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やっぱり好き【犬飼誠也編】

3.映画館

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 みんなでランチを食べた後、上映時間も近かったので映画館で待機する事になった。
 茜ちゃん、ポップコーンとか食うかな?


「茜ぇー♪ポップコーンコーラ味だって!一緒に食おうぜ~♡」

「嫌だ!普通のがいい!」


 って、既に桃山と売店の列に並んでるし……
 これじゃ全然デートって感じしねぇよ。せっかく楽しみにしてたのに……


「おう犬飼~!今日茜の事誘ったのってお前なんだろ?」

「秋山……そうだけど?」


 一人でガッカリしながらベンチに座ってたら秋山が声を掛けて来た。桐原はどこへ行ったのか秋山一人だけだった。


「お前も積極的じゃん。まぁ桃山まで付いて来ちまったみてぇだけどな」


 お前らもな!とは言わずに頷いておいた。
 秋山はとても秋山らしい格好をしていた。ダボっとした自分より2サイズは大きいであろう黒のTシャツに、くるぶしのとこで折り返してるダークブルーのダメージパンツ。黒のキャップがやんちゃさをアップさせていてとても良く似合っていた。こうして近くで見ると秋山って綺麗な顔してるんだよなぁ。普段は馬鹿っぽいから分かりにくいけど、こいつがモテるのも分かる気がする。
 対して桐原は学校の外でも目立っていた。赤い髪もだけど、抜群のスタイルとやっぱり顔だ。休みの日でも芸能人かと思うぐらいのオーラを放っている。服装は大人っぽくて、白のTシャツの上に羽織っているブルーのカーディガンが良く似合っていた。


「ダメ元で誘ってみたらOK貰えたんだ……だからデートプランもバッチリ考えたんだ……昨日とか楽しみ過ぎて眠れなくて……でも少し寝て朝も早く起きて……はぁ」

「あー、なんかお疲れ!」

「秋山はいいよな。桐原とラブラブでさぁ」

「そうでもねぇよ?あいつといると目立つからそれが嫌!ほら今だって一人でポップコーン買いに行かせたけど、女に声掛けられてるし。ムカつくぜ」

「桐原だからな~」

「お前だってモテるだろ?女には困ってねぇ見た目してんじゃん」

「まぁそりゃそうだけど」

「なぁ、茜のどこが好きなんだ?」

「えー、可愛いとこ?」

「あはは!確かにあいつ可愛いよな!いつも一生懸命だし!」

「笑顔が好きなんだ。茜ちゃんがあんな風に笑うなんて知らなかった。秋山、お前が来てから茜ちゃんは変わったよ」

「それは勘違いだな!俺は何もしてねぇよ。お前らが茜の事をちゃんと見てなかったからだ。茜は不器用だから分かりにくいけど、元からあいつは真面目で真っ直ぐで仲間想いだよ」

「秋山、お前も変わってるよな。演劇部に来た時は冷やかしかと思ったけど、今じゃあんなに堂々と演技してるもんな」

「まぁそれはアレだ!退学を免れる為に仕方なくだ。本当はやりたくなかったよ。でもさ、茜やお前らと会えたし悪くなかったなーって思う」

「俺とも?そんな風に思ってくれてるのか?」


 これは意外だった。
 夏休み中にあった部活のバーベキュー大会で俺は吉乃やトモと一緒に秋山に酷い事をしようとした事があった。今では謝罪をして、許して貰ったけど、それでも秋山が俺の事をそこまで言ってくれるなんて思ってもみなかった。


「ああ。犬飼って頭良いんだろ?裏方のリーダー任されてるだけはあるなって見てて思う!周りの奴らからも慕われてるし、悪い奴じゃねぇんだろうなぁってさ」


 秋山は笑顔でそう言った。
 それは違うよ秋山。俺は悪い奴だ。
 秋山にしたのとは別件で何度も吉乃やトモを使って悪さをして来た。自分では手を汚さずにそれを見て楽しんでいたんだ。そう、秋山にしたみたいに。

