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やっぱり好き【犬飼誠也編】

1.デート

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 とある日の日曜日。俺、犬飼誠也は早起きをしていつも以上に髪のセットに時間を掛けた。ファッションにも手は抜かない。昨日新調した秋冬の新作を見事に着こなして鏡の前で何度もいろんなポーズを決めては自分を勇気付けていた。

 そう、今日はなんとあの茜ちゃんとデートをする日なんだ!
 ずっと休みとか遊びたいなぁと思っていて、金曜日の部活中に何気なく聞いたらあっさり「いいよ」って!
 
 茜ちゃんには桃山ってゆーめちゃくちゃ危険な彼氏がいるけど、茜ちゃんは俺の気持ちを知っているんだ。それでも休みの日に会ってくれるなんて、こりゃデートだろー♪

 俺が立てたデートプランはこうだ!
 まず、昼前に駅で待ち合わせをして少し早めのランチを取る。カップル向けのお洒落なカフェはチェック済みだ。そしてその後映画を観る。もちろん恋愛物だ。二人で恋愛映画を観てそういう雰囲気になった所でまだ調子には乗らねぇ!
 時間的にディナーに誘ってここで更に茜ちゃんの気持ちを盛り上げる!その後は……♡

 あー早く待ち合わせの時間にならねぇかなぁ♪

 俺は外見の最終チェックをしてから少し早めに家を出た。茜ちゃん真面目だから早く来そうだし?茜ちゃんの私服どんなんかなぁ?部活のバーベキューん時はまだそんな関係じゃなかったから覚えてねぇんだ。
 あー、あん時から好きになってればもっと楽しめたのになぁ。

 ずっと茜ちゃんの事を考えながら電車に揺られる。俺が乗った時は空いてたけど、電車が進むにつれてどんどん混んで行った。
 茜ちゃんにはこんな満員電車乗せたくねぇなぁ。てかあんなけ可愛いんだから痴漢とかに遭いそうだ!そしたら俺が守ってやるけどな!

 一人でニヤけていると電車が大きく揺れた。立っていた人達がよろけるぐらいに大きく。座ってて良かったぜー。
 この揺れで誰かが俺の足にぶつかって来た。いつもなら睨んでる所だが、今日の俺は機嫌がいい。俺の足の長さに免じて許してやろう。


「うわぁ!っと、ごめんなさいっ!足、大丈夫ですか……って誠也ぁ!?」

「あ、七海ちゃん!うわ、一瞬分かんなかった!」


 こりゃ驚いた!俺の足にぶつかって来たのは同じ学校、学年のぶりっ子ちゃんの小平七海だった。この子は本当に小さくて女みてぇな見た目してんだ。可愛い見た目とぶりっ子で周りからはチヤホヤされてる男の娘。
 今だって女子が着るようなガッツリ肩の出てる白のニットに、下は茶色のミニスカート履いてる。くるぶし丈のフリルのついた可愛い靴下に、見えてる足なんかには毛なんて一切生えてない。
 極め付けはライトブラウンのセミロングのウィッグとバッチリメイクだ。ただでさえ可愛い顔してんのに、つけまつ毛にマスカラ、ほんのりピンクのリップグロスまで付けちゃって!
 そこらの女子より女子っぽいぞこの子は!


「七海ちゃん気合い入ってんね~♪デート?」

「そ、そっちこそ!そんなお洒落してどこ行くんだよ?」

「秘密ー♡」

「俺も秘密だし!」


 俺と会った事でバツの悪そうな顔をする七海ちゃん。何でかな?前は普通に話す仲だったのに、最近は俺に冷たいんだ。確かに人に恨みを買われんのは得意だけど、七海ちゃんには何もしてねぇぞ?


