どいつもこいつもサイドストーリー【短編集】

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早川くんと秋山くん【早川空編】

4.仲良く半分こ♪

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 屋上で貴哉と二人で息を切らしながら地面に寝転がっていた。
 何とか学年主任からは逃げ切れたけど、貴哉が目が合ったとか言ってたから後で呼び出されるんだろうなと思っていた。
 俺は体を起こして髪を気にしていた。全力で走ったからかなり乱れたなぁ~。しかも汗かいちゃったし。この後デートの予定無くて良かった~。


「髪なんか気にして女かよ」

「男でも気にするだろ普通は」

「あ?俺は普通じゃねぇってのか」

「そうは言って……そうかもな♪」

「てめぇ、言うようになったじゃねぇか」


 未だに屋上の床に寝転がりながら貴哉がニヤニヤしながら言った。貴哉は普通じゃないよな。普通は授業サボらないし、学年主任から逃げたりもしない。だけど、そんな普通じゃない事を一緒にやってみたけど、案外悪くないなと思ってる自分がいた。


「俺さ、男って苦手だったんだよ。でも貴哉は違う。なんて言うか、楽しい♪」

「おーそりゃ良かったな。俺も一緒に馬鹿出来る奴いてくれる方が楽しいわ」


 むくりと起き上がってそう言った。
 きっと城山高校にはいないだろうな。身だしなみの自由度は高い筈だけど、みんなキッチリ指定の制服着てるし、髪色だって圧倒的に黒髪が多い。きっと進学校として通ってる生徒がほとんどなんだろう。
 今の俺は勉強に興味がないから高校生活は諦めていたけど、貴哉と出会って気持ちが変わった。実は今、学校に行くのが楽しみだったりするんだ。
 貴哉と話してると、今までの俺の人生が何だったんだろうって思うような気持ちにさせてくれるんだ。それはマイナスな意味じゃ無くて、プラスな意味で。
 正直俺の家庭環境は最悪で、主にそれを軸に俺はキャラ作りをして生きて来た。ある時は純粋な子供だったり、ある時は優秀な子供だったり、そして今は友好関係は広く浅くのチャラい奴。
 そんな偽りの俺を吹き飛ばすかのような刺激をくれる秋山貴哉は、知れば知る程一緒にいたいと思わせてくれた。


「男の癖に男が苦手とか変な奴~。俺は女のが苦手だけどな。ギャーギャーうるせぇじゃん。あの甲高い声が無理」

「そう?話聞いてるだけで満足してくれるから楽だぜ?」

「それも無理!興味ねぇ奴の話なんか聞きたくねぇもん。だって時間の無駄じゃね?昼寝してた方がマシ~!特に学年主任とかな!あいつも怒ってばっかじゃなくて自分の髪を気にしてろよなぁ!」

「あはは、確かにそうかもな~」


 正に俺が今までしてきた事だ。
 そっかぁ、時間の無駄かぁ~。
 俺、今まで勿体無い事してたんだなぁ。


「おい早川、お前は何で俺なんかに声掛けるんだ?」


 突然そんな質問をされたから驚いた。そんな事全く気にしてないと思ったのに。


「面白いからだよ」

「面白いだぁ?馬鹿にしてんのか?」

「してないしてない。普通に友達になりたいと思ってるよ」

「ふーん。なんつーか、俺がこんな事言うのもアレだけどよ、俺なんかといたらお前まで学年主任に目ぇ付けられるぞ?言っとくけど、あいつマジでしつけぇからな」


 そう言えば貴哉は良く担任の玉山先生に呼び出されてる。まさか学年主任にまで説教されてるなんて思わなかったけど、入学してまだ日も浅いってのに、本当に貴哉はいろんな意味で凄いよ。