 だから、茜ちゃんの事を好きになったタイミングも罰なのかなとか思う所はある。
 桃山という恐ろしい男より後に好きになるって言うな。

 でも、秋山にそう言われて俺は嬉しかった。


「ありがとう。自分が良い奴って自信はねぇけど、茜ちゃんに誓ったからさ。俺はもう悪い事はしねぇって。だから罰が解けるのを待つよ」

「罰?何の事言ってんだよ?」

「実際叶わない恋だって分かってるんだ。茜ちゃんが桃山と付き合ってる限りな」

「ふーん。それなら奪っちまえばいいじゃねぇか」

「あのな、相手はあの桃山だぞ?」

「相手が誰だろうと選ぶのは茜だろ?実際俺は空と付き合ってたけど、伊織を選んだし。正直まだ心残りはあるよ。でも今は伊織といて楽しいからいいかなって思ってるよ」

「……桐原だから奪えたんだろ」

「それもあるかもな~。でもさ、茜は本気でぶつかって来る奴には本気で返す奴だよ。それは俺が保障する。だから砕けるまでアタックしまくれ!それでこそ男だろ」

「お前ってめちゃくちゃな事言うよな。でも、そう言うのも悪くないかもな」


 俺は頭を使って動く事が多かった。一条みたいに先の先、更にその先を読んだりはしないけど、ある程度計算してから物事を動かすのが普通になっていた。
 だから今回茜ちゃんをデートに誘ったのは本当に勇気が必要だった。先なんて読めないからな。いや、ほぼ確実に断られる計算だった。
 それを考えたら秋山の言うことも間違えてはいないと思った。
 俺も桐原みたいにかっこよく好きな人を奪えるかな。そしたら二人みたいに楽しく過ごせるんだろうな。


「あ、伊織が戻って来る。おい俺演技するから合わせろ」

「は?何その無茶振り。俺裏方だから演技とか出来ねぇし」


 ポップコーンと飲み物を二人分持ってこちらに向かって歩いてくる桐原。そしてそれを足を組み、さも機嫌悪そうな態度で出迎える秋山。ああ、さっき桐原が逆ナンされてたやつの仕返しか。


「貴哉ー♡お待たせー♡」

「お待たせじゃねぇよ。何だよ今の?俺キレてんだけど?」

「どしたの貴哉」


 明らかに態度の悪い恋人の秋山に、訳が分からず笑顔のまま俺を見て来る桐原。ちょっとだけ秋山の話に乗ってやる事にした。
 

「桐原さ、さっき女の子に声掛けられてたろ?」

「あ、あれか。え♡やきもちやいてるのー?嬉しー♡」

「嬉しいじゃねぇ!俺は怒ってんだ!」

「安心しろって♡俺は貴哉だけだから♡あの子達には大切な人と来てるからってちゃんと言ったし」

「え?本当に?」

「本当だ。俺そう言う目的で声掛けられたらいつもそう言ってるよ。貴哉と付き合ってからはな」

「マジで?ふーん。ならいいんじゃん?」


 あれ?一芝居打つんじゃなかったのか?
 桐原にとびきりのイケメンスマイルで口説くように言われた秋山はまんざらでもない顔して照れていた。
 

「あはは、秋山面白ぇ!お前ら仲良いな。ごちそーさま!」

「声掛けられると言えば、七海も声掛けられてたぞ。男に」

「あー、今日のあいつめちゃくちゃ可愛い女子だからな~。男からのナンパなんかしょっちゅうだろうな」

「あのさ、二人って七海ちゃんの好きな人って知ってるか?」

「「…………」」


 ここで二人は黙って顔を見合わせていた。
 今日もしかしてと思ったんだけど、二人なら知ってるかなぁって。


「さぁな?あいつの好きな人の話なんか聞いた事ねぇな。良くイケメン見つけてはかっこいいとか言ってるけど、いつも違う人だし」

「お、俺も知らねぇ」

「そっか」


 桐原は本当に知らないみたいだった。秋山は少し怪しい感じもしたけど、あまりしつこくして桐原の怒りでも買ったら大変だからな。桐原も好きな奴の事になると桃山並みに怖ぇからな。よくトモが犠牲になってるのを見てるから俺は秋山には一枚壁を作って接するようにしていた。

 俺もこの二人みたいに茜ちゃんと付き合えたらやきもちとか妬いたり妬かれたりして、こういうやり取りが出来るのにな。
 仲良くポップコーンを摘んでる二人を見て羨ましいなと思っていた。

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