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2章 球技大会

俺は……伊織のことが……大好きっ

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 俺は早歩きで家まで向かった。
 すると、やっぱり付いて来た伊織に手を掴まれて止められた。俺はその手を振り払って睨んでやった。


「貴哉、何でそんなに怒ってるんだよ?俺が金を出したからか?」

「うるせぇ!付いてくんな!」

「いや、今の貴哉は人を殴りそうだし、心配だから送らせてくれ」

「殴らねぇよ!」

「貴哉、俺はもう話しかけない方がいいか?」


 伊織はポツリと言った。
 寂しそうに、伊織っぽくなかった。


「出来るんならそうしろ!二度と目の前に現れるな」

「……はは、そっか」


 薄く笑って下を向く伊織。
 伊織があんな風に言うならいっその事そっちの方がマシだ。
 だって、俺はまだ伊織の事が好きだから……


「お前ムカつくんだよ!いつも余裕ぶって、奢るとか送るとか!何が友達だよ!なれる訳ねぇだろお前となんか!」

「分かったよ。貴哉が嫌なら無理には……」

「お前の好きはっ……その程度だったのかよっ……」


 俺の言葉に目を大きくして驚く伊織。
 俺もしまったと思って口を手で押さえる。
 つい言葉にしてしまったけど、もう遅かった。
 それを聞いた伊織は近寄って来て俺の腕を強く引いた。


「貴哉の事を好きなのは誰にも負けない自信がある!けど、それを受け入れてもらえなかったらただ重いだけの気持ちになるだろうが!」

「っ離せ!」

「離さねぇよ!人がどんな気持ちでいるかも分からねぇ癖に、俺は貴哉を諦めなきゃいけねぇのにっ」

「……伊織」

「だってそうだろ!?決めたのは貴哉だろ!いざ諦めようとしたら怒られるとか、俺はどうしたらいいんだよ!」


 そんなのは自分が一番良く分かってんだ。
 突き放したのは俺なのに、こんなワガママな事したり言ったりして。伊織の立場が俺だったらブチギレてるよ絶対。


「伊織は……になればいい」

「は?」

「俺を嫌いになればいい。そうすりゃもう話す事も会う事もなくなる」

「……本心か?」

「ああ」

「分かった」


 あっさり承諾する伊織に俺の心には更に黒くて重い何かがのしかかって来た。伊織に嫌われる。嫌だ。本当は嫌なのに。
 伊織なら出来ないって言うと思ってたのに。
 もう自分でも何がしたいのか分からなくなって来た……
 

「なら、俺が貴哉を嫌いになるような事を言ってくれよ。そうだな、心から伊織の事は大嫌いだって言ってもらおうか」

「…………」

「ほら早く言えよ。俺に嫌われたいんだろ?」

「あ、伊織の事は……」

「ん?」


 嫌いって言うだけなのに、言葉が出てこなかった。嘘でも言うのが怖かったんだ。
 言ってしまったら本当に伊織を失ってしまうかもしれない。
 そう思ったら俺は伊織に指定された言葉は言えなかった。

 代わりに涙が溢れて来た。
 真っ直ぐに俺を見る伊織を見れなくて下を向きながら俺は、小さい声で喋った。


「俺は……伊織のことが……大好きっ……だから、嫌いって言えないっ」

「ほんと、お前は……」


 伊織は眉間に皺を寄せて、怒ったような顔をしてすぐに俺を抱き締めた。
 人通りのある場所だからこんな事したらヤバいのに、でも俺はこれを待っていたんだ。
 伊織の腕の中で俺は泣きじゃくった。
 昼間散々泣き腫らしたのに、また目が重くなるじゃん。もぉどうでもいいやそんな事。

 とにかく俺は伊織を辞められないんだ。
 伊織には好かれていたいし愛されていたいんだ。
 とんでもないワガママ野郎だったんだな俺って。

 伊織に手を引かれて場所を移された。
 ここは駅の近くの路地裏か。視界を遮られてたから良く分からないけど、きっと人目に付かない場所だろう。
 俺は伊織にしがみ付いたまま離れずに抱かれていた。


