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One more time.【野崎楓編】

5.悪

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 貴哉がやって来たのはそれから30分も後の事。
 芽依ちゃんは怒りまくりで貴哉にボロクソに言ってたのは言うまでもない。
 それでも貴哉はちゃんと約束を守って、見事に荻野を撃退する事に成功した。まぁ心配だから荻野の事はしばらく見張るとして……

 荻野を撃退出来たのは良かったけど、やり方が少しやり過ぎだったかなとも思ってる。
 どうやって荻野を追い払ったかと言うと、俺が思い付いた作戦で、貴哉と芽依ちゃんに荻野に見せ付けるようにキスをしてもらう事だ。

 どうやら荻野は二次元オタクで、芽依ちゃんの事を大好きな二次元のキャラクターと重ねて見ていたらしい。だから、その二次元のキャラクターが絶対やらなそうな事をすればいいのでは?と思い付いたんだ。
 んで、手っ取り早く出来そうだったのが、キスだったんだけど、二回もさせちゃったんだ。
 上から物を言う芽依ちゃんを困らせたかったのもあったし、久しぶりの貴哉とのやんちゃでちょっと調子に乗ったのもあった。

 でもこの一件で分かった。
 俺はまだ貴哉の事が好きだって事が。
 おまけに芽依ちゃんの心までそのキスで射止めたらしく、さすが貴哉だなと感心もした。

 戸塚と芽依ちゃんは帰って行き、俺は貴哉と久しぶりに並んで歩いていた。
 懐かしいなぁ。

 そんな風に懐かしみながら、今の貴哉の話とかを聞きながら歩いていると、ふと貴哉は小声になってある事を聞いて来た。


「楓って彼氏とセックスした事あるか?」

「セ、セックス?」


 これには驚いた。あの貴哉からそっち系の話題を振られるなんて!
 それに今はあまり貴哉の性事情とか聞きたくねぇかも。


「おう!どうやれば良いのか教えてくれねぇか?」


 貴哉は照れたように笑って聞いて来た。
 なんだ、彼氏とのノロケ話を聞かされるかと思ったらそう言う事か。なるほどな。貴哉はまだセックスはしてないのか。
 ホッとしてる俺。貴哉と他の男がいちゃついてる話なんて聞きたくねぇもん。

 そして、成り行きで貴哉にセックスのやり方を教えてやる事になった。
 久しぶりに貴哉を部屋に上げた。
 話をしなくなる前までは毎日のようにお互いの家を行き来してたのが嘘のように無くなったからな。

 そしてゆっくり貴哉の様子を見ながらどうやればセックスまで持ち込める空気になるかを言葉や行動で教えてやった。
 貴哉は本当に覚える気らしく、真剣に聞いていた。

 時折漏れる貴哉の可愛い声。俺がする事に感じてる事が嬉しかった。
 だけど、俺は気が気じゃない。だって貴哉の事が好きだから。
 少しでも間違えればそのまま押し倒してしまいそうになる気持ちを誤魔化すかのように、貴哉の彼氏の名前を出して一線引いていた。


「なぁ楓は嫌じゃねぇの?俺にこういうのするの」

「嫌な訳ねーだろ」

「ほら彼氏に悪いなぁとか」

「それはある。でも俺と貴哉が言わなきゃ誰も知らねーままじゃん」

「そりゃそうだけど」

「貴哉、早川に悪いと思ってるならもう辞めよう。後悔する前にな」

「…………」


 俺はまだ貴哉とこうしていたかった。けど、貴哉に嫌われたくない思いでそう言ったんだ。


「楓っ俺、馬鹿だから気付くの遅くなった」

「ん?」

「これって浮気だよな……?」

「……貴哉」

「俺、しちゃいけない事を……」

「違う!浮気なんかじゃねぇよ!勉強だ!」

「楓、これが浮気じゃねぇなら、何で泣きそうな顔してんだ?」

「っ……」


 俺、そんな顔してたのか?


