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もっと素直になれたなら【早川雪編】
6.兄と弟
しおりを挟む弟の空から連絡が来たのは夕方になってからだった。きっと空は学校でもスマホを好きに使ってるはずだ。すぐに返事が無かったのは何の件で話があるのか分かったからだろう。
兄としてキチンと話してやらないとな!
『かしこまりました。今から向かいます』って文と、涙を流しながら地面に倒れている可愛い猫のスタンプが送られて来た。
そうして、空がマンションに到着する頃には俺の顔も大分マシになっていた。
玄関に入って来た汚い金髪の空は気まずそうに俺の様子を伺っていた。
「おじゃましまーす?」
「入って。コーヒーでいい?」
「コーヒーがいいでっす!」
リビングのテーブルに座らせてコーヒーを淹れてあげた。家にあったクッキーも出してあげた。空はそれらには手を付けずにずっとモジモジしていた。
「空さ、光ちゃんにカツアゲした?」
「カツアゲェ!?人聞き悪いだろそれ!俺はお小遣いが欲しいって言っただけだ!」
「開き直るな!俺は空にお小遣いあげてるよね?どうして光ちゃんからと貰おうとしたの?」
「それは……欲しい物があるからです」
「何が欲しいんだ?」
「髪に使うトリートメントと、洋服代……兄貴から貰った小遣いだけじゃ足りなくて」
「足りない?食費とは別に三千円渡してるだろ?もう使ったのか?」
信じられない!お小遣いとは別に食費を渡してる理由は母親が当てにならないからだ。空には十分に食べてもらいたいから多めに渡してるつもりだ。それとは別にスマホ代も俺が払ってるし、学校で必要な物があったらそれは別でちゃんと渡して来た。
まさか、金遣いの荒さまで母親に似てしまったと言うのか!
「それじゃ足りないって!そろそろ髪も染めたいしぃ?お洒落するには金がかかるんだよぉ~」
「呆れた!そんなに欲しいなら一番近くにいる母親からもらえば?」
「え、母さんは……お金持ってないから……」
「あのね、空、俺達の母親は働いてるのにも関わらず何でお金無いのか分かってる?全部男に使っちゃってるからだよ?」
「わ、分かってるよっ」
「空、女の子に貢いでたりしないよな?」
「バッ!してねぇよ!さすがにそんな事しねぇわ!」
「はぁ、やっぱり心配だわ。なぁ頼むから俺と一緒に住もうって。このままあの家にいたら絶対空の為にならないから」
「でも……そしたら母さんが一人になっちゃうじゃん……」
空の気持ちは知っていた。俺からしたら実の母親でも見捨てたくなるぐらいの人だけど、空にとっては大切らしい。何をしてくれるでもなく、むしろ何もしてくれなくても自分の母親ってだけで離れられないでいるんだろう。
俺よりも親の愛情を受けられなかった空は自然と親からの愛情を求めているのかも知れないな。
俺は少し考えて空を傷付けずに説得する方法を提案する事にした。
「こうしないか?俺は母親とは縁を切ったけど、空は切らなくていい。今まで通りの親子関係だ。でもそれは中学までにしよう。高校生になったらここにおいで。部屋もちょうど空いてるし」
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「待って、俺高校行く気ねぇよ?働くつもりでいるんだ」
「何言ってるんだ。俺が中卒なんだから空は高校出とけって。学費なら心配するな。空の為の貯金があるからな♪」
「何それ……俺そんなの知らねぇよ?」
「言ってなかったもん。俺は空が思ってるよりお前の事大事に思ってるんだよ。だから今の空が心配で仕方ないんだ。本当なら今すぐにでもここに住まわせたいぐらいだけど、お前の気持ちも大切にしようと思ったんだ」
「兄貴、やべ、ちょっと感動……」
「はは、泣いていいんだぞ?可愛い弟よ」
「いや、兄貴が俺の事大切にしてくれてるのは分かってたよ?でもさ、俺邪魔じゃない?兄貴にだって兄貴の人生があるんだし」
これは驚いた!まさか弟の空にそんな風に思われていたなんて!
