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2章 球技大会
貴哉の心配は解消された?
しおりを挟む伊織が帰った後、俺は風呂に入って夕飯を食ってから部屋で空の私物をまとめていた。
夕飯を食ってる時に連絡が来て、今から向かうと。メッセージの時間と自転車で来るって考えたら大体15分後ぐれぇか?
にしてもあいつの物多いな……ほとんどクローゼットに仕舞ってあるけど、これ自転車で持って帰れる量かってぐらいあった。ほとんどは服。あとは髪に使うスプレーやワックス。鏡やくし、その他俺の知らない道具なんかもいろいろあった。どれも空が使っているのを見た事がある物だからそれを大きな鞄に入れていく度に俺は手に取ってその時の事を思い出していた。
はぁ、長く一緒に居過ぎたよな……
空の匂いがするTシャツを眺めてしばらく固まる。これを全部返したら俺と空は何もなくなる。ただの同じクラスの人になって、二年になるまで共に過ごすだけになる。
あいつどんな顔して来るかな?
俺はどんな顔をしてたらいい?
やべぇな。また伊織に会いたくなっちまった。
俺は伊織に会ってセックスをして愛し合う事で空の事を間際らそうとしているのかもしれない。
伊織が目一杯愛してくれるから、大事にしてくれるから、その時だけは空の事を考えなくて済むから。
だから伊織と会えないと辛い。
「貴哉ー!空来たよー!」
「……おう」
下から母ちゃんの声が聞こえて我に帰る。やべ、もうそんな時間か……
まだ荷物まとめきれてねぇや!でも空を部屋に入れるのはどうなんだ?俺は良くてもあいつが嫌がらねぇ?
一旦下に行って空の様子を見ようと立ち上がると、空が部屋に入って来た。うわ、気まず!
「こんばんは貴哉。勝手に来ちゃった」
「おう……悪ぃな。まだまとめ切れてねぇんだ」
「うん。いいよ。自分でやるから」
空は学校にいた時のような笑顔だった。何も変わらない空だ。俺がやってた続きをやろうとクローゼットから自分の物を鞄に閉まっていく空を手伝おうと隣に座る。
その時にフワッとシャンプーの匂いがした。空も風呂上がりか。空はシャンプーなどをここらじゃ売ってないのを使っていて、値段も高い。ほんと美容には手を抜かないタイプ。
ふと俺は空の髪が少し伸びている事に気付く。そりゃ人間だから伸びるのは当たり前だけど、切ったばかりの頃は首がガッツリ見えていたけど、今では少し隠れて来ていた。元々肩に付くぐらい長かったからそれでも短いけどな。
「お前、髪伸びたな。また伸ばすのか?」
「そうだねー。俺伸びるの早いから。長い方がアレンジの幅広がるし」
「はは、空らしいな」
「……貴哉」
俺が空らしいと言って自然と笑うと、空が俺の顔を見て来た。あ、笑っちゃまずかったか?
「何だよ?」
「いや、やっと笑ってくれたなって思って」
「!」
「今日の貴哉、俺と話す時ずっと元気無かったから、心配してたんだ。俺の事嫌いになったのかなって。友達にすらなってくれないのかなって」
「そんな訳ねぇだろ!嫌いになんかなるか!」
「うん。ありがとう。嬉しいや」
空がニッコリ笑った。
そうだよな、今日の俺教室ではずっとボーっとしてたもんな。空に心配かけちまったか。
「にしても結構あるな。どれか貴哉使うー?」
自分の服をピラっと見せて来て聞いて来る。俺と空の服の趣味は全然違うから俺が着るような物は無い。
「すぐに使わないなら置いてってもいいぜ。自転車だろ?無理に持ってっても危ないからな」
「本当?ごめんねー。今日全部持って帰った方がいいのにな」
ここで空が壁に目をやった。あ、飾ってある空が描いてくれた俺の絵を見てんのか。空はそれを目を細めて微笑みながら見ていた。
「あれ、まだ飾っててくれだんだ」
「あれは気に入ってんだ。持って帰らせねぇからな」
「それは嬉しいね~♪絵ならいつでも描いてあげるよ~」
何となく普通に話してるようだけど、お互いぎこちないのが分かる。そりゃそうだろ。別れたばかりで、今は俺の部屋に二人きり。おまけに思い出の品を見ながら話してるんだ。何も思わねぇ訳ねぇだろ。
「なぁ、空さ、俺がこんな事聞くのもあれだけど、大丈夫なのか?」
「それは何に対しての大丈夫ー?」
「……シミズの事だよ」
「ああ、あいつなら兄貴の友達が話付けてくれたんだ。昔から俺と兄貴を気にかけてくれてる人でとても頼りになる人なんだ」
「それなら良かった」
「貴哉の心配は解消された?」
「……ああ」
「そんな風には見えないけど」
「……実は、今でもお前の事を考えちまうんだ。だから今日1日あんな感じだった。ごめん」
「それは俺も同じだよ」
「え」
空は今度は俺を見て真剣な表情をした。空も俺の事を考えてくれているのか?表面上では分からないけど、もしかして、まだ俺の事を好きでいてくれるのか?
くそ、何期待してんだ俺。そうだったとしても伊織がいるのにっ。
「俺と貴哉はそれだけ大切にし合って想い合っていたって事だろ。そんな相手をすぐに忘れるなんて無理だ」
「空……」
「俺ね、こんなの初めてなんだ。今まで誰かと付き合っても去る者追わずで何かあれば笑顔で見送って、すぐ次に行けていた。一人の人に固執するなんてあり得なかったしね。でも貴哉にだけは無理だった。貴哉と付き合うのは辛い事いっぱいあったけど、楽しくて嬉しい事もいっぱいあったよ」
「辛い思いさせてごめん」
「だから楽しくて嬉しい事もいっぱいあったってば~。むしろそっちの方が大きいから辛くても大丈夫だった。また貴哉といられるって思うと幸せな気持ちになれたからな」
「空っ」
空の話を聞いていて俺は耐え切れずに首を横に振ってくるっと後ろを向いて空に背を向けた。
空の言葉が今の俺には重過ぎる。
ちゃんと聞いてやりたいけど、これ以上聞いていたら行けない気がした。
「あ、つい話し込んじゃったね。ごめんごめん。それじゃあこれだけ持って帰るよ。あとのはまた取りに来るよ。それか捨てちゃっても構わないから」
「捨てるかよ。お前が取りに来るまで置いておく。だから絶対取りに来いよ」
「……うん」
そして空は帰って行った。
最後はお互い笑顔で。
それから空が残りの荷物を取りに来る事は無かった。
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