未熟な欠片たち

pino

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1章

和解

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 弘樹と分かれたのは15時過ぎだった。そのあとは真っ直ぐ帰って部屋で過ごしていた。
 律からメッセージ来ててそれに返信したり、何となく親友との仲直りの仕方なんて調べたりしていた。
 夕方になった頃、そろそろバイト終わったかなと思い澪に電話を掛けてみる事にした。


「…………」


 何コールか鳴らしてるけど、出ない。やっぱり怒ってんだな。切ろうと思って画面を覗いた時、応答があって再びスマホを耳元に戻す。


『……はい』


 とても低い声。でもそれは確かに澪の声だった。


「あ、もしもし?今平気か?」

『うん平気』

「あのさ、えっと……もう一度話したくて。時間取れる日ある?」

『……俺も夏樹と話したいと思ってたよ。今からなら大丈夫だけど』

「まじで?バイトは?」

『終わって家にいるよ。今から来る?』

「行く!あ、弘樹もいいか?」

『出来れば二人で話したい』

「そっか、分かった。じゃあ今からそっち行くな!」


 まさか今日になるとは思わなくて驚いたが、善は急げだ。二人でって事だったので、弘樹には一応メッセージで「澪と今から話し合ってくる。二人がいいって言うから俺だけで行ってくる」とだけメッセージを送っておいた。あと、律にも同じ文を送っておいた。
 そして俺はスマホだけ持って家を飛び出して、目と鼻の先にある澪ん家に行く。インターフォンを鳴らすと澪の母さんが出て来た。


「あら、夏樹ちゃん!いらっしゃい。澪なら上にいるわよ」

「こんばんは。お邪魔します!」


 澪の母さんは小柄でふんわりボブの可愛い雰囲気の人だ。澪は母親似だって一目で分かるぐらい似てる。挨拶もそこそこに、階段を駆け上がって澪の部屋の前まで行って深呼吸。


「澪ー、入るぞー」

「はーい」


 ドアの向こうから聞こえてきた声は電話の声色とは違っていつもの澪に聞こえた。中に入ると、ベッドに座って大きなウサギの抱き枕をギュッと抱き抱えてる澪がいた。表情はウサギに隠れててあまり良く見えなかった。


「……」

「……」


 やべ、何か言った方がいいよな?お互い黙って向かい合ってると、澪が立ち上がってウサギから顔を上げた。


「澪……」


 やっと見えた澪の顔はどこか懐かしい子供の頃に見た事のある、何かを我慢しているような困ったような照れたような今にも泣き出しそうな顔だった。
 つい癖で俺が近寄って頭を撫でようとすると、腕をまっすぐに俺に向けて手で来ないでとやられた。


「夏樹……」

「?」

「えっと……あの……」

「澪?」


 何かを言おうとしているのは分かるが、何を言おうとしているのか分からずただ待つしか出来なかった。
 しばらくして、パッと俺を見た。


「夏樹!ごめんなさい!」

「!」


 これには驚いて、何も言葉が出なかった。それは俺が言いに来たセリフでもあるからだ。まさか澪から謝って来るなんて思ってもいなかった。


「ずっと、ずっと変な態度とってごめんねっこの前もせっかく来てくれたのに、あんな事言って、ごめんねぇっ」


 とうとう泣き出してしまった。え、澪が泣いてるのなんて幼稚園以来なんだけど。とにかく、澪は心から悪いと思って謝ってくれてるんだと分かった。
 俺はそんな澪に近付いて頭を撫でるのと同時に軽く抱きしめた。


「ううん。俺の方こそごめん。澪の事を誰よりも知っていたつもりだけど、全然そんな事なかった。本当にごめん」

「うわぁぁん!夏樹だぁ!」

「やめろよっ俺まで泣いちゃうだろ!」


 つられ泣きにだけは気をつけながら泣きじゃくる澪をなだめる。想像していなかった展開に少し驚きつつもとりあえずホッとした。
 ベッドに隣同士で座って、澪が落ち着くのを待った。


「澪、今日はちゃんと話し合おうと思って来たんだ」

「うん。俺も、夏樹と話したいと思ってた」

「まずさ、澪が俺に対して怒ってたのって、り……和久井の事だよな?」

「……うん」

「それは俺が和久井の事を好きになったと思ったから?」

「ううん。律くんが夏樹の事を好きだから……やきもち」

「え、和久井が言ったのか?」

「そうじゃないよ。律くんが夏樹を好きな事ぐらい見てれば分かるよ。それで、悔しくなっちゃって、夏樹に八つ当たりしちゃったの。ごめんなさい」

「そうだったのか。あ、実はさ、その……俺、律と付き合う事になったんだ」

「え!」


 ヤバい。また喧嘩になるか?怒り出すんじゃないかと覚悟して伝えると、比較的明るい笑顔の澪だった。


「いつ!?本当に?」

「金曜日の放課後。本当だよ。澪にはちゃんと俺から伝えたかったんだ」

「言ってくれてありがとう!うわぁ、おめでとう夏樹ぃ!」

「わぁっ」


 いきなりピョンっと抱き付かれたから受け止めきれずに、そのまま二人でベッドに倒れてしまった。
 前だったらこんな事をされたら、やめろとか軽くあしらってたけど、何だか澪らしくて嬉しかった。


「澪、怒ってないのか?」

「うん全然!実はね、金曜日にヒロくんに説教されたの」

「説教?」


 そんなの言ってなかったぞ?ただ澪が怒ってたとだけしか聞いてないから気になった。


「初めは俺の愚痴を聞いてもらおうと呼び出したんだよ。そしたら普通に澪が悪いって説教が始まっちゃってさ~。自分でも分かってた事だからヒロくんに言われて反省したよ。もうね、律くんの事は吹っ切れたよ。もし夏樹も律くんの事が好きなら応援しようと思ってたの」

「まじで?てっきりずっと怒ってるのかと思ったし。はぁ、俺のモヤモヤ返して」

「夏樹も俺と仲直りしたいって思っててくれたの?嬉しいなぁ。やっぱり夏樹が居ないとつまらないよぉ」

「俺も。澪と喧嘩とかした事ないからどうしようって感じでさ。俺の応援してくれようとしてたのも嬉しい。ありがとうな」

「ふふ、だって夏樹って恋した事ないじゃん?だからやっと恋するんだーって思ったら応援したくなっちゃった」


 相変わらずな女子っぷりに安心する俺。また言い合いになるのを覚悟していたけど、無事に仲直りする事が出来て本当に良かった。後で二人に連絡しなきゃ。
 そこへコンコンと扉をノックする音がして、澪の母親が顔を覗かせた。ベッドで抱き合いながら横になる俺たちを見てクスクス笑っていた。
 

「あらあら♪夏樹ちゃん、夕飯食べて行く?今日は肉じゃがなの」

「夏樹!食べて行ってよ!もっと話したい事あるし」

「あー、ご馳走になりたいのは山々なんだけど、さっき母さんが夕飯用意してたから一回帰るよ。夕飯食べてお風呂入ったらまた来る」


 ご飯を作る苦労を知ってしまったからドタキャンは出来ない。それに二人にも早く知らせたいしな。
 俺は一度家に帰ってまたここに事にした。



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