だっけぇ?」


 ニヤニヤしながら俺の隣の席に座る澪。
 そんな空気出てたか?全然気付かなくて焦った。弘樹はというと、すっかりいつもの落ち着いた様子に戻っていた。


「別に普通にメニュー見てただけだ。佐倉さん来るまで俺達も何か頼もうぜー」

「まぁ俺は二人が仲良いの嬉しいけどね♪ヒロくんもずっと我慢してたけど、とうとう限界かぁ」

「澪?茶化すなよ。佐倉さん来たら覚えてろよ」


 まだ続ける澪にそれを睨む弘樹。
 いつも温厚な弘樹だけど、悪ふざけが過ぎる澪には厳しいからなぁ。


「ほら二人共選べってー!」


 せっかく三人が揃ったし、俺は楽しく過ごしたかったから場をまとめていつものように振る舞う事にした。
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