「じゃあさ、こうしないか?全部半分こしよう♪一緒に馬鹿やって、一緒に怒られよう。俺、貴哉となら怒られてもいいし♪」

「お前も普通じゃねぇな!てか怒られるのは早川だけだ!俺の身代わりになれ!」

「訳分かんねぇ!今俺良い事言ったのに何で裏切るんだよっ」

「二人一緒に怒られても意味ねぇだろ!どっちかか犠牲になってどっちかが助かればいい!」

「すげぇ自己中だな!もう一緒に怒られてやらねぇからな!」

「あー!さっき言ったの嘘だったのか!?」

「お前が先に裏切るような事言ったんだろうが!」


 言い合いになって来たけど、俺は内心楽しんでいた。何かを言えばちゃんと返ってくる。それがとても嬉しくて、何度も何度も言い返してやった。

 ああ、俺はこれを求めていたのかも知れない。
 ちゃんと俺を見てくれる存在を。
 振り向いて欲しい人に振り向いてもらう為に一生懸命気を引こうとしていた自分が求めていたもの。
 都合の良い時だけ相手をしてくれていたあの人は、決してそんな俺を見てはくれなかった。
 そう言えば兄貴が言ってたな。あの人の事を「母親だなんて認めない」って。
 俺は兄貴の言いたい事を分かっていたけど、心のどこかで期待していたんだ。
 いつか見てくれる。頑張れば笑ってくれる。

 でも俺は中学に入ってそれを諦めた。

 努力なんかしても求めるものはもらえないんだ。

 諦めていた所に秋山貴哉と言う男がいた。
 そして貴哉はそれをあっさりくれた。
 貴哉は俺をちゃんと見てくれている。
 貴哉は本当に笑って、怒ってくれる。
 そんな貴哉といたら俺も自分が気付かない内に笑顔になれていた。
 

『あーあー!今から呼び出しをする!速やかに職員室まで来る事!』


 ここでキィーンと言う音と共に校内放送が始まった。てかこの声って学年主任じゃね?
 俺と貴哉は目を見合わせて「ゲッ」と言う顔をした。


『一年A組秋山ぁ!今すぐに職員室へ来い!逃げたら家まで行くぞコラー!!』


 怖!!こんな先生いるのってぐらいの脅しだ!
 貴哉はそれを聞いて慌てて立ち上がった。


「んなっ!?あいつ頭おかしいって!普通放送であんな事言うかよ!?てか何で俺だけなんだ!?お前もいたじゃん!」

「日頃の行いじゃん?頑張れよ~♪」

「くそー!シカトしてぇけど、家に来られたら母ちゃんにバレる!それだけは嫌だ!あーもぉ!行ってやらぁ!」


 腹を括ったのか貴哉はプンスカと怒りながら歩き出した。
 そして俺も立ち上がって、そんな貴哉に追い付いて後ろから抱き付いて言ってやった。


「俺も行く♪言っただろ?全部半分こだって♪」

「あ?……何言ってんだ。全部くれてやる。俺は無理矢理お前に連れ回されたって言うからな♪」


 いきなり抱き付いた俺に驚いてたけど、すぐにニカっと笑って、貴哉らしい事を言った。
 今から怒られに行くってのに、俺は楽しくて仕方がなかった。
 きっと貴哉とならこの先も楽しい事でいっぱいだ。俺はやっと見つけた探し物、居場所を大切にしようと思った。




 ✳︎完✳︎




✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 待ってました!早川空くんのお話です!
 これは空が貴哉を恋愛対象で好きになる前のお話です。まだ友達としての好き。またはノンケだから気付いていない?とにかく、空の話は結構シビアな部分があるのでお気に入りです♪だからまだまだ書きたいです( ̄∇ ̄)
 空くんはチャラ男として1st seasonから登場しましたが、実は中身は真面目で健気。回を追うごとに空くんの話もちらほら出て来て段々露わになって来ています。
 かなりブラコンな兄がいるので弟っぽい所も大事に書いてます。
 本編の主人公である貴哉を書く時は意外と何も考えずに書いているのですが、空くんを書く時は結構気を使っていたりもします。笑
 そんな空くん視点のお話はいかがでしたでしょうか?また機会があれば続きを書きたいと思います♪

 ここまで読んで下さった方々、本当にありがとうございます(*^ω^*)
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