どいつもこいつもサイドストーリー【短編集】

pino

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早川くんと秋山くん【早川空編】

2.男は苦手だしぃ?

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 ホームルーム終了後、今日はそのまま解散になったから、俺はさっきのヤンキー、秋山に声を掛けようと後ろの方の席を探す。
 窓際の後ろから二番目の席に座って、その後ろに座る男と話をしていた。俺は迷わず秋山に近付いて話し掛けてみた。


「俺早川空って言うの~♪一緒に帰らねぇ?」


 いつも女の子にするみたいに軽く声を掛けた。笑顔も甘いやつで、これやると大抵の女の子は俺について来てくれるんだ。


「ん。早川ね。悪ぃけど、こいつと帰るって約束しちまったんだ」


 秋山は親指で後ろの席にいた男をクイッと指してそう言った。
 その男は中性的な見た目で、綺麗な茶色い髪色だった。そしてなかなかのイケメンなそいつは俺を見て勝ち誇ったように笑った。


「ごめんね空くーん?は俺と帰るから他当たってくれるー?」

「そうなんだ?二人は知り合い?」


 俺はイケメンの態度が気になったけど、気にしないようにして話を続けてみた。


「いや、今話したばっか」

「あ、それなら俺も……」

「貴哉帰ろー♪帰りにお昼ご飯食べて行こうよ~?美味しいご飯屋さん知ってるんだー♪」

「おっいいね♪俺朝飯抜きだったから腹減ってたんだ」


 え?何このイケメン?今俺の言葉に被せて喋った?てか何か俺に対してマウント取ってる?
 俺、この二人とは今初めて話したよな?どゆ事?

 俺は訳が分からずボーっとしてると、秋山が立ち上がってニッと笑った。


「なぁ、お前も来いよ?俺は秋山貴哉だ。話は飯食いながらしようぜ~」

「俺もいいのか?」

「あ?嫌なら来なくていいよ。ほら早く行くぞ~」


 萎んだ鞄を肩に担ぐように持って教室から出て行く秋山。秋山の後を追うイケメンは、歩きながら俺をチラッと見て来た。その時の顔はとても冷たく、さっきまでの柔らかい笑顔とは対照的だった。
 どうやらこのイケメンには嫌われたみたいだな。まぁ元々俺は男とは相性が良くないって言うか、ああいう態度されるのにも慣れてるけどな。人の女盗ったとか言って殴られた事もあるしな。
 
 でも俺は秋山と話してみたかった。
 現に秋山は普通に話して、ランチに誘ってくれたし。


「待って。俺も行く~」


 俺はイケメンの態度は気にしないようにして二人の後を追った。


 イケメンが言う美味しいご飯屋さんは駅前にある小洒落たカフェだった。俺もここは受験の時に見掛けて気になってたんだよな~♪女の子連れて行ったら喜びそうとか考えてた気がする。
 今は男三人だけど、まぁ初めましてだしゆっくり話すにはいいんじゃん?


「あのさ、君凄くイケメンだね?名前教えてよ♪」

「中西直登だよ♪空くんこそかっこいいね~。彼女いるの?」


 良かった。名前聞いたらちゃんと教えてくれた。会話も続けてくれたし、俺はホッとしていつものように振る舞う事にした。


「今はいないよ~。俺ってあんま長続きしないんだよね~。最高でも一ヶ月とかだし~?」

「ふーん。予想通りだね♪」

「え?予想通り?」

「だってチャラいもん♪いろんな女の子に手出してそうだもん♪」


 あ、やっぱり俺嫌われてるじゃん。中西は笑顔だったけど、言葉には棘があった。
 まぁいっか。俺の目的は秋山と仲良くなる事だしな。


「あはは、秋山は?彼女いるの~?」

「いねぇよ。喧嘩売ってんのか?」

「えええー!?何でそうなるんだ!?」


 軽い気持ちで、会話を続ける為に聞いただけなのに、オムライスをもぐもぐ一生懸命食べていた秋山に思い切り睨まれた!
 お、俺って男からはこんなに不評なのかぁ?


「自分がモテるからって、誰でも同じだとは限らないでしょ。もっと相手の事考えて話したらー?ねぇ?貴哉ぁ♪」

「そうだそうだー!モテるのが何だ!」

「ごめんて。悪気は無かったんだよ」


 二人から叱られて俺は素直に謝る事にした。男と仲良くなるのって難しいな……
 女の子となら適当に話聞いてニコニコしてるだけで喜んでくれるのに。
 俺は初めての硬く高くそびえ立つ壁に直面し、ガッカリして自分が頼んだパスタを大人しく食べる事にした。

 すると、俺と対面して座っていた秋山がサササッとスプーンで何かを俺の皿に移し始めた。
 ん?グリンピース?


「何なにー?くれるの?」

「俺グリンピース食えないんだ。お前好きそうだからやるよ♪」


 ニシシと笑って器用にオムライスの中に入っていたグリンピースだけを俺の皿に移した。
 一瞬俺は何をされたのか理解出来なかったけど、秋山の嬉しそうな笑顔を見て、俺も何だか嬉しくなったから自然と笑顔になれた。


「あはは♪それって嫌いな物押し付けただけだろー?いいよ食ってやるよ~♪」

「おっ、何だお前普通に笑えるんだな」

「えー?何それー?」

「さっきまで作ったように笑ってやがったから何か企んでんのかと思ったぜ」

「空くんの笑顔って偽物臭かったよね~?」

「嘘!?俺そんな顔で笑ってた!?」

「無意識かよ。まぁいいんじゃん?それがお前だろ?これからも俺の嫌いな物食ってくれりゃ何でもいいし」

「貴哉~、好き嫌いしないで食べないと大きくなれないよー?」

「おまっ!お前だって大して俺と変わらねぇじゃねぇか!」

「俺はこのままでもいいもーん♪」


 二人のコントみたいなやり取りを見ていて俺は笑った。男友達ってこんな感じだっけ?普通に話して笑えるもんだっけ?
 俺は味わった事のないこの楽しい空間に居心地の良さを感じていた。
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