「貴哉、俺も大好きだよ。嫌いになんてなれねぇよ」

「本当か?でも、友達としてだろ?」

「ううん。こう言う事したくなる好き」


 伊織は今度は優しく笑ってキスをしてきた。
 俺も目を閉じて受け入れた。
 

「またしちゃったな」

「伊織のバカ!なんでっ友達になんかっ!」

「はぁ?だって貴哉は早川を選んだだろ?……いや、俺が悪かったよ。だから泣くなよ」


 伊織は優しく言って俺の頭を撫でた。
 伊織の言う事は正しい。だけど、俺がこんなだから折れてくれたんだ。


「何でそんなにヘラヘラ笑ってられるんだよっ」

「ったく!貴哉が言ったんじゃねぇか。俺が笑顔でいる限り、俺の事愛してくれるんだろ?別れてもその気持ちは変わらないって今日言ってたじゃねぇか」

「なっ!お前っ!んな恥ずかしい事言うんじゃねぇよ!」

「待てコラ!嘘だったのかよアレ!」

「嘘じゃねぇよ!俺は伊織の笑った顔が好きなんだ!だから、笑っていて欲しくて……あの時は……」

「あの状況で笑えるかっての。まぁ何でもいいや。結局貴哉にまた手ぇ出しちまったしな。やっと踏ん切りつくと思ったんだけど、どうにも無理そうだな」

「ごめん……俺、伊織が離れるの嫌だっ」

「ほんとーに可愛いなぁお前は♡そんじゃとことん深みにハマりますか♪」

「伊織はいいのか?辛くないのか?」

「辛ぇけど、貴哉に泣かれる方が辛い。多分貴哉より俺のがメンタル強ぇから俺が我慢するわ」

「なんだそりゃ。あはは!伊織大好きっ!」

「……あのさ、貴哉さん?」


 俺がおかしくて笑って伊織をぎゅーってすると、困ったように顔を擦り寄せて来た。俺は嬉しくてほっぺにチュッてしてやる。
 すると、真剣な顔をして見て来た。


「何?」

「今日早川んち行くのか?」

「そういや空に連絡したんだった」

「早川んち行かないなら俺んち来ねぇか?貴哉んちでもいい」

「……いいけど」

「それと、キスまではしていいって言ってたけど、それ破っちゃダメ?」

「!」


 朝話した事か!そう言えばそんな話したよなぁ。でもあの時は伊織とも付き合ってたしなぁ。
 いや、もうそんなのどうでもいいか。
 
 きっと伊織は俺に手を出したくてウズウズしてるんだろう。下半身を押し付けて来てるから分かる。てか俺も伊織としたい。


「……いいよ。とにかく空に電話してみる。一回メッセージ送ったんだけど、次電話して反応無いなら……あ」


 言いながらスマホを確認すると、空からメッセージが来ていた。牛丼食ったり伊織とゴチャゴチャしてて気付かなかったわ。
 すぐに開いて見てみると、「体調は平気。聞いて欲しい話があるから来れる?」って。

 これに俺は一気に現実に引き戻された。
 俺、空と付き合ってるんだ……
 そんで今日泊まりにく事になってんだ。

 パッと伊織を見ると、「ん?」って優しく見て来た。
 うわぁ、俺、また伊織を傷付けるじゃん……


「どした?あ、早川から連絡来てたのか?ちょっと見せてみろ」

「あ!」


 伊織はいつものように笑顔のまま俺の手ごとスマホを自分に向けて空からのメッセージを読んでいた。別に見られてマズイ文じゃねぇよな?


「ふーん。風邪は良くなったんだな。聞いて欲しい話って何?」

「俺も知らない」

「聞いて来いよ。どんな内容か気になるじゃん」

「でも……」


 てっきり伊織は行くなとか言うのかと思った。けど、笑顔のまま俺の背中を押すような言葉をくれた。


「どんな話か分からねぇけど、早川がこう言ってんだし行って来いって。俺はその後でいいし。もし早川んちに泊まるんならそれはそれでいい。貴哉から連絡なかったら泊まるんだなって思うからさ」

「伊織……」

「あ、別に貴哉の事どうでもいいとかそういうんじゃねぇぞ?俺のがメンタル強ぇから我慢するだけだ。ずっと好きでいるから安心して行って来い♪」

「本当に?でも、伊織は……」

「俺はとりあえず今日は家で待ってるわ。何かあったら連絡しろよ。早川と上手くいってんなら連絡はいらねぇ」

「分かった。あのさ、伊織っ」

「何よ?」

「ありがとう!なるべく早く帰って来るからな!」

「ったく……」


 少し背伸びをして俺から伊織にキスをすると、困った顔して笑った。
 空の話が何なのかは分からないけど、話を聞いたら帰って来よう。

 今の俺は伊織に傾きつつある。
 少しでも伊織と過ごしたいと思っていた。

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