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1章
帰り道
しおりを挟む放課後になると、隣の教室から澪が飛んで来た。まだ俺と和久井は帰る準備が出来ていなかった。って俺は空っぽの鞄を持つだけだけど。
「二人ともお待たせ~」
「早ーよ。ちゃんとホームルーム出たのかよ」
「もちろん!律くん、帰りはバス?電車?」
「電車だよ。二人は?」
「バスだよー。じゃあ駅まで行こうか」
俺と澪は家から近いからという理由でこの高校を選んだ。だから、バスと徒歩で済む。和久井は電車って事は少し遠いのか。
三人で学校を出て駅まで歩く。学校から駅までは10分ぐらいか。
「電車通学とか憧れるなー」
「そうなの?朝とか人が多くて大変だよ。俺はバスの方が楽しそうでいいな」
「楽しくはないな。行き先が学校って思うと」
「あーあ、律くんとあと少ししか居れないのかぁ」
「あ、電車が来る時間まで少しあるからちょっと話さない?」
「話すー♪」
和久井の提案に澪は大喜び。正直、俺たちはバスを使わなくても最悪徒歩でも帰れる距離。疲れるからやらないだけだ。
和久井の乗る電車の時間まで駅の近くのファーストフード店に寄る事にした。店の中は学生だらけでとても混んでいた。
「時間的にも混んでるね~。俺席取っておくから、夏樹いつものセットお願い!」
「おー、任せとけ」
俺が注文の列に。澪が空いてる席探し。これが自然に行われる澪との連携プレイだ。
「息ピッタリだね」
「正直、席取る方が面倒くさいから助かるよ」
「ねぇ、夏樹の連絡先聞いてもいい?」
「いいけど、席着いてからでもいいか?もうすぐ順番来るから」
「あ、じゃあ俺の連絡先紙に書いておくから後で連絡ちょうだい」
「ああ」
このタイミングで聞かれると思わなくてスマホ出すのも手間だったからそう言ったら、素早くノートを取り出して書き始めた。席に着いてからじゃダメなのか?書き終わると、勝手に俺の鞄の中に入れてきた。
「じゃあ連絡待ってるね」
「おう」
そんなやりとりをして注文済ませて商品を受け取り、先に席に居るであろう澪を探す。こっちこっちと手を大きく振る澪を見つけた。
澪は席取りが上手い。俺と弘樹は混んでたら諦めるタイプだが、澪は上手く空いてる所を探すか空きそうな所を見つけだす。そしてまだそこにいる客に声をかけて予約してしまうのだ。
「さすが澪だな。バッチリ席取れてんじゃん」
「夏樹もいつものセットありがとー♪食べよ食べよー」
澪のいつものセットとは普通のバーガーセットに、単品一個と、ナゲット、デザートのパイの事だ。普通にご飯として食べる時はもっと頼むが、こうした間食の時はこのセットが基本。俺はポテトと飲み物のみ。和久井なんかは飲み物だけだった。
「律くんてほんと食べないんだねー。お腹空かないの?」
「あまり空かないかな」
「てかお前が食べ過ぎなんだよ。夕飯前にそんな食べるやついねーよ」
「それなんだけどさ、実はお母さんにお小遣い制限されちゃってさー。このままじゃ食費が大変だから間食するならお小遣いの範囲で食べなさいって」
「一人っ子なのに、三人分は食べるもんな」
「お小遣いでやりくりしたらあっという間になくなっちゃうよ。だからバイトしようかなぁって思ってて」
「いいんじゃん。うちの学校バイトOKだし」
「もし始めたら二人と帰れる日限られちゃうんだよね。それもちょっと寂しいなって」
「いや、バイトして食べたい物を食べるべきだと思うよ。見た目とかを気にしないでたくさん食べられるのって今だけだと思うし、年取ってからじゃ出来ない事だよ」
「律くんの言う通りだよね!うん!俺バイト探す!でも、帰れる時は帰ろうね♪」
和久井の言った事は間違ってない。けど、何か引っかかる気がするのは俺だけか?澪は憧れの和久井に言われたもんだから喜んで受け入れてるけど、まるで澪にバイトした方がいいと勧めた感じだった。
「でも夏樹が心配だなぁ。俺が居なくてもちゃんと帰れる?迷子にならない?」
「馬鹿にすんな。迷ったら検索するし」
「夏樹の事は心配しないで。俺がついてるから」
「ん、そうだね!律くんがいれば安心だよね」
「和久井まで俺を馬鹿にしてるな?」
「してないしてない。ほら、澪くんの大事な幼馴染だからしっかり守らなきゃって思って」
「守るって何からだよ?」
「痴漢とか?」
「あはは!俺男だぞ?何の心配してるんだよ!和久井ってやっぱ天然だな」
「り、律くん!そろそろ電車来るんじゃない!?」
「ん、そうだね。そろそろ出ようか」
あれだけあったバーガー類がすっかり無くなっていた。澪はバッと立ち上がりそう言うと、和久井も腕時計を見て立ち上がった。
それから駅の近くまで和久井を見送って、俺たちは駅から出てるバスで帰ろうとバス停の列に並ぶ。
「なぁバイトってどんなのやるんだ?」
「まだ分からない。求人見てみる」
また澪の様子がおかしい。和久井に会ってからか今日の澪は何か変だった。いつもならここでは制服が可愛いところがいいなとか、かっこいい人がいるところがいいなとかうるさくなるはずだが、ずっと下を向いてボソッとしか喋らない。
「澪?何かあったのか?」
「何かあった……のかもしれない」
「は?なにそれ?」
「俺、律くんの事……」
「和久井の事?」
「律くんの事が好き!」
いきなり顔を上げて、訴えてくる澪の顔は本気だった。いつもの惚気た感じじゃなくて、少し頬を赤くさせて真剣に俺を見ていた。たまにある澪のこういう顔を俺は知ってる。今日一日、まさかと思ってたけど和久井に本気になってたんだな。目を潤ませている澪の頭をポンポンと撫でてやった。
「よしよし。だったら澪、これからはもう少し空気読んで行動しような?」
「空気を読む?」
「澪は昔からこれだって思ったら突っ走る癖があるだろ?たまには周りを見て冷静になって、大人っぽく振る舞うとか」
「だって、早くしないと取られちゃうかもしれないじゃん」
「取られたら諦めりゃいいじゃん。イケメンは他にもいるんだし」
「……うん。分かったよ」
いつものように話してるつもりだけど、なかなかいつもの澪に戻らない。気になったけど、これ以上は何も言わないでいた。
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