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1章
律の涙
しおりを挟むカップル石の公園。ここは俺と律が付き合った日に二人で来た事のある思い出の公園だ。
電話での律は今までに聞いた事もない声で、泣いていた。早く見つけて顔を見たい。そして何があったのか話を聞いて……
話を聞いて俺に何か出来るのか?ふと不安がよぎった。いや、それよりも律に会わなきゃ。
「律ー!どこだー!」
広くない公園を走って探す。岩の近くまで来た時、側のベンチに人影が見えて近付くと、スーツ姿の律が一人座っていた。
「律!」
呼び掛けると、振り向いて飛び付いて来た。肩まである髪は一本で縛られていて、学校とは違った律に見えた。
「夏樹っ」
泣いている律は、必死で俺を抱き締めていた。とりあえず落ち着くまで待とう。再びベンチに座らせてひたすら背中をさすってあげた。
しばらくすると、落ち着いた律は俺から離れたが、手は繋いだままだった。
泣き顔までイケメンだけど、こんな弱ってる律は初めてだから変な気持ちだ。
「大丈夫か?」
「うん。ごめんね夏樹」
「ううん。何があったのか教えてくれるか?」
「……うん」
話せるようになったみたいで、ポツポツと話し始めた。
「父さんと食事してたら、途中で父さんの恋人も来たんだ」
「うん」
「父さんと会うのも何年か振りで気まずかったのに、その女性に会うのも初めてでちょっと混乱してたら結婚するような事を言われたんだ」
「え、再婚って事か?」
「そう。一応俺は父さんの戸籍に入ってるから挨拶をしたかったみたい。綺麗で優しそうな人だった」
「あ、じゃあ良かったじゃん!新しいお母さんって事だよな?」
「……良くないよ。俺は今まで父さんに父親らしい事なんてしてもらった事なんてないのに、いきなり知らない女の人を紹介されて……俺、また一人に……」
「律、ごめん。変な事言ってごめん」
律の心境が分からないから感じたままの事を喋ったらまた泣きそうになってしまった。普通だったら父親に再婚相手を紹介されたらどう思う?
んー、ダメだ!全く想像出来ない!そもそも律は母親が居ないんだ。俺とは違う環境で育って来たのに、律の気持ちを理解なんて出来るのか?
「あのさ、正直に言うけど、俺には律の気持ちは分からないよ。今まで辛い思いして来たのは分かってるつもりだけど、律とは出会ってまだ一ヶ月とかだし。だけど、これからずっと一緒にいて、少しずつでも律の気持ち分かっていきたいと思ってる。これからの辛い事は全部俺が受け止めるから。だから、えっと、上手く言えないけど、一人で抱え込まないで?」
「うんっ夏樹ぃ大好き……」
「んっ」
いきなりキスをされた。ここは公園で、夜とは言えまだちらほら人が居るけど、今の律はそんな事考えられなかったんだろう。俺はよしよしと頭を撫でてあげて涙を拭いてあげた。
「もう泣かないでよ。律の笑顔が見たいよ」
「夏樹、今日一緒に居て?」
「いいよ。ずっと側に居るよ」
「離れないでね」
「もちろん。抱き合って寝よう」
「キスもしたい」
「いいよ。いっぱいしよう」
「夏樹が欲しい」
「俺はもう律のものだよ」
いつも以上に甘えてくる律が可愛いくて何でも聞いてやりたくなった。これが今の俺の出来る精一杯の事。律に伝わってるといいな。
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