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2章 球技大会
伊織もだろ?俺も一緒に言うからな
しおりを挟む放課後、部活の時間だが、俺と伊織は文化祭まで演劇部の助っ人だからそのまま演劇部の活動場所まで向かっていた。
ついでに茜に藤野の事も聞こう。
食堂の近くで見覚えのある赤い髪が目に入った。どうやら伊織が自販機の前で何を買おうか迷っているみたいだった。
ちょっと脅かしてやるか♪
俺はゆっくり伊織の背後に忍び寄り、わあ!っと大きな声でビックリさせる準備をする。
ひひひ♪いつも余裕かましてる男のビビる顔楽しみだぜぇ♪
「あー!秋山だー♪」
「!?」
俺が伊織に手を伸ばした瞬間聞こえて来た甲高い声に、目の前にいた伊織がくるっと振り返り、俺に気付いて嬉しそうに笑った。
くそー!後少しだったのに!邪魔しやがってー!邪魔しやがった奴を睨みながらみると、七海が嬉しそうに手を振っていた。
「貴哉ー♡制服姿久しぶりだな♪」
「お、おう。伊織もな」
「秋山久しぶりー!元気してたかぁ?」
「お前は相変わらずキャンキャンうるせぇなぁ?あ?」
「怖っ!何で怒ってんの!?」
「はぁ、まぁいいや。なぁ茜いるか?」
「二之宮ならもう部室にいるんじゃない?」
「そっか。ちょっと先に食堂寄っていいか?演者集まってんだろ?」
「大体は集まってると思うけど?」
「貴哉……」
「伊織もだろ?俺も一緒に言うからな」
「ああ。一緒に言おう」
「?」
俺と伊織の会話に訳が分からないと言った顔をして首を横に捻る七海。
俺は復帰して演劇部に参加する前にしたかった事があったんだ。それは伊織もやると思っていた事だ。
俺と伊織は普通に食堂に入って中にいた奴らに声を掛けてこっちに気付かせる。
メンバーは変わらずってとこだな。もう本番まで間近だからいつもより人数が多く感じた。
「みんなー、作業中悪いんだけど、少しだけ耳傾けてくれー」
伊織がそう言うと、食堂にいた演劇部は全員が作業や動きを止めて俺達に注目した。
まるで俺達が初めにここに来た時みたいに。
「まず俺、桐原伊織と秋山貴哉が問題を起こして停学処分になった事で世話になってた演劇部に大きな迷惑を掛けた事を謝りたい。本当にすみませんでした」
伊織が深々と腰を折って頭を下げた。
これは俺もやろうと思ってた事だ。
伊織が先に言い出してくれたから言いやすくなったから、続けて俺も頭を下げた。
「同じく、迷惑かけてすみませんでした」
俺達の行動に、食堂内が騒ついているのが分かった。伊織はともかく、元々俺は受け入れてもらえてなかった存在だから謝ったって何も変わらないと思う。
だけど、今回いろいろ分かったんだ。
迷惑を掛けたら謝る。どんなにどうでもいい奴らにでも、嫌な事をしたら謝る事。
もちろん嫌々じゃなくて、やろうと思ってからやる。
いろんな奴が頭下げてるの見て来たけど、どいつもかっこよかったんだ。
だから俺も人に嫌な思いをさせたらやりたかった事だ。
俺と伊織は頭を上げてお互い目が合って笑い合った。
そして静かなままの食堂内に、一つの拍手が響き渡った。
「ブラボーだよ二人共~!やっぱりカッコいいねいーくんと貴哉くんは!」
「あ!詩音!」
その拍手の犯人はなんと演劇部元部長で三年の詩音だった。
え、詩音いたのか!?全然気付かなかった!
「やあ貴哉くん♪復帰おめでとう♡いーくんも♡」
「ありがとうございます。詩音さんがいるとは思いませんでした」
「どうやら僕の脚本で進めてくれるみたいだから様子を見に来ていたんだよ。おかえり二人共」
「……ただいま」
今日何人かに言われた「おかえり」だけど、そう言われると、胸の辺りがくすぐったくなる。
詩音がいてくれて良かったと思った。
「あの、俺達の事で演劇部が揉めたって聞きました。元々部外者なのに、混乱させるような事してごめんなさい」
「それを言うなら僕ももう部外者だけど?そして混乱の火に油を注いだのも僕♪それなら僕も謝らないとだね~」
「詩音ってば相変わらずだな!なぁ、俺また演劇部の助っ人やりてぇんだ!文化祭までもう迷惑掛けるような事しねぇって誓う!だからさ、また仲間に入れてくんね?」
「僕は大歓迎だよ~♡さて、現役の部員達はどうだろうね?」
俺がお願いポーズをして言うと、詩音がニヤリと笑って大人しく俺達の話を聞いていた演劇部部員達に話を振った。
そして何人かが前に出て話し始めた。
「俺は、ボラ部の二人とは最後までやりたいと思ってます」
「……俺も。正直秋山は生意気だけど、努力は認めるかな!」
「実は薗田さんに脚本を取り上げられた後、二之宮の説得もあってみんなで話し合ったんだ。桐原の実力はここにいる誰もが知ってる。秋山も生意気だけど、サボらずに毎日通ってたのはみんなが知ってるよ。だから俺も二人と最高の舞台にしたいと思う!」
うわぁ、これめちゃくちゃ感動じゃね?
全員名前知らねぇけど。
でもさ、これって仲間に入れてくれるって事だよな?俺、めっちゃ生意気だとかディスられてっけど、ここにいていいって事だよな?
「あはは!貴哉良かったなぁ♪俺達また演劇部の助っ人できるみてぇよ?」
「やったー♪あ!他にも頭下げに行かなきゃ!おい伊織!行くぞ!」
「りょーかい。あ、詩音さん!これからもよろしくお願いします」
全員が許してくれてる訳じゃないって事はわかってる。それでも、何人かでもああ言ってくれた事が今の俺にはとても嬉しい事だった。
俺と伊織は食堂を出て他の場所にいる演劇部部員の元へ急いで向かった。
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