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1章
S O S
しおりを挟む金曜日の放課後。今日は律とじゃなく、クラスメイトの坂木たちと焼肉を食べに来ていた。
今回の親睦会は少人数って言ってたけど、本当に少なかった。俺を混ぜて五人。元々律も参加予定だったけど、父親からの食事の誘いで来れなくなったんだ。それと坂木たちの方でも来れなくなった人がいるとかでこの人数になったらしい。
「飲み物も揃った事だし乾杯しようぜー」
「早く食いてー」
「待って写メ撮るから」
人数は少なくなっても楽しめそうだった。
この中ではリーダー的存在の坂木。そして坂木とよく一緒にいる二人と、もう一人はいつも一人で居る野村って言う男だ。
野村はいつも一人だけど、弘樹みたいに喋らない訳じゃなく、普通に周りと会話する明るいやつ。クラスの人達とは分け隔てなく仲良くしてる器用な男だ。
俺はそんな野村の隣に座ったので二人で話していた。
「今日和久井が来れなくなったんだって?残念だったね」
「まぁな。でも次があるしな」
「それにしても二人って本当に仲良いよね。見てると微笑ましくなるよ」
「はは、野村は俺達の親かよ」
「親目線で見たくなっちゃうよね。二人はお似合いだから応援したくなる」
「嬉しい事言ってくれるね。野村は付き合ってるやついないのか?」
俺と律の話になって少し照れて来たので話を野村に振ってみた。すると、野村はヘラっと笑って答えた。
「えへへ~。付き合ってはないけど、好きな人ならいるよ」
「お、どんなやつ?」
「無口で真面目でかっこいい人だよ~」
「へー、上手くいってんの?」
「たまに話しはするけど、いつも本読んでて声掛けにくいんだよね」
本?何かある人物が頭に浮かんだけど、まさかな。てか男か女なのかも分からないしな。
「その人ってうちの学校?」
「同じクラスだよー」
男確定じゃん。えー、それでうちのクラスで無口で真面目でかっこいいってやっぱり……
「それって弘樹の事か?」
「そうそう、高城弘樹……って!何で分かったの?」
野村は驚いてるけど、そんな分かりやすいヒント出されたら誰でも分かるんじゃないか?
弘樹のやつ、隅に置けないな。
「弘樹とは小学校からずっと一緒だからな。どこを好きになったんだ?」
「どこって、クールな所かな。えー、間宮と高城って仲良いんだ!教室では話さないよね?」
「元々弘樹は一人でいるのが好きなんだよ。ガキの頃は良く遊んでたけどな。あ、幼馴染としてアドバイスしてあげる。弘樹は手強いぞ」
「ちょ、それアドバイスじゃなくない?うーん、田辺も狙ってるっぽいし、一筋縄ではいかないのは分かるんだけどね」
「田辺ね、やっぱりあいつも弘樹の事好きだよな」
弘樹がモテるのは昔からだけど、男子校に来てまでモテるとは驚いたな。でもこうして弘樹の事を言い風に聞くのは嬉しいかな。
「最近高城も田辺の相手してるみたいだし。ねぇねぇ、高城の小さい頃の話聞かせてよ」
それから俺と野村は弘樹の話で盛り上がった。律が居たら出来ない会話に、俺の心は躍った。
楽しい仲間と美味しいお肉をたくさん食べて、このままボーリングに行こうって話になり、みんなと移動していたら律から電話があった。
みんなには先に行ってもらい、少し話してから行く事にした。
「もしもし?どうしたー?」
『…………』
通話中のはずなのに、律から返事がない。微かに息遣いが聞こえて来た。
「律?何かあったのか?」
『……夏樹っ俺……会いたいっ』
電話の向こうの律の声は泣いていた。予想外の返事に一瞬言葉が出なかったけど、すぐに律に何かがあったんだと分かった。
「今どこだ!」
『……公園』
「公園って、カップル石の?」
『うんっ』
そこならここから遠くない。俺は走って向かいながらボーリングに向かった野村に急用が出来て行けないとメッセージを送っておいた。
律は父親と食事をしていたはずだ。きっと父親と何かあったんだ。
とにかく俺は律が待つ公園へ急いだ。
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