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1章
カラオケ
しおりを挟む親睦会は場所を移してカラオケ屋へ。パーティールームを予約していたらしく、大部屋にて二次会が始まった。そして主催者の一人の坂木がマイクで喋り始めた。
坂木はシルバーの髪色で髪の毛もだが、リーダーっぽい性格からクラスでも目立っている存在だ。
「みんなー!今日は全員で仲良くなって帰るぞー!適当に曲入れるからマイク渡されたら歌ってなー!」
「はは、好きな曲で歌わせてくれないのかよ。なぁ、律はカラオケとか行くのか?」
「行かないし歌わないよ」
「えー、ちょー上手そうなのに。あ、俺はカラオケ好きなんだ!」
「へー」
あちゃー、さっきファミレスで弘樹の事を褒めたの気にしてるよ。あれからずっと律の機嫌が悪くて、こうして話を振っても素っ気なく返されるだけだった。
やっぱり二人で抜けるしかないか。
「間宮~!約束通り写メ撮ってやるよ」
「あー、悪いけど今はタイミングが……」
田辺がスマホをいじりながらそう言うけど、とても楽しく写メが撮れる状況じゃない。
そして追い討ちをかける様に俺のスマホが鳴った。弘樹からの電話だった。
隣に居た律が画面を見て冷たく言った。
「出なよ」
「ったく……もしもし?え?部屋が分からない?ちょっと待って田辺を行かせるから」
「弘樹が来たのか?行ってくる!」
まだ電話を切り終わらない内に田辺が部屋を飛び出した。弘樹が来たからまた律の機嫌が悪くなりそうだ。
はぁと溜息を吐くと、律が顔を覗き込んで来た。
「ごめんね夏樹」
「へ?」
「もう気にしないって約束したのに、やっぱりヤキモチやいちゃうよ」
「律……」
「なんかさ、他の人なら取られる心配ないから平気なんだけど、高城くんは手強そうって言うか、本気出されたら負けそうな気がするんだ」
「負けって、俺が付き合ってるのは律なのに?」
「うん。それでも不安なんだよ。高城くんって良い男だから」
弘樹が良い男なのは男の俺にも良く分かる。だからこそ、弘樹は俺の嫌がる事はしないし、約束は守る男だって知っている。現にあれから近付いて来ないしな。
「律だって良い男じゃん。前にも言ったけど、俺人を恋愛対象で好きになった事なかったんだよ。律が初めて。長い付き合いの弘樹でもなく律なんだよ。それじゃ足りない?」
「ううん。凄く嬉しい」
ニコッと笑う律。
うーん、どうしたら不安にさせなくて済むかな。同じクラスな以上弘樹と関わりを断つのは厳しいし、それ以前に俺が弘樹と関わらなくなるのは寂しい。
ジュースを飲みながら考えてると、田辺に連れられて弘樹が入ってきた。
「みんなお待たせー!高城弘樹様がいらっしゃいましたよー!」
「やめろ。変な事言うな」
田辺の大声にみんなが弘樹に注目する。私服姿だから一回帰ったのだろう。いきなり来てみんなに注目されて田辺を睨んでいた。
「弘樹様いらっしゃーい!早速次の曲行ってみよーう!」
「?」
ちょうど次の曲が流れようとしていて、いきなりマイクを渡された弘樹は頭にハテナを浮かべていた。そしてキョロキョロして俺を見つけると、ホッとしたように笑った。
大丈夫。弘樹ならやり過ごせる。俺は律に気付かれないように弘樹にガッツポーズして見せた。
「高城くん歌えるの?」
「普通に歌うよ。意外だろ?まぁ聴いててみ」
普段の弘樹しか知らないクラスメイト達は誰も予想してなかっただろう。多分この中で知ってるのは俺だけ。
次の曲のイントロが流れ始めて無茶振りされながらも鞄を近くの席に置き、準備を始める弘樹。
そして立ったままマイクを構えて大きく息を吸って思い切り歌い出す。
「……え」
「さすが弘樹♪」
弘樹の歌声には全員が驚いていた。
そう、弘樹はめちゃくちゃ歌が上手いんだ。
ただ流行りの歌などには興味が無く、俺と澪と行った時に俺がおねだりして曲を覚えて貰って歌ってもらう感じだから、こうしてすぐに歌えたのはたまたま俺の好きな曲で、弘樹も歌った事がある歌だったからだ。
まるで歌手の歌声を聴いているかのように静まり返る会場は、さっきまでの賑わいが嘘の様だった。
弘樹が歌い終わって、マイクを机に置くとみんな一斉に拍手した。
「かっこいーぞ高城ー!」
「歌上手過ぎ!」
「ヤバい!興奮した!」
「アンコール!」
「はぁ、喉渇いた」
「あ、飲み物頼むな!」
いろいろな野次が飛ぶ中、弘樹がボソッと呟くと田辺がすかさずメニューを広げた。弘樹ってやっぱり凄いよ。
「ふーん。やるじゃん」
「だろー?って、律どこ行くんだ?」
いきなり立ち上がり、曲を入力する機械を取りに行って操作をしていた。てか歌わないんじゃなかったのか?まさか弘樹にまた無茶振りする気か?
すると画面に表示されている予約されていた曲が全てキャンセルされて、新しい曲が登録された。
そして律はマイクを握り、俺の隣に戻って来た。
「夏樹の為に歌うよ」
マイク越しに律が言うもんだからみんなは大盛り上がり。
そして小声で「高城くんより上手かったらチューしてね」と耳元で言った後、律が歌い出した。
誰もが知る若者向けラブソング。それを一度も音程を外さずに優しい声で歌い上げる律。弘樹に負けず劣らずめちゃくちゃ上手かった。
え、イケメンって歌が上手いってオプションでもあるの?
二人のイケメンが立て続けに盛り上げるもんだからみんな大興奮。律が歌い終わった後も次の曲を入れるのも忘れて騒いでいた。
「和久井アイドルみてー!」
「二人共ユニット組んで芸能界目指せば?」
「イケメンってだけでズルいのに~」
そんな野次には一切答えず、律は俺を見ていた。
「ねぇ、どうだった?」
「普通に驚いた。てか歌わないんじゃなかったのかよ」
「それだけ?」
俺の感想に悲しそうな顔をして下を向いてしまった。てか歌う前にマイクで言った事が恥ずかし過ぎてそれどころじゃないっての。
みんなが俺達を見てるのに、律は全然気にしてない様子だ。
「あーもう!めっちゃ上手かったよ。俺の為に歌ってくれてありがとう」
「夏樹大好き♡」
「うわっ」
とうとう律に抱き付かれてしまった。みんなの歓声と、写メを撮ってるであろう音が響いていた。もうどうにでもなれだ。
俺は律に抱き付かれたままマイクを取って、みんなにこう言った。
「あーあー。えっとー……この通り、俺と律は付き合ってるからよろしく!そして律はかなりのヤキモチ焼きだからあまり刺激しないように!以上!」
言い切ると、周りはしばらく沈黙になった。けどすぐに騒ぎ始めた。これで律も満足だろ。
「夏樹、ありがとう。俺嬉しい」
「ううん。歌のお礼」
律は目を潤ませて喜んでいた。
そしてこの後、みんなからはカラオケそっちのけで質問攻めにあったのは言うまでもない。
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