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2章 球技大会
※ きっと俺は真っ当には生きられないから
しおりを挟む※空side
テニスコートまで行くと、意外と盛り上がっていて驚いた。桐原さんがいるバスケ程じゃねぇけどな。
貴哉を探すと、藤野と二人で外のベンチに座っていた。
「貴哉いたー♪」
「待って数馬くん。ねぇ空くん。貴哉はあの桃山さんとバトルしてとても喉が渇いてると思うんだ。買って来てくれるよね?」
「は?飲みたかったら自分で買うだろ」
「いや、せっかく同じクラスメイトとして行くんだから差し入れぐらいないとね~?同じクラスメイトなんだからさ~」
「…………」
「残念ながら俺は貴哉の好きな飲み物は知らないからさ。空くんなら知ってるでしょ?誰よりもさ♪」
「てめぇ」
「はい!自販機あそこ!さっさと買ってくるー!」
中西にまんまと操られているのが分かってるから腹立つが、言う事を聞いてしまう自分に一番腹が立つ。
だってそんな事言われたら悪い気はしねぇじゃん!
それにジュースぐらい、いいかなってさ!
俺は二人から離れて自販機へ向かう。良かった。紙パックの自販機だ。そう、貴哉が良く飲んでたのは紙パックのリンゴジュースだ。他にもコーヒーとかお茶とかコーラとかいろいろ飲むけど、学校で良く飲んでたのはこのリンゴジュース……
貴哉、喜んでくれるかな?
淡い期待をしながらジュースを買って中から取り出してると、後ろから誰かに声を掛けられた。
「話って何だよ?」
「は?」
「え?」
「って何で!?」
振り向くとそこには体育着姿の貴哉がいた。上は緩いポロシャツ、下は黒のハーフパンツ。それもまたパンツが見えるぐらい緩く履いてる。
はっ!中西のやろーだな!あいつの仕業か!
「直登があっちで空が呼んでるって、違ったのか?」
「あの野郎……いや、これ渡そうと思ってさ。桃さんに勝ったんだって?おめでと」
「えっ!あ!サンキュー♪へへっ!変態をぶちのめしてやったぜ♪」
リンゴジュースを渡すと、一瞬驚いた後に、照れたように笑った。俺の知ってる貴哉だった。なんか懐かしいな。
「空達の試合はいつなんだ?」
「まだ先。だから暇してんだよね~」
「ふーん。時間が合えば応援行くからな」
「…………」
さっき思った事を聞いてもいいかな?
もしも貴哉だったら俺と桐原さんのどっちを応援するかってやつ。
「あ、行かない方がいいか?」
俺がそんな事を考えてると、貴哉が悲しそうな顔をして言った。そんな顔させるつもりは無かったんだけどな。
「違う違う。あのさ、バスケに桐原さんいたんだけど、もし俺が桐原さん達のチームと当たったら、貴哉はどっちを応援する?」
「うーん、空かな!」
「えっ!」
予想外な答えが返って来て本気で驚いた。てっきり遠慮しながら桐原さんって言うかと思ってたんだ。もしかして、貴哉もまだ俺の事を?
「だってそうすりゃ俺のクラス優勝するかもだろ?頑張って食券貰おうぜ!」
「……ああ、そういう理由ね」
「なんだよー!俺は食券の為に優勝狙ってんだぞ!知ってるだろー!」
「いや、貴哉らしいなって。うんでも嬉しいや。ありがとな」
「まぁ、食券無しとかだったら、正直分かんねぇかな?伊織を応援しねぇとあいつ怒りそうだし、でも俺は空の事も応援したい」
貴哉は真っ直ぐに俺を見てそう言った。
嬉しいかった。貴哉がそう言ってくれて良かった。
「空、来てくれてありがとうな」
「うん。会いたかったから」
「……えっと」
「桐原さんは今試合に出てるからちょっかい出すなら今だって中西に煽られたんだ」
「そ、空……」
「安心しろ。ちょっかい出すつもりはねぇよ♪ただ貴哉に会いたかったんだ。だから会えて良かったよ」
「空……あのさ、俺も空が会いに来てくれて良かった!俺も、空に会えて良かった」
これ以上はダメだ!貴哉ってば、肝心な時に天然出してくるからなぁ!
きっと本心なんだろうな。それが分かるからもどかしい。
本当は今すぐに抱き締めて連れ去りたいよ!でもそんな事出来ねぇよ!
「空?」
俺が黙ってたから貴哉が近付いて来て顔を覗き込んで来た。
本当綺麗な顔してんなー。少しキツそうに見える吊り目とかちょータイプ。その見えそうなパンツとかも俺からしたら毒でしかねぇんだよ。
俺がそんな事を考えてるなんて貴哉は思ってもねぇんだろうな。貴哉はふっと笑った。
「空は優しいよな」
「……へ?」
「俺が普通でいられるように気に掛けてくれてるんだろ?こうして会いに来てジュースくれたりさ。空ってすげぇよ」
今度は苦しそうな顔で笑ってた。
何でそんな顔するんだよ。
そんな顔されたら俺、我慢出来なくなるだろっ。
「何言ってんだよ。俺が前みたいな友達になりたいって言ったんだし。全然凄くなんかねぇよ」
「多分、俺が空だったら出来ねぇよ。怒り狂うか泣き腫らすかでどちらにせよもっと暴れてると思う。空はその、落ち着いてるって言うかさ、全然平気そうだから……なんか……」
「平気な訳ねぇだろ!」
「……あ、悪ぃ」
貴哉にこの状況でそんな事を言われてさすがに我慢出来なかった。つい声を荒げると、目を大きく開いて小さく謝って来た。
違うのに、俺は貴哉に謝って欲しい訳じゃないのにっ。
俺は貴哉の腕を引いて歩き出していた。
今日はほとんどの生徒が外にいるからここじゃ目立つ。だから俺はなるべく人のいない所を探して歩いた。貴哉は大人しく付いて来てくれた。
それが嬉しくてつい期待してしまう。
期待なんかしちゃダメなのに。
母さんの時みたいになるのに。
それでも期待しちゃうんだ。
次こそはって、とても大切な人だからこそ振り向いてもらいたくなる。
俺の心は貴哉に会う前から壊れていたんだ。
それを少しでも和らげてくれたのが貴哉で、その貴哉も離れてしまって、俺はこれからまた誰とでも浅く適当に付き合ってヘラヘラして、そんな日々を死ぬまで送るんだ。
そう考えたらもう何でも良くなった。
きっと俺は真っ当には生きられないから。
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