未熟な欠片たち

pino

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1章

新しい感情

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 澪と言い合った後、ずっとモヤモヤしていた。そりゃ俺が悪いけど、あんなに怒らなくてもいいんじゃないか。
 今まであそこまで感情をぶつけてくるなんてなかったからかショックが大きかった。

 それに、俺が和久井を取ったという言葉にも引っかかる。澪は何であんな言い方をした?俺が和久井を家に泊めただけなのに、それを隠したから勘違いしてる……勘違い?もしかして俺が和久井の事を恋愛対象として見てると勘違いして横取りされたと思ってるのか。

 夕飯と風呂を済ませてゴロゴロしながら色々と考えるけど、なんかめんどくさくなってきた。


「はぁ、和久井に電話するか」


 自分一人で考えていても解決できる訳でもないので、俺からの電話を待っているであろう和久井に電話をかける事にした。すると、かけていいか確認してないにも関わらずすぐに出た。


『もしもし?』

「今平気?」

『うん。電話待ってたよ』


 いつもの和久井の声だ。何か落ち着くな。


「澪と話して来たぜ」

『どう?上手くいった?』

「全然。すげー怒られて、俺も逆ギレして終わった」

『良かったら詳しく話してくれない?』


 詳しくか……弘樹にも言われた通りありのまま話さないようにしなきゃ。


「まずさ、俺がメッセージで嘘ついた事について説明したんだけど、あいつ勘違いして俺が和久井の事を取ったと思ってるみたいなんだ。そんで、そうじゃなくて、和久井が澪の事に興味ないからだって言った。その言い方が悪かったみたいで、そっからめっちゃ怒り出して、だから俺もガーってなって……あーめんどくせー!」

『それはお疲れ様だね。向こうは分かってくれなかったんだね』

「こんな澪初めてだからもうお手上げって感じ。よっぽど和久井の事が好きみたいだな」

『俺のせいでごめんね』

「そういう意味で言ったんじゃないけど。弘樹も居てくれたからその場はなんとかなったけど、一人で行ってたらまだ言い合ってたかもな」


 半分は冗談だけど、本当にそうなりかねない状況だった。澪は突っ走るタイプだから、自分がこうだと思ったら意見を曲げない。かと思ったら他に興味が行けば、さっさと忘れてそっちに行ったりもする。俺はと言うと、自分の意見はあるけど澪ほど主張はしない。
 面倒くさそうなら適当にするし、相手にもしないだろう。今回の場合は相手が澪だからだ。澪とは兄弟みたいな仲だからちゃんと話そうと向き合った。


「まぁしばらくほっとく事にしたよ。だから和久井からも向こうからそういう話されるまで話さなくていいから」

『夏樹が言うならそうするよ。ところで高城くんとは普通の幼馴染なの?』

「弘樹?そうだけど、何でそんな事聞くんだ?」

『なんとなく気になったから』

「あー、ぶっちゃけ和久井って弘樹の事嫌いだろ?」

『……夏樹の幼馴染だからあまり言いたくないけど。好きではないよ』

「やっぱり。無理に仲良くしろとは言わないけどさ」

『高城くんて夏樹の事好きだよね。とても大事にしてるの分かるよ』

「それなー。何でか俺には激甘なんだよ弘樹って。普通に甘えちゃってる俺も俺だけどな」


 だから澪にもあんな事言われたんだろう。弘樹が俺だけに甘やかすのは多分周りも気付いている事だ。俺は居心地いいからそのままにしてるけど、澪にとっては不快だったのかもな。


『ちょっと妬いちゃうな』

「何に?」

『夏樹と高城くんの関係だよ。俺だって夏樹の事好きなのに』

「へー、和久井って可愛いとこあるんだな」

『あ、夏樹に可愛いって言われるの悪くないかも』

「そうだ、明後日って土曜だったよな?土曜って暇か?和久井んちに行っていい?」

『うん。もちろんいいよ。夏樹が来るなら掃除しなきゃ』


 和久井にあの話を聞いてから行ってみたいと思ってたんだ。電話の向こうの和久井も嬉しそうだった。


『あ、泊まり?それならちゃんと準備するけど』

「泊まっていいなら泊まる。昼間はどっか出掛けるか」

『出掛ける!あ、行きたい所ある?』

「んー、新しい服とか見たいかも。和久井は?」

『俺も服見たいと思ってたんだ』

「じゃあ決まりだな。なんか楽しみだなー」

『俺も凄く楽しみ。週末は夏樹とずっと一緒に居られるんだもん』


 和久井とこうして楽しく話す事で、澪の事でモヤモヤしてたのが少し晴れた気がする。和久井は人を落ち着かせる才能があるな。

 ここで時計が視界に入り、もう少しで日付が変わる事に気付いた。
 

「あー、そろそろ寝るか?また寝不足になったらやだし」

『……もう少しだけいい?』

「いいけど、眠くないのか?」

『もう少しだけ夏樹の声を聞いていたいんだ』

「甘えん坊め」

『こんな俺は嫌?』

「ううん。嫌じゃない」

『良かった。ねぇ夏樹、好きだよ』

「ん、俺も……ってよくそんな事サラッと言えるな」

『結構頑張って言ってるんだよ。電話だから声しか分からないしね。夏樹も言ってよ』

「やだね」

『えー聞きたいよー』

「じゃあ俺の言う事も聞いてよ」

『何を聞けばいいの?』

「今日出た数学の宿題写させて」

『え!やってないの?』

「澪の事でやる気起きなかったんだよ。朝一頼むな」

『そんな事なら全然構わないよ。そしたら夏樹も俺のお願い聞いてくれるんでしょ?』

「もちろん!……きだぜ!」

『ん?聞こえなかったよ、もう一回』

「す、きだ!もういいだろっ」

『うーん、いいでしょう』


 改めて言葉にするとなると言いにくい。きっと和久井は言い慣れてるんだ。だからあんなにサラッと言えたんだ。電話の向こうでクスクス笑ってる和久井に何だか茶化された気がしたけど、不思議と嫌じゃなかった。むしろ暖かい気持ち。心がソワソワしたり、ワクワクしたりしてる。

 さっきだってあんな恥ずかしいセリフをやっとの事で言えた時だってドキドキして……ん?ドキドキ?いやいや、誰かに対して好きとか言い慣れないからだよな。


「俺そろそろ寝るな。じゃあ明日の朝よろしく」

『うん。おやすみ夏樹』


 電話を切った後、布団を頭まで被って目を瞑る。何だこれ、まだドキドキしてる。俺から寝るとか言って電話切ったけど、本当はもっと話してたかった気もする。
 てか和久井に会いたい。会って話したい。え、俺どうした?友達相手にこんな風な感情が芽生えたのってないぞ。

 まぁいい、明日会えるしな。そうやって自分に言い聞かせるが、今日はこのまま眠れる気がしなかった。


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