未熟な欠片たち

pino

文字の大きさ
上 下
26 / 52
1章

律の涙

しおりを挟む

 カップル石の公園。ここは俺と律が付き合った日に二人で来た事のある思い出の公園だ。
 電話での律は今までに聞いた事もない声で、泣いていた。早く見つけて顔を見たい。そして何があったのか話を聞いて……
 話を聞いて俺に何か出来るのか?ふと不安がよぎった。いや、それよりも律に会わなきゃ。


「律ー!どこだー!」


 広くない公園を走って探す。岩の近くまで来た時、側のベンチに人影が見えて近付くと、スーツ姿の律が一人座っていた。
 

「律!」


 呼び掛けると、振り向いて飛び付いて来た。肩まである髪は一本で縛られていて、学校とは違った律に見えた。


「夏樹っ」


 泣いている律は、必死で俺を抱き締めていた。とりあえず落ち着くまで待とう。再びベンチに座らせてひたすら背中をさすってあげた。
 しばらくすると、落ち着いた律は俺から離れたが、手は繋いだままだった。
 泣き顔までイケメンだけど、こんな弱ってる律は初めてだから変な気持ちだ。


「大丈夫か?」

「うん。ごめんね夏樹」

「ううん。何があったのか教えてくれるか?」

「……うん」


 話せるようになったみたいで、ポツポツと話し始めた。


「父さんと食事してたら、途中で父さんの恋人も来たんだ」

「うん」

「父さんと会うのも何年か振りで気まずかったのに、その女性に会うのも初めてでちょっと混乱してたら結婚するような事を言われたんだ」

「え、再婚って事か?」

「そう。一応俺は父さんの戸籍に入ってるから挨拶をしたかったみたい。綺麗で優しそうな人だった」

「あ、じゃあ良かったじゃん!新しいお母さんって事だよな?」

「……良くないよ。俺は今まで父さんに父親らしい事なんてしてもらった事なんてないのに、いきなり知らない女の人を紹介されて……俺、また一人に……」

「律、ごめん。変な事言ってごめん」


 律の心境が分からないから感じたままの事を喋ったらまた泣きそうになってしまった。普通だったら父親に再婚相手を紹介されたらどう思う?
 んー、ダメだ!全く想像出来ない!そもそも律は母親が居ないんだ。俺とは違う環境で育って来たのに、律の気持ちを理解なんて出来るのか?


「あのさ、正直に言うけど、俺には律の気持ちは分からないよ。今まで辛い思いして来たのは分かってるつもりだけど、律とは出会ってまだ一ヶ月とかだし。だけど、これからずっと一緒にいて、少しずつでも律の気持ち分かっていきたいと思ってる。これからの辛い事は全部俺が受け止めるから。だから、えっと、上手く言えないけど、一人で抱え込まないで?」

「うんっ夏樹ぃ大好き……」

「んっ」


 いきなりキスをされた。ここは公園で、夜とは言えまだちらほら人が居るけど、今の律はそんな事考えられなかったんだろう。俺はよしよしと頭を撫でてあげて涙を拭いてあげた。


「もう泣かないでよ。律の笑顔が見たいよ」

「夏樹、今日一緒に居て?」

「いいよ。ずっと側に居るよ」

「離れないでね」

「もちろん。抱き合って寝よう」

「キスもしたい」

「いいよ。いっぱいしよう」

「夏樹が欲しい」

「俺はもう律のものだよ」


 いつも以上に甘えてくる律が可愛いくて何でも聞いてやりたくなった。これが今の俺の出来る精一杯の事。律に伝わってるといいな。

 


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...