未熟な欠片たち

pino

文字の大きさ
上 下
48 / 52
2章

弱った律

しおりを挟む

 夏休みに入って一週間が過ぎた。
 律と計画していた旅行まであと三日。ここで律にある異変が起きた。どうやら体調を崩したらしく、起き上がれないらしい。風邪とか言ってたけど、あいつ一人だし大丈夫かな?俺は心配だから様子を見に行く事にした。

 律のマンションの入り口でインターフォンを鳴らす。応答無し。
 倒れてたりしないよな?
 仕方ないから電話を掛けて鍵を開けてもらおうとする。
 すると凄く辛そうな律が出た。


『はぁはぁ……ごめ、寝てた……』

「いや、起こして悪かったよ。見舞いに来たんだけど、大丈夫か?」

『ちょっとダメかも……朝起きたら熱上がってて』

「今下にいるんだけど、開けてくんね?いろいろ差し入れ持って来たんだ」

『え!来てくれたの?もしかしてさっきのそうだったの?……でも風邪だったら移しちゃうかもだし……』

「気にすんなよ。すげぇ辛そうだし、心配だから看病させてくれよ」

『……分かった。今開けるね』


 かすれた声でやっと話してる感じだった。
 無理させても悪いし、何か食べてもらって、薬飲ませて帰ろう。

 一人で律の住む部屋まで行って、そこでまたインターフォンを鳴らすと、しばらくしてマスクを付けた律が現れた。目は虚でフラフラしてる。
 こりゃまずいな。
 

「夏樹、来てくれてありがとう……ゴホゴホ……」

「お前ヤバいじゃん!起こしちゃって悪かったな。とりあえずベッド戻ろう!」


 俺が支えようとすると、首を振って自分でフラフラと歩き始めた。


「夏樹に移したくないから……」

「俺は平気だから。あ、ご飯食べたか?簡単な物買って来たけど」

「昨日の朝から食べてない。食欲無くて」

「そんなんじゃ治るもんも治らないだろ!お粥作るからそれ食べて薬飲め。そしたら俺帰るから」

「……うん。分かった」


 元気無さそうに、俺の言ってる事が本当に分かっているのがずっと俯いてボーッとしてる律。
 律をベッドに戻して、俺はキッチンに立ち買って来たレトルトのお粥を用意して水と薬を持って律がいる寝室に向かった。

 いつも笑顔で爽やかに振る舞う律が弱ってる姿を見て、初めは動揺したけど、律には俺しかいないと思ったらほっとけなくなった。
 部屋に入った俺に気付いた律は体を起こして薄く笑った。


「夏樹にこんな姿見せたくなかったな。かっこ悪い」

「何言ってるんだよ。とにかく今は食べて薬飲んで寝て休め。少し良くなったら病院行こう」

「あはは、薬飲めば大丈夫でしょ。これ、夏樹が買って来てくれたの?」

「ドラッグストアで買ったんだ。症状が良く分からなかったから、総合風邪薬にしたんだけど、間違って無かったみたいだな」


 見た所、熱、喉、咳全て当てはまってるみたいだし。本当にただの風邪ならこれで少しは良くなるだろ。
 

「お金、カウンターにある財布から取って行っていいからね。ありがとう夏樹」

「もー気にするなって。お粥、食べられるか?あーんしてやるよ」

「わーい。食べさせてー」


 無理をしているのか、俺に向かって口を開ける律。お粥を食べさせてあげると、ゆっくりだけど、ちゃんと噛んで飲み込んでいた。


「お粥って普段食べないけど、こういう時に食べると凄く美味しいんだね」

「美味しいって分かるなら大丈夫そうだな」



 律の感想に少しホッとして、そこからはあまり喋らずに食べさせてあげた。半分食べた所で律に謝られて食べさせるのを辞めた。
 無理して全部食べても良くないしな。そして律は薬を飲んでベッドに横になる。俺は買って来たおでこに貼る冷えたシールを貼ってあげた。
 その時に律に触れたけど、想像以上に熱くて驚いた。


「冷たくて気持ちいい」

「お前熱がすげぇじゃん。もう帰るからゆっくり休めよ」

「……何か寂しいな」

「可愛い事言うじゃん。律が寝付くまでいてやる」

「ほんと?ありがとう」


 ベッドの横に椅子を持って来て座り、律の手を握ってやる。その握った手も熱くて可哀想になった。早く熱下がるといいな。


「不思議だね。夏樹に移したくない気持ちはあるんだけど、こういう時って側にいて欲しいって思っちゃうんだね」

「弱ってるからな。自然と誰かを頼りたくなるのかもな」

「夏樹がいてくれて本当に良かった。大好きだよ」

「俺も。ほらもう黙って寝ろって」

「うん……」


 そのあと律は目を閉じてすぐに寝息を立てた。
 律の熱っぽい寝顔が体調不良を物語っていて、いつもと違うその姿に俺はしばらく眺めて過ごした。こんな時でも綺麗な顔して眠るんだな。
 キスしたくなったけど、今日は我慢だ。

 そして俺は律の手をそっと離して部屋を出た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の入る余地なんてないことはわかってる。だけど……。

さくしゃ
恋愛
キャロルは知っていた。 許嫁であるリオンと、親友のサンが互いを想い合っていることを。 幼い頃からずっと想ってきたリオン、失いたくない大切な親友であるサン。キャロルは苦悩の末に、リオンへの想いを封じ、身を引くと決めていた——はずだった。 (ああ、もう、) やり過ごせると思ってた。でも、そんなことを言われたら。 (ずるいよ……) リオンはサンのことだけを見ていると思っていた。けれど——違った。 こんな私なんかのことを。 友情と恋情の狭間で揺れ動くキャロル、リオン、サンの想い。 彼らが最後に選ぶ答えとは——? ⚠️好みが非常に分かれる作品となっております。

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

スタートライン

もちだ すしの
BL
入学式の日に超イケメンモテモテ男子に一目惚れされ溺愛される高校生の王道ラブストーリー

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

処理中です...