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2章
弱った律
しおりを挟む夏休みに入って一週間が過ぎた。
律と計画していた旅行まであと三日。ここで律にある異変が起きた。どうやら体調を崩したらしく、起き上がれないらしい。風邪とか言ってたけど、あいつ一人だし大丈夫かな?俺は心配だから様子を見に行く事にした。
律のマンションの入り口でインターフォンを鳴らす。応答無し。
倒れてたりしないよな?
仕方ないから電話を掛けて鍵を開けてもらおうとする。
すると凄く辛そうな律が出た。
『はぁはぁ……ごめ、寝てた……』
「いや、起こして悪かったよ。見舞いに来たんだけど、大丈夫か?」
『ちょっとダメかも……朝起きたら熱上がってて』
「今下にいるんだけど、開けてくんね?いろいろ差し入れ持って来たんだ」
『え!来てくれたの?もしかしてさっきのそうだったの?……でも風邪だったら移しちゃうかもだし……』
「気にすんなよ。すげぇ辛そうだし、心配だから看病させてくれよ」
『……分かった。今開けるね』
かすれた声でやっと話してる感じだった。
無理させても悪いし、何か食べてもらって、薬飲ませて帰ろう。
一人で律の住む部屋まで行って、そこでまたインターフォンを鳴らすと、しばらくしてマスクを付けた律が現れた。目は虚でフラフラしてる。
こりゃまずいな。
「夏樹、来てくれてありがとう……ゴホゴホ……」
「お前ヤバいじゃん!起こしちゃって悪かったな。とりあえずベッド戻ろう!」
俺が支えようとすると、首を振って自分でフラフラと歩き始めた。
「夏樹に移したくないから……」
「俺は平気だから。あ、ご飯食べたか?簡単な物買って来たけど」
「昨日の朝から食べてない。食欲無くて」
「そんなんじゃ治るもんも治らないだろ!お粥作るからそれ食べて薬飲め。そしたら俺帰るから」
「……うん。分かった」
元気無さそうに、俺の言ってる事が本当に分かっているのがずっと俯いてボーッとしてる律。
律をベッドに戻して、俺はキッチンに立ち買って来たレトルトのお粥を用意して水と薬を持って律がいる寝室に向かった。
いつも笑顔で爽やかに振る舞う律が弱ってる姿を見て、初めは動揺したけど、律には俺しかいないと思ったらほっとけなくなった。
部屋に入った俺に気付いた律は体を起こして薄く笑った。
「夏樹にこんな姿見せたくなかったな。かっこ悪い」
「何言ってるんだよ。とにかく今は食べて薬飲んで寝て休め。少し良くなったら病院行こう」
「あはは、薬飲めば大丈夫でしょ。これ、夏樹が買って来てくれたの?」
「ドラッグストアで買ったんだ。症状が良く分からなかったから、総合風邪薬にしたんだけど、間違って無かったみたいだな」
見た所、熱、喉、咳全て当てはまってるみたいだし。本当にただの風邪ならこれで少しは良くなるだろ。
「お金、カウンターにある財布から取って行っていいからね。ありがとう夏樹」
「もー気にするなって。お粥、食べられるか?あーんしてやるよ」
「わーい。食べさせてー」
無理をしているのか、俺に向かって口を開ける律。お粥を食べさせてあげると、ゆっくりだけど、ちゃんと噛んで飲み込んでいた。
「お粥って普段食べないけど、こういう時に食べると凄く美味しいんだね」
「美味しいって分かるなら大丈夫そうだな」
律の感想に少しホッとして、そこからはあまり喋らずに食べさせてあげた。半分食べた所で律に謝られて食べさせるのを辞めた。
無理して全部食べても良くないしな。そして律は薬を飲んでベッドに横になる。俺は買って来たおでこに貼る冷えたシールを貼ってあげた。
その時に律に触れたけど、想像以上に熱くて驚いた。
「冷たくて気持ちいい」
「お前熱がすげぇじゃん。もう帰るからゆっくり休めよ」
「……何か寂しいな」
「可愛い事言うじゃん。律が寝付くまでいてやる」
「ほんと?ありがとう」
ベッドの横に椅子を持って来て座り、律の手を握ってやる。その握った手も熱くて可哀想になった。早く熱下がるといいな。
「不思議だね。夏樹に移したくない気持ちはあるんだけど、こういう時って側にいて欲しいって思っちゃうんだね」
「弱ってるからな。自然と誰かを頼りたくなるのかもな」
「夏樹がいてくれて本当に良かった。大好きだよ」
「俺も。ほらもう黙って寝ろって」
「うん……」
そのあと律は目を閉じてすぐに寝息を立てた。
律の熱っぽい寝顔が体調不良を物語っていて、いつもと違うその姿に俺はしばらく眺めて過ごした。こんな時でも綺麗な顔して眠るんだな。
キスしたくなったけど、今日は我慢だ。
そして俺は律の手をそっと離して部屋を出た。
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