どいつもこいつもサイドストーリー【短編集】

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クズとピアスと友達と【雉岡吉乃編】

5.ぐいぐい来る友達

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 英語の授業中、誠也が英語の先生に指名されて教科書に載っている例文を読み上げていました。
 誠也はああ見えて勉強は出来るんですねー。トモなんか寝てるけど、今だってスラスラと綺麗な発音で読んでいます。そう言うのもあってみんな逆らえないんでしょうね~。


「はい、犬飼くんありがとうございました。えーでは犬飼くんが読んでくれた例文に対して答えてくれる方~」


 そんなの手挙げる人なんている訳ないでしょ。正直、誠也が何て言ってたのかもわからないですし。先生が困ってると、静かに手を挙げる男が一人。一条だった。


「あ、一条くん答えてくれますか?ではお願いします」

「はい♪」


 指名されて嬉しそうに立ち上がる一条。教室の空気が変わったのが分かりました。
 そして一条は教科書なんか見ないで真っ直ぐ先生を見ながらスラスラと英文を喋り始めた。まるでそこに本場の外国人がいるかのような発音で……
 え?何?何て言ってんの?ちょ、誰か訳してくれません?


「ワンダフル!!一条くん素晴らしい発音です!そして文も完璧!アメリカに住む友人を思い出しました!」

「ありがとうございます」


 先生もベタ褒め。みんなは驚きながらもザワザワとし始めた。そして何も無かったかのようにまた椅子に座る一条。

 今までまともに授業受けて無かった癖に、一条はずば抜けて頭が良いっていう噂は本当なんですね。他にも家が大手ホテルを経営していて、超の付く金持ちだとか、帰国子女だとか、学校の外でヤバい人達と関わっていて変な薬やってるとかとか一条に関する噂はたくさんありまして……

 だからみんな今でも遠巻きに見てるだけなんでしょうね。二年にもなれば仲の良い友達やグループも出来てる頃だし。

 まぁ友達のいない茜ちゃんとか手頃な感じだったんでしょう。二人の間に何があったかなんて知らないし、知りたいとも思いませんけど。


「きじー?おーい!きじーってば!」

「……えっはい?」


 あれ?俺ってば何してた?
 気付いたら目の前に一条がいて驚きました。
 周りを見ると、とっくに授業は終わっていたらしく各々休み時間を楽しんでいた。


「どうしたの?ボーっとしてたけど」

「もしかして、ずっと呼んでた?」

「うん。何かあったの?」


 心配そうに顔を覗き込まれて咄嗟に顔を遠ざけると、一条は目を丸くして驚いた後に悲しそうに笑った。あ、やべ。


「あーっと、何か用?」

「ああ、うん……今日一緒に帰らない?ってお誘いしようと思ってたんだけど……」


 あちゃー、明らかに元気なくなっちゃいましたか。別に気にする事無かったけど、何故か感じた罪悪感から少し考えてしまいました。


「きじーが嫌なら……」

「嫌じゃねぇよ。ちょっと部活に顔出してすぐ上がって来るから待ってもらう事になるけど」

「いいの!?待つよ!何時間でも待つ~♡」

「っ…………」


 今度はとても嬉しそうに笑っている。
 何この子。こんなに可愛い子だったの?
 いや、何時間も待たせないですけどね?


「今日茜ちゃん達デートだから桃に邪魔だって言われちゃってさ~。きじーデートしよう♡」

「ああそうですか。俺は茜ちゃんの代わりですか」

「代わりとかじゃないよっ!きじーも友達だもん!きじーとも遊びたいって思ってるんだよ」

「何でもいいや。そんじゃ遊んでもらいますわ」

「吉乃」

「え?」

「下の名前、吉乃だよね?」

「そだけど。別にきじーでいいよ」

「綺麗な名前だなーって思って」

「そうか?良く苗字みてぇとか牛丼みてぇとか言われるけどな」

「ううん。凄く綺麗。吉乃♡」

「そのさ、ハート付けるの辞めない?」

「なんでー?仲良しって感じがして良くなーい?」

「一条って誰にでもそうなの?」

「まさかぁ~!貴ちゃんと、茜ちゃんと、吉乃にだけだよ~」

「すっかり名前呼びだし。もーいいわ何でも。ん?てか次移動か。どうりで人少ねぇ訳だ」


 教室の中がどんどん静かになって来てやっと気付いた。美術の授業だからみんな移動してるんだ。
 俺も行こうと席を立つと、一条も付いて来た。
 

「ねぇ、吉乃も俺の事名前で呼んでいいよ♪」

「一条でいいです」

「えー!呼んでよー!犬飼達の事は名前で呼んでるじゃん」

「誠也とトモは前からだし。てか名前なんて何でも……ハッ!」


 そろそろウザくなって来たのでガツンと言ってやろうと振り向くと、今にも泣きそうな顔の一条がいました。
 あ、あの、本当に演技じゃないですよね?


「ちょ、一条!?」

「俺の事、友達だと思ってないんだ……」

「なんでそうなんの!ああもう呼べばいいんでしょ呼べば!紘夢さん!」

「さんはいらない!」

「紘夢!」

「あは♡嬉し~♡」


 コロっと嬉しそうに笑った。
 やっぱり演技だったんですね!
 すっかり騙されましたよ!


「吉乃~♡放課後デート楽しみだね~♡」

「だからデート言うなっての!」

「俺ね、コンビニで肉まんを買って食べてみたいの!」

「何それ?食べればいいじゃないですか」

「あとね、ゲームセンターとか、友達の家とかにも行ってみたいなぁ」

「……あ」


 そう言えば紘夢は謝罪の時、「家から行動を制限されていた」と言っていましたね。
 もしかして今言った事も制限されててやった事がないって事ですかね?
 だからやりたい事や夢も諦めて生きて来たって。そっか、紘夢もいろいろあったんだな。
 

「紘夢、他にはやりたい事ねぇの?」

「えっ!あるよ!友達とファミレスにも行きたいし、普通のお店で買い物とかも!あとね、あと……」

「はは!そんじゃ全部俺が付き合ってやるから、やりたい事ゆっくり教えてくれよ。今日はコンビニで肉まんな!てか今の時期売ってんのか?」

「吉乃ぉ♡ありがとうっ♡」


 うん。語尾にハート付けられるのも平気になって来ましたね。
 誠也とトモに茶化されるのが目に浮かぶけれど、紘夢が笑ってくれるならそれもいいやって思いました。
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