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1章
律と父親
しおりを挟むお風呂から上がって二人でソファに座り点けたらたまたまやっていたお笑いのテレビを観ていた。
俺はこういうの好きだけど、律はたまに笑うぐらいでずっと俺に張り付いてたまにキスして来たりしていた。まぁ律がお笑いとか見てるイメージないけどな。
「夏樹ってさ、可愛いよね」
「へ?いきなりなんだよ」
「こんなに綺麗な見た目なのに、喋ると普通の男の子なんだもん。テレビの芸人さんを見て笑ってる夏樹を見て笑っちゃったよ」
「お前、テレビじゃなくて俺を見て笑ってたのか?」
「そうだよ。俺、夏樹以外に興味ないからね」
真っ直ぐに俺を見て女子なら気絶するようなセリフをサラッと言える律。こっちが恥ずかしくなるような事をいつも普通の顔して言うけど、本当の事だから驚くよ。
律みたいなイケメンにかなり好かれてる俺は周りからしたら羨ましい存在に見えるだろう。
だけど、実際律はかなりのヤキモチ焼きだし、甘えん坊だし、少食で不健康だし、それに家庭環境も不安定だから接し方も慎重にしなきゃだし。そこまで気を遣ってる訳ではないけど、普通に澪や弘樹と接するようにはいかなくて俺は苦戦してる。
それでも嫌じゃないのはそれだけ律の事が大切で好きなんだと自分でも分かるぐらいだ。
「律は嫌だと思うけど、父親との話聞いてもいいか?」
「いいよ。夏樹になら嫌じゃないよ」
「まず、律は仲良くしたいとは思わないのか?一緒に住みたいとか」
「ないかな。住むところ無くされたり、お金貰えなくなったら困るけど、俺が未成年でいる内はそこはしっかりしてくれると思うから不仲でも不自由してないよ」
「そっか。お互い歩み寄って仲良くなれたらなぁって思ったんだけど無理そうだな」
「今更な感じだね。再婚するって言ってるし、尚更俺の居場所なんてないよ」
「そのさっきも一人がどうとか言ってたけど、居場所が無くなるって?」
「母親が出てった時、俺は父親に引き取られる話になったんだけど、俺は母親の手を握って連れてってくれって頼んだんだ。でも母親には既に新しい男がいてまだ小さかった俺が邪魔だったんだと思う。手を振り払われてサヨナラって言われたんだ」
「…………」
「父親はそれを見ていたからこそ俺に冷たいんだと思う。引き取る事にした自分じゃなく母親の方の手を選んだから。母親に見捨てられた俺は結局父親と暮らし始めたけど、しばらくすると父親も帰って来なくなっていつの日か全く知らないお手伝いさんが来るようになったんだ」
「律……」
途中で心が痛くなって、淡々と話してくれる律の心配をして腕を握ると、その手を優しく握られた。そしてニコって笑って続けた。
「どちらにも愛されなかった俺はずっと一人ぼっちだった。悲しくて寂しくて、だから一人にはなりたくなくて、学校の人達には良い顔をしてきたよ。笑っていれば側にいてくれたからねみんな。でもね、心の底から本音で接する事は出来なかった。誰にも興味がわかず、上辺だけの関係だった」
そこで律と初めて会った時の事を思い出した。
律の第一印象はイケメンで良い人だ。誰にでも笑顔で対応して、思っている事は口にするけど棘がなく優しい。
今の話を聞いて、その頃の律からは想像出来なかっただろう。まさかそんな理由で周りと接していたなんて。
「そして両親に捨てられた俺に居場所なんてなかった。学校が終わっても待ってるのは空っぽの家だけ。毎日がその繰り返しだった。家でも学校でも一人だった」
「律」
「うん、今は違うね。夏樹に出会って、心から興味がわいた。仲良くなりたい、笑顔が見たい。触れてみたいって。俺の居場所見つけたよ」
俺の両頬を両手で優しく押さえてキスをされた。唇が離れて目を開けると、今にも泣きそうな律がいた。
「今日、夏樹が居てくれて本当に良かったと思った。もし居なかったら俺、どうなってたか……」
「話してくれてありがとう。これから俺はずっと律の側に居るよ。約束する。だから律も約束して、何でも俺に話すって」
「うん。約束する。大好きだよ夏樹」
「俺も好き……律……」
どちらともなく再びキスをした。今度は深くて長いキス。息苦しくなると、律が離れてくれて、でもすぐにまたキスをされた。
「夏樹、ベッド行こうか」
「ん」
律に誘われて手を繋いで律の部屋へ。
話は終わったけど、俺は思う。律と父親がまた仲良くなればいいのにって。そうすれば律の心の隙間は埋まるんじゃないか?律は俺が居ればと言ってるけど、本当は親に愛されたいんじゃないか?
そのまま大きくなってしまったから簡単に関係を修復できる話ではないけど、いつかまた律と父親が一緒に暮らせる日が来たらいいのにと思ってしまった。
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