そっか。空は見た目だけじゃなくて、中身も人を気遣える優しい大人に成長していたんだね。
「邪魔なんかじゃないよ。むしろ一緒に暮らしてくれた方が安心出来るし、助かるなぁと思ってるよ。空、どうかな?俺と一緒に住むの考えてくれない?」
俺はなるべく優しく、嫌がらせないように落ち着いて話してみた。すると空は目を潤ませて頷いた。
「分かったっ!兄貴、今までごめんっ俺のワガママで心配ばかり掛けてた!俺、中学卒業したら兄貴と暮らすよ。実は俺も母さんの事諦めてたんだ。多分、あの人に必要なのは息子じゃなくて自分を見てくれる男なんだと思う」
「空ぁ♪うんうん!そういう事なら何でも協力するからな!それと、空の高校だけど」
この際だから空の進学先も俺が決めようと思っていた。空は勉強が出来る。俺が知ってるのは小学生までだったけど、さっきの写メを見る限り今でも勉強はしてるみたいだからな。それと、出来れば真面目になって欲しいんだ。母親のように異性の尻ばかり追いかけるような男にはなって欲しくない。そう、進学校で尚且つ男子校の城山高校が良いと思うんだ。
「あ、高校は本当に行く気ないんだ。俺も兄貴みたいに働くから」
「いや、空は高校に行くんだ。さっきも言ったけど、金の心配は大丈夫だ。城山高校とかどうだ?空の頭なら余裕で受かると思うし、今の城山はファッションにも理解があるようで、頭髪や服装も自由なんだって」
「城山ぁ?俺があんなとこ行ける訳ないだろ~!」
「大丈夫だって♪あの家じゃ勉強もろくに出来ないだろうからここを好きに使うといい。これ合鍵な。渡しておくから失くすなよ?」
「あは、何このキーホルダー?可愛い~♪」
ワタルが使っていた合鍵をそのまま渡すと、空は楽しそうに笑っていた。
何とか空には受験させる気になってもらおう。これからは頻繁に空とやり取りをするようにして、様子を見る事にした。
機嫌を取るじゃないけど、空が今回欲しがっていた物も買ってあげる事にした。
きっとワタルともこうして落ち着いて話していたらまた違った結末になっていたのかも知れない。
でももう過ぎてしまった事だから考えるのはよそう。
空がいればワタルがいなくなった空白も埋められる気がするんだ。
うん。大丈夫。少しずつでもワタルの事は忘れよう。
これからは仕事と弟の事だけを考えて生きていこうと心に決めた。
✳︎完✳︎
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
今回は空くんのお兄ちゃんの早川雪のお話でした!
雪兄は本編ではチラホラ出ているキャラになります。基本光児さんとセットが多いかな?ちなみに恋人の本郷ワタルも本編で出て来ているんです♪
雪とワタルの話はいつか書きたいと思っていました。でもまだ書き足りないっ!
てか雪兄、ワタル、光児さんの三人は好きだからもっと本編で出したいんですよね(^ ^)
雪兄は、空と似ていて柔らかい雰囲気のお兄さん系イケメンです。性格は空よりキツめで、結構物事ハッキリ言います。唯一光児さんには甘えます。自他共に認めるブラコン。弟大好きお兄ちゃんです。
ワタルは、本編では優しい雰囲気の爽やかイケメン大学生に成長していますが、この頃は誰にでも愛嬌を振り撒き愛される可愛い男の子でした。素直で真っ直ぐで純粋な子。
光児さんは、イケオジと言うほど歳は取ってませんが、そんなイメージです。見た目も中身もかっこいい大人の男!髪型やファッションもちょい悪な感じで、年下から慕われる事が多いです。
そんな三人とまだ中学生の空くんのお話でした♪
ここまで読んで下さった方々、本当にありがとうございます(*^ω^*)
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