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1章 写真ばら撒き事件

※ 是非名前で呼んで下さいー♡

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 ※直登side

 俺は二階に戻ろうとクルッと振り向く時、桃山さんと目が合った。シカトするのもアレだから頭をペコっと下げて立ち去ろうとした時、何故か桃山さんも付いて来た。

 えー、何だろう?
 この人は茜さんの付き人なんじゃないのー?


「何か用ですか?」

「上に行くんだろ?俺も貴哉の様子見に行こうと思ったんだ♪」

「へー……」


 相変わらずのマスクで表情が分からない。
 目は笑ってる、よな?

 俺は特に会話もする事なく廊下に出ると、さっきはしなかった焦げ臭い気がした。

 これは……甘い焦げた匂い?


「桃山さん、何か焦げ臭くないですか?」

「そう?」

「マスクずらして嗅いでみてくださいよ」

「……ほんとだ。こっちだな。行ってみようぜ」


 鼻を出してクンクン匂いを嗅いでる桃山さん。
 すると、キッチンの方へ向かって歩き出した。

 まぁ上に戻っても数馬くんは貴哉ばかりだし、暇だから付いてってみるか~。

 桃山さんとキッチンへ行くと、そこには知らない男の人が頭を抱えていた。
 見た感じ大学生っぽい、緩いパーマをかけたタレ目の男の人。
 その人は桃山さんに気付くと泣きっ面になった。


「湊さーん!助けてくださーい!」

「お前が匂いの原因か」

「坊ちゃんのお友達いっぱい来たから、ケーキ焼こうと思ったんです。そしたら失敗しました。ちゃんとネットで調べてやったんですよぉ?」


 見事に散らかった作業台の中心には真っ黒な物体が置いてあり、それが焦げ臭い元だったみたい。


「オーブンの温度か時間ミスか、砂糖入れ過ぎじゃん?努力は認めてやる。作り直せ」

「……はい」

「あのー、手伝いましょうか?」


 俺、お菓子作りなら良く家でやってるからね。
 掃除するよりこっちの方が得意だし。


「えっいいんですか!?えっと、俺は坊ちゃんの使用人の的羽って言います。お見知り置きを!」

「使用人とかさすが一条家だね。俺は中西直登です。一条さんの後輩です。よろしくお願いします」

「うわぁ、綺麗な方ですねー!湊さんのコレですか!?」

「ちげぇわ。俺は茜一筋だ。ふざけた事言ってっとお前の事消すぞ」

「冗談ですって♪あ、中西さん?じゃあお願いできます?俺、雑用とか何でもやるんで♪」


 散らかった作業台の上にあった物をガーっと腕で一気に端に避けてスペースを作って「どうぞ」と手を出す的羽さん。
 
 え、俺がメインでやるの?
 全然いいけど、自分で一条さんに作りたいんじゃなかったのかな?


「王子、料理出来んの?」

「出来ますよー。料理は好きで良く家でやってますからね」

「ふーん。すげぇじゃん」

「あ、的羽さん卵割ってくれません?混ぜてもらえると助かります」

「任せて下さい!」


 俺は他の準備をしてると、横で的羽さんが新しい卵を冷蔵庫から取り出してまだ使ってないボウルに割ろうとしていた。
 それを見てる桃山さん。

 すると隣で小さな悲鳴が上がった。


「ああっ!くそう!」

「下手くそ」


 チラッと見ると、割れた卵を手に持ってる的羽さんがイライラした顔でゴミ箱に捨ててた。
 ちょっと待って?卵を割れないだと?


「的羽さん、卵無駄にしないで下さい。勿体無いでしょ?」

「だってこいつすぐグシャってなるんです!」

「見本見せてやるよ♪」

「あ、桃山さんふざけないで下さいよ?」


 俺達の反対側で笑いながら見てた桃山さんが立ち位置を変えずに、的羽さんが用意した卵を一個片手に持って器用にボウルの端でヒビを入れて片手でパカッと割った。

 うわっめちゃくちゃ上手いんだけど!


「どうよ?卵ってのはこう割るんだ」

「さすが湊さんです!かっこいいです!」

「桃山さんって料理するんですか?」

「和洋中何でもござれ♪」

「ちょー意外!」


 何だよその凄いギャップ!桃山さんて出来ない振りしてるだけ!?絶対料理とは無縁の人だと思ったのに!

 あ、あれっ、俺ドキドキしてる?


「も、桃山さんっ!卵混ぜてみて下さい!」

「あいよー」


 俺がお願いすると、手に持って体でしっかり支えてクルクルクルッと手際良く卵を綺麗に混ぜていく。
 ちょーかっこいいじゃん!


「凄い……ギャップが、ヤバい♡」

「ギャップ?ああ俺の事見た目で出来ねぇと思ってたんだろ?そういう奴嫌い。人の事見た目で決めんなって感じ」

「俺もです♡だから俺の事を王子って言う奴嫌いです。俺全然王子じゃないですからね」

「まぁ王子はケーキ作ったりしねぇわな。ふーん。んじゃ王子って呼ぶの辞めるわ」

