どいつもこいつもサイドストーリー【短編集】

もっと素直になれたなら【早川雪編】

５．二人の兄貴

　泣き腫らした顔のまま仕事を終えて家に帰るとポストに合鍵が入っていた。その合鍵にはワタルお気に入りのキーホルダーが付いていた。
　ワタルが荷物をまとめたのはスマホに来てたメッセージで知っていた。けど、こうして実感する物を見ると心が痛くなった。

　部屋に入ってワタルの部屋の扉を開けて更に追い討ちを掛けるかのように悲しみと悔しさが込み上げて来た。
　部屋はベッドだけで、ワタルの服やおもちゃ、お気に入りのぬいぐるみやクッションなど、何もかもが無くなっていた。

　俺がそうしろって言ったのに、実際に言う事を聞いて出て行ってしまったワタルに対して申し訳ない気持ちと己の愚鈍さでまた涙が溢れた。

　
「ごめんっワタルっ……俺がもう少し大人で、ちゃんと話を聞けていればっ……」


　誰もいないひとりぼっちの部屋で朝まで泣き明かした。

　
　そしてそのままワタルの部屋で眠りに落ちていた俺は、光ちゃんからの電話で目が覚めた。
　スマホの時計を見るともう昼過ぎで、重い体を起こして電話に出る。


『雪ー！今日少し早く来れるか？』

「え、ごめん。今日休みたいです」


　瞼が開かないってぐらい重たかった。きっと泣いてそのまま寝たから腫れてるんだと思う。こんな顔でまた接客するなんて嫌だった。


『まぁ休んでもいいけどよ、実は空から写メが送られて来たんだよ。今送るから見てみろよ』

「空から写メ？」


　通話中にしながらスマホの画面を操作すると、すぐに光ちゃんから空からであろう写メ載ったスクショ画面が送られて来た。
　え？何これ？学校のテスト？
　重たい瞼を一生懸命に開いて見てみると、どうやらそれは学校のテストで、解答用紙のようだった。名前のとこには早川空って名前と、１００点という素晴らしい点数が書かれていた。


「何でこんな写メが光ちゃんに？」

『んー、写メの下読んだか？一応保護者のお前には言っとこうと思って』


　俺は再びスクショ画面を開いて良く見てみる。写メの下にある空のアイコンの文を読んでみた。
『第二のお兄ちゃんへ♡テストで１００点取りました♡三男はお小遣いが欲しいです♡』
　第二のお兄ちゃん？三男？お小遣いだぁ！？


「ちょっと！光ちゃん！これどういう事！？」

『俺が聞きてぇよ。第二のお兄ちゃんってのは嬉しいけど、まさか小遣いねだられるとはな～。俺はくれてやってもいいけど、第一のお兄ちゃんに聞いてからにしようと思ったんだ』

「あげなくていい！小遣いならちゃんと渡してる！」

『あはは、分かったよ。んじゃあゆっくり休めよー。週末は出勤必須だからな～』


　光ちゃんとの電話を切った後、すぐに空にメッセージを送っておいた。
『三男へ。今日学校が終わったら会えますか？第一のお兄ちゃんは三男と話がしたいです』これで良し。っと。

　俺は急いで腫れた顔を何とかしようと、とりあえずシャワーしてから、ずっとマンションで顔を冷やして過ごしていた。