「楓、俺が悪かったよ。こんな事頼むんじゃ無かった。また楓に辛い思いさせちゃったな俺……」

「貴哉!」

「せっかく仲直り出来たのにな」

「俺は辛くなんかねぇ!」


 俺は貴哉を思い切り抱き締めていた。
 もうあれこれ考えてられなかった。
 また貴哉に嫌われてしまう。それだけが怖くて、俺は必死になっていた。


「貴哉、頼むから嫌いにならないでくれっ」

「楓?」

「やっぱり貴哉といるの楽しいし、また嫌われるとか嫌だ!貴哉に頼まれて嬉しかったんだ!貴哉の為になれる事がっ」

「はは、嫌いになんてなるかよ!」

「お互い恋人いるのにこんな事しちゃいけないって自分でも分かってるんだ。でも嫌じゃなかった。貴哉だから」

「……それ、俺もだぜ」

「貴哉も?」

「むしろ楓以外とか考えらんねーよ。乳首舐められて感じるとか、アソコも勃つ気がしねー。多分楓だからだろうな」

「……嬉しい」


 俺は素直に思った事を言った。
 貴哉も俺に触れられるの嫌じゃなかったんだ。
 今はそれだけで十分だった。

 その後俺は調子に乗って貴哉にキスをした。初めは避けようとしてたけど、すぐに捕まえて続けた。
 ああ夢みたいだ。貴哉とキスをしてるなんて……


「貴哉さ、嫌ならもっと暴れるとかしなきゃダメだろ。じゃなきゃ俺止められねぇよ」

「だって、嫌じゃねぇもん!」

「は?何それ」

「楓とするの嫌じゃねぇよ?嫌だったらそもそも楓んちに来てねーよ」


 それって期待してもいいって事か?
 いや、好きな奴にそんな事言われたら期待するだろ。


「……だって貴哉には早川いんだろ」

「早川は早川だろ。楓は楓。さっき楓はこれは浮気じゃねぇって言ってたし、勉強なんだろ?」


 え、貴哉さん、マジで言ってんの?
 ちょ、さすがに誰とでもキスしたりしねぇよな!?あ、さっき芽依ちゃんとしてたし、貴哉は誰とでも出来ちゃうのか!?


「そもそも楓にも彼氏いるし!早川いるのは関係なくね?」

「相変わらずの天然っぷりだな……」

「てめぇ!馬鹿にしてんのか!」


 はぁ、本当貴哉には驚かされるわ。
 でもまた貴哉とこうして過ごす事が出来て俺は嬉しかった。

 貴哉は俺と際どい事をしてしまって彼氏に罪悪感感じてたけど、正直俺は恋に対してそんな感情は無かった。
 てか俺が貴哉の事を好きだったの知ってるしな。

 ふと部屋にある恋に借りた漫画を見て思う。
 恋が貸してくれる恋愛漫画はどれもハッピーエンドで、俺には少し読むのがキツかったんだ。
 どうして毎回主人公は意中の相手と結ばれるのか。どうして主人公のライバルは勝てなかったのか。
 貴哉に一度振られているからか主人公に肩入れする事が出来ず、俺はライバルや片想いをしているキャラクター達にばかり惹かれていた。
 恋が言うにはライバルはムカつくし、悪だとか言うけど俺はそうは思わない。
 どんな奴にでもストーリーはあるし、好きな奴はいる。主人公に酷い事をしていたとしても、それは好きな奴を手に入れたいが為の行動なんだろ?だったら間違ってないだろ。

 ま、俺の感想は一般的な見方じゃないだろうけど。

 きっと俺は物語に出て来るなら主人公の恋を邪魔する悪役だろうな。絶対成就する事のない恋をする可哀想な脇役。
 でも、それでもいい。一度離れてしまったものがまたこの手に入るなら、俺はどんなに悪になったって構わない。

 もう失わない為に、なんだってする。
 恋人を傷付ける事になっても……

 貴哉の笑顔を見て俺はそう心に決めた。



 ✳︎完✳︎


 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 本編の主人公、貴哉の親友である野崎楓のお話でした!こちらの話は本編の2nd seasonに出て来るお話のサイドストーリーになります。
 楓は誰からも愛されるイケメン、文武両道キャラです。高校入学までは黒髪で、真面目そうな見た目でした。貴哉と一緒に悪さはしてましたが……
 ですが、高校入学と共に、髪を染めてピアスも開けました。ある意味高校デビューですね!でもそれは貴哉を吹っ切る為だとか何とか。その後もちょこちょこ髪型や髪色を変えてお洒落を楽しんでます。
 恋くんは、貴哉に似せてます。茶髪版貴哉。
 
 ここまで読んで下さった方々、本当にありがとうございます♪
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