28 / 52
1章
律と父親
しおりを挟むお風呂から上がって二人でソファに座り点けたらたまたまやっていたお笑いのテレビを観ていた。
俺はこういうの好きだけど、律はたまに笑うぐらいでずっと俺に張り付いてたまにキスして来たりしていた。まぁ律がお笑いとか見てるイメージないけどな。
「夏樹ってさ、可愛いよね」
「へ?いきなりなんだよ」
「こんなに綺麗な見た目なのに、喋ると普通の男の子なんだもん。テレビの芸人さんを見て笑ってる夏樹を見て笑っちゃったよ」
「お前、テレビじゃなくて俺を見て笑ってたのか?」
「そうだよ。俺、夏樹以外に興味ないからね」
真っ直ぐに俺を見て女子なら気絶するようなセリフをサラッと言える律。こっちが恥ずかしくなるような事をいつも普通の顔して言うけど、本当の事だから驚くよ。
律みたいなイケメンにかなり好かれてる俺は周りからしたら羨ましい存在に見えるだろう。
だけど、実際律はかなりのヤキモチ焼きだし、甘えん坊だし、少食で不健康だし、それに家庭環境も不安定だから接し方も慎重にしなきゃだし。そこまで気を遣ってる訳ではないけど、普通に澪や弘樹と接するようにはいかなくて俺は苦戦してる。
それでも嫌じゃないのはそれだけ律の事が大切で好きなんだと自分でも分かるぐらいだ。
「律は嫌だと思うけど、父親との話聞いてもいいか?」
「いいよ。夏樹になら嫌じゃないよ」
「まず、律は仲良くしたいとは思わないのか?一緒に住みたいとか」
「ないかな。住むところ無くされたり、お金貰えなくなったら困るけど、俺が未成年でいる内はそこはしっかりしてくれると思うから不仲でも不自由してないよ」
「そっか。お互い歩み寄って仲良くなれたらなぁって思ったんだけど無理そうだな」
「今更な感じだね。再婚するって言ってるし、尚更俺の居場所なんてないよ」
「そのさっきも一人がどうとか言ってたけど、居場所が無くなるって?」
「母親が出てった時、俺は父親に引き取られる話になったんだけど、俺は母親の手を握って連れてってくれって頼んだんだ。でも母親には既に新しい男がいてまだ小さかった俺が邪魔だったんだと思う。手を振り払われてサヨナラって言われたんだ」
「…………」
「父親はそれを見ていたからこそ俺に冷たいんだと思う。引き取る事にした自分じゃなく母親の方の手を選んだから。母親に見捨てられた俺は結局父親と暮らし始めたけど、しばらくすると父親も帰って来なくなっていつの日か全く知らないお手伝いさんが来るようになったんだ」
「律……」
途中で心が痛くなって、淡々と話してくれる律の心配をして腕を握ると、その手を優しく握られた。そしてニコって笑って続けた。
「どちらにも愛されなかった俺はずっと一人ぼっちだった。悲しくて寂しくて、だから一人にはなりたくなくて、学校の人達には良い顔をしてきたよ。笑っていれば側にいてくれたからねみんな。でもね、心の底から本音で接する事は出来なかった。誰にも興味がわかず、上辺だけの関係だった」
そこで律と初めて会った時の事を思い出した。
律の第一印象はイケメンで良い人だ。誰にでも笑顔で対応して、思っている事は口にするけど棘がなく優しい。
今の話を聞いて、その頃の律からは想像出来なかっただろう。まさかそんな理由で周りと接していたなんて。
「そして両親に捨てられた俺に居場所なんてなかった。学校が終わっても待ってるのは空っぽの家だけ。毎日がその繰り返しだった。家でも学校でも一人だった」
「律」
「うん、今は違うね。夏樹に出会って、心から興味がわいた。仲良くなりたい、笑顔が見たい。触れてみたいって。俺の居場所見つけたよ」
俺の両頬を両手で優しく押さえてキスをされた。唇が離れて目を開けると、今にも泣きそうな律がいた。
「今日、夏樹が居てくれて本当に良かったと思った。もし居なかったら俺、どうなってたか……」
「話してくれてありがとう。これから俺はずっと律の側に居るよ。約束する。だから律も約束して、何でも俺に話すって」
「うん。約束する。大好きだよ夏樹」
「俺も好き……律……」
どちらともなく再びキスをした。今度は深くて長いキス。息苦しくなると、律が離れてくれて、でもすぐにまたキスをされた。
「夏樹、ベッド行こうか」
「ん」
律に誘われて手を繋いで律の部屋へ。
話は終わったけど、俺は思う。律と父親がまた仲良くなればいいのにって。そうすれば律の心の隙間は埋まるんじゃないか?律は俺が居ればと言ってるけど、本当は親に愛されたいんじゃないか?
そのまま大きくなってしまったから簡単に関係を修復できる話ではないけど、いつかまた律と父親が一緒に暮らせる日が来たらいいのにと思ってしまった。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
俺の指をちゅぱちゅぱする癖が治っていない幼馴染
海野
BL
唯(ゆい)には幼いころから治らない癖がある。それは寝ている間無意識に幼馴染である相馬の指をくわえるというものだ。相馬(そうま)はいつしかそんな唯に自分から指を差し出し、興奮するようになってしまうようになり、起きる直前に慌ててトイレに向かい欲を吐き出していた。
ある日、いつもの様に指を唯の唇に当てると、彼は何故か狸寝入りをしていて…?
ハイスペックED~元凶の貧乏大学生と同居生活~
みきち@書籍発売中!
BL
イケメン投資家(24)が、学生時代に初恋拗らせてEDになり、元凶の貧乏大学生(19)と同居する話。
成り行きで添い寝してたらとんでも関係になっちゃう、コメディ風+お料理要素あり♪
イケメン投資家(高見)×貧乏大学生(主人公:凛)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる