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2章 球技大会
これからも俺達をここにいさせて下さい!
しおりを挟む体育館の横で筋トレをしていた演劇部一年軍団にも同じく頭を下げた謝罪を済ませて、俺と伊織は最後に裏方達の作業場である控え室兼物置の教室へ向かう。
途中で俺は伊織に聞いてみた。
「なぁ伊織、お前も初めから謝るつもりだったのか?」
「まぁな。貴哉はしないと思ってた」
「前までの俺だったらしなかっただろうな。でも演劇部には世話になり過ぎたよ。茜もいるしな」
「だな。てか貴哉とまたこうして制服着て歩けるなんてな。何かおもしれぇな」
「もう問題は起こさねーようにしねぇとな~。次やったら玉ちゃんがぶっ倒れちまうよ」
「進級出来るといいな」
「おう!やだけど勉強も頑張るわ」
伊織と笑って話しながら歩いているけど、伊織との関係はあのまま変わらずだ。
俺が二人共選ばないと言ったにも関わらず空と付き合った事に対してはあれから何も言われない。
今もただ普通に友達と話すみてぇにしてるだけだった。
昨日までは普通に家に来て勉強教えたり、俺にちょっかい出してたりしてたけど、学校だからか少し距離がある気がした。
ま、問題になりそうな事は避けなきゃだしな。
でも少しだけ寂しくもあった。
「伊織ー?」
「ん?」
「…………」
名前を呼ぶと覗き込んで笑顔を向けてくれた。
やっぱ無駄にかっこいいなこいつは。
いつも自信たっぷりで、大抵の事なら簡単に片付けてしまいそうな感じ。
「なんでもねぇ」
「はぁ?変なのー」
あははと笑う伊織。
伊織が笑ってくれてんならそれでいいや。
俺は伊織の笑顔が好きだから。
そして最後の訪問先である裏方達の巣窟に到着する。ここは一癖も二癖もある奴らが多いからなー。初めの頃、茜に紹介してもらうんで連れて来てもらった事あったけど、あん時は酷かったからなー!心してかからねぇとな!
いつものように、伊織が先に入ってくれて俺もその後に入る。
賑わっていた教室内が俺達が入った事によってシンと静まり返った。
またこの空気かよ。
「悪いなみんな。少しだけ話を聞いてくれ」
「ちょっと待て桐原。ここのボスは俺だ」
ここで裏方のリーダーとやらが俺達に近付いて来て伊織が話すのを止めた。
ってこいつ!バーベキューん時に襲って来た奴じゃねぇか!
「あー!お前!変態じゃねぇか!」
「ゔっ……そ、その節はすまなかった……」
「秋山ー!!会いたかったぞー!!」
「!?」
裏方のリーダーは、気まずそうに髪を触りながらボソボソと謝って来た。そしてその後ろから派手な逆立った金髪のデカい男、まさかの俺の乳首を舐めた一番の変態がドシドシと両手を広げて俺に向かって走って来た。
「ぎゃー!一番変態だった奴ー!!」
「お前は貴哉に近付くな!」
「うがっ!!」
変態に抱き付かれそうになって、ブン殴ろうとしたらその手を伊織に掴まれてそのまま伊織の胸の中に抱き寄せられた。
うおっ!さり気なくやられたけど、いちいちドキッとしちまうじゃねぇか!
そして変態野郎はそのまま開いたドアの向こう、廊下に突進して派手に転ぶ音が聞こえて来た。
あ、あぶねー!危うく大事故になるとこだったぜ!
「はぁ、トモは置いておいて……二人共、バスでの件は本当に悪かった。この通りだ」
「!」
裏方のリーダーは、ペコっと頭を下げた。
あ、俺達がそれをやりに来たのに、先にやられちまった。
それともう一人もひょこひょこ出て来て隣で頭を下げていた。黒髪に襟足だけ金髪のー……誰だ?
「俺もごめんなさい。俺達心入れ替えたからもうしません。トモは分かんないけど」
「貴哉、どーする?」
「え、どうって……俺は……」
「秋山、これからは全力でサポートするって約束する。茜ちゃんにも誓ったんだ」
「茜か……ならいいんじゃん?てかお前らも署名集めとかしてくれたんだろ?へへ、ありがとな♪」
「!!」
「うわー、秋山っていい奴じゃん」
「んじゃ改めて。こっちのチャラチャラしたのは演劇部裏方リーダーの犬飼な。そんで隣の細いのが雉岡。で、廊下で寝てるのが猿野。素行の悪い奴らだけど、この通り心入れ替えたって言ってるぜ」
伊織がそれぞれの名前を教えてくれた。
みんな動物の名前が付いてんだな~。
あれ?でもその動物達って……
「犬、雉、猿……桃太郎じゃん!」
「頼むっ今はその名前は言わないでくれっ!」
「何でだ?」
「いろいろあるんだよ……そんな事よりも、二人共復帰おめでとう!みんな待っていたんだぞ♪」
「みんな待ってたぁ?どういう事だ?」
「裏方チームはこの通り、この犬飼様が仕切ってる!俺の言う事は絶対だ!みんなには秋山の事を悪い奴じゃねぇってしっかり教え込んどいたんだ!だから戻って来たら仲間として受け入れろってな」
「そうそう。誠也ってこんなんだけど、結構影響力あるんだよね~。まぁ悪巧み考える事がほとんどだけど、今回は珍しくみんなに良い事言ってたよ」
「そうだったのか……」
犬飼と雉岡がそう言うから、チラッと他の裏方達を見ると、食堂内で浴びた視線とは少し違った気がした。
楽しそうに笑う笑顔がそこにあった。
ここで前の黒板の下に座っていた集団に声が俺に向かって手を振って来た。
その集団は、胡座かいて座っていたり、スマホいじっていたり、お菓子食ってたり、一見柄の悪そうな奴らだった。
「おーい、秋山~!俺達とも話してくれよ~」
「お前根性あるから裏方来ればー?」
「あいつらは裏方でも活躍してくれてる奴らだよ。誠也が言うから言う事聞いてたけど、同じジャンルのヤンキー秋山に興味があったらしいんだ。良ければ仲良くしてやってよ」
「へー……でもその前にやる事やらなくちゃな!」
「あ、ここでもやるのか?」
「当たり前だろ!」
俺は意外な裏方の雰囲気に感動しつつも、何故ここへ来たのかを思い出し、伊織と並んで頭を下げる。
そう、他の演劇部達にもしたように。
「この度は俺の身勝手な行動で演劇部に迷惑を掛けてしまい、大変申し訳ありませんでした!この反省を生かして何が何でも文化祭を成功させたく思い戻って参りました!どうかこれからも……これからも俺達をここにいさせて下さい!」
「貴哉……」
言ってやった!食堂では伊織に言われちまったからな。隣にいた伊織は驚いてた。そりゃそうだろ。あの俺だ。自分でもこんな事が言えるんだってびっくりしてるわ。
でも、裏方の奴らは驚いてなんかなかった。
ニコニコ笑顔のまま、拍手をしてくれて、「歓迎するぜ」とか「盛り上げてこうぜ」とか、前向きな言葉がたくさん飛び交っていた。
俺、裏方のこの感じ、好きだ。
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