どいつもこいつもサイドストーリー【短編集】

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クズとピアスと友達と【雉岡吉乃編】

2.理由の無い挙手

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 この前まで桐原と秋山の件で学校中が大騒ぎでしたけど、それも今では落ち着いて今は今月末に行われる球技大会と、来月行われる文化祭でクラスは盛り上がってます。
 
 今、帰りのホームルームの時間で球技大会に出る種目決めをやってます。
 球技大会かぁ~。今年は二年B組の圧勝でしょうね~。なんてったって香山と桐原が揃ってますし。特に香山はヤバい。あの人がいるだけで周りの士気が上がって普段大した事ない奴らまで強くなるからなぁ~。

 俺は適当なの選んで適当にやれればいいや~。


「はいはーい!俺サッカーがいいー!」

「猿野くん、サッカー希望っと…他にサッカー希望者います?」

「おいお前やれ!あとお前も!それとお前!」


 お馬鹿なトモが率先して手を挙げて次々と仲間を指名して行きます。俺は残ったやつに手を挙げようとボーッと待ってると、サッカーのメンバーが決まった所で一条が手を挙げました。
 おっ、一条なら何でも出来そうだけど、今の状況で手を挙げるとはチャレンジャーですね。トモの馬鹿さにみんながほんわかしていた空気が一変して凍りつきました。


「俺、テニスに出場したいです」

「えっ、と……一条くん、テニスですね。テニスはダブルスなので、もう一人希望者いますか?」


 司会進行役のクラス委員がみんなに問うけど誰も手を挙げようとしない。これは予想通りですね。
 一条はキョロキョロして周りを見るけど、みんなは目を合わせようともしていませんでした。

 柄じゃないけど、どうせ何かには参加しなきゃですし、特に一条の事を悪く思ってもいないので俺はスッと手を挙げてみた。
 すると向けられるみんなからの視線。少し怖いぐらい見られてます。


「きじー……」

「あ、雉岡くん!テニス希望ですね!他にいなければテニスも決定と言う事で進めます」


 クラス委員は次の球技のメンバーを集め始めた。
 椅子に座った一条をチラッと見ると、頬杖を付いてどこか一点を見ていた。

 そしてホームルームも終わり、俺の所へ真っ先に来たのは誠也とトモの二人。


「吉乃~!お前どうしたんだよ!」

「そうだよ!水臭ぇじゃねぇか!」

「お前らこそどうしたんだよ。いつもは張り切って部活に飛んでく癖に」


 誠也は同じ部活にいる茜ちゃん狙い。トモは今臨時部員になってる秋山狙い。それぞれ授業が終わると急いで部活に行っていたのに、今日は俺の所に来るなんて……
 不思議に思ってると、誠也が顔を近付けて耳元でとんでもない事を言い出した。


「一条の事、好きなんだろ?」

「は?」

「大丈夫だ吉乃!俺らが応援してやっから!友達だろ!なぁ?トモ!」

「そうだぞ!もっと早く言ってくれれば良かったのに!」

「いや、何勝手な事言っちゃってんの?お前らと一緒にすんなって」

「あのー、雉岡?少し話せない?」

「おっ♪噂をすればだな♪」


 バッドタイミングとはこの事。一条が俺達の輪に入って来ましたよー。まぁ一条ならこいつらの言う事間に受けたりしないだろうけど。
 それにしても二人がここまで馬鹿だとは思わなかった。ちょっと呆れてます俺。


「俺の話してたの?」

「そんなとこ。二人共先に部活行ってろよ。後から行くから」

「は!早く茜ちゃんに会いに行かなくちゃ!」

「俺も復活した秋山に求愛しに行かなくちゃ!」


 馬鹿二人は慌てて教室から出て行った。
 一条はクスクス笑って俺の前の席に座った。
 さて、話とはなんでしょうね?


「三人て仲良いよね~」

「一年の頃から一緒だからな」

「俺の話って何を話してたの?」

「んー、球技大会だよ。俺がテニスに手を挙げたのが珍しいから驚いてたんだよ。一条の事好きなのかって」

「あはは。面白ーい♪ねぇ、どうして手を挙げてくれたの?俺もそれが聞きたかったんだ」

「俺は残ったやつに出ようと思ってたんだ。そしたら一条がテニスに手を挙げて、困ってたからちょうどいいやって思っただけ。あいつらの言う事は気にしないで下さいよ」

「うん。それでも嬉しいや♪ありがとう♪一緒に頑張ろうね」

「……はい」


 明るく笑う一条に少し驚いてしまった。その笑顔は本当に心から笑っているようで、今までの一条とは思えない瞬間だった。
 
 その日、俺は不思議な気持ちのまま部活へ向かいました。
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