「なぁ、何で俺に冷たいのー?ずっと気になってたんだよなぁ」

「自分の胸に手を当てて聞いてみな!」

「はぁ?まぁいっか。あ、俺ここで降りるから。またな~」

「ちょっと待って!俺もここで降りるのっ」


 茜ちゃんとの待ち合わせの駅に到着したから立ち上がると、七海ちゃんが俺の腕を掴みながら言った。うおう!こいつぁマジで女子といる気になっちまうぜ!何も知らない人達はカップルだと思ってんだろうなー。


「へー、買い物か何か?俺は待ち合わせ♪」

「さっきからすげぇ機嫌良さそうだけど、本当にデートなの?でもお前の好きな人って二之宮だよな?諦めたの?」

「ふふ♪実は~♡茜ちゃんとデートなんでーす♡」

「はぁ!?んな訳ないだろ!二之宮が誠也となんてする訳ないじゃん!」

「本当だって!なら来てみなよ。さっき着いたってメッセージ来てたし」

「嘘!桃山は!?そんなのあいつが黙ってないだろ!」

「俺ならここだよーん♪」

「ぎゃーーー!!」


 七海ちゃんと話しながら待ち合わせ場所まで向かってると、突然黒ずくめのマスク男が現れて七海ちゃんは悲鳴を上げた。
 うわっ!マジで桃山じゃん!何でここにいるんだよ!


「二人共そんなお洒落してデートでもしてんのー?キャハハ~」

「してねぇよ!誠也となんてする訳ねぇだろ!」

「えっそんな否定しなくても良くね!?」


 俺が地味にショックを受けてると、桃山の後ろからなんと、茜ちゃんがひょこっと顔を出した。青いシャツを着た私服姿の茜ちゃん♡でもちょっと待て!
 は?何?どーなってんの?何で二人が一緒にいるのよ?


「あ、本当に犬飼と小平だ!」

「ほらな?一人女装してっけど、俺が処刑対象を見間違える訳ねぇだろ」

「な、何で二人がここにいるの!?えっ誠也が言ってたのって本当だったの!?」

「本当だけど、想像と少しちげぇ。茜ちゃん!何で桃山がいるんだよ!」

「すまない!どうしても湊に嘘をつく訳にはいかなくて、犬飼と遊ぶと言ったら俺も行くって言い出して……でも安心しろ!絶対喧嘩しないって誓わせたから♪」


 笑顔でそう言う茜ちゃんは、次に七海ちゃんを見て言った。


「小平、それは普段からそういう格好をしているのか?」

「えっ、そ、そうだけど?スカートとか可愛いじゃん?」

「ああ可愛いな。とても良く似合ってるよ」

「うるせぇし!わざわざ言わなくても分かってるもん!」

「あはは」


 茜ちゃんは決して男が女の格好をしてとか腫れ物を見るような目じゃなくて、本当に七海ちゃんの事を褒めていた。それに対して七海ちゃんは顔を赤らめて俺に取るような態度を取った。

 え?え?これがぶりっ子の七海ちゃんなの?
 ちょっと待ってよ。茜ちゃんは笑ってるけど、もしかして七海ちゃんって……?

 俺がギョッとして見てると桃山がケッと嫌な顔をしながら言った。


「で、何で小平がいんの?お前の事は俺聞いてねぇけど」

「俺は普通に買い物に来ただけだよ。そしたら電車の中で犬飼に会ったんだ」

「ああ、たまたまな!」

「ふーん。てか二人共めちゃくちゃお似合いだぞ♪なぁ?茜ぇ♡」

「ああ。二人共凄くお洒落で一瞬誰だか分からなかったぞ。とてもお似合いだ♪」

「なっ!?やめてよ!誠也なんかとお似合いだなんて!」


 二人に言われて怒り出す七海ちゃん。
 これは多分アレだ。七海ちゃんは茜ちゃんの事が好きだ。いやでもたまたまかも知れないからな。勘違いは禁物だ。少し様子見が必要か……
 俺は思わぬライバルの登場に信じられない気持ちだったけど、心を落ち着かせて動揺しないように心掛けた。


「まぁまぁ七海ちゃん、せっかくだし七海ちゃんも一緒に遊ぼうぜ~♪いいよな?茜ちゃん」

「もちろんだ。それと、他にも声を掛けているんだ。もうこの駅に着いてる筈なんだけど」


 何ぃ!?まだ邪魔者が来るってのか!?
 せっかくの茜ちゃんとの二人きりのデートだと思ってたのにぃ!

 俺は心に渦巻く嵐を隠すのに一生懸命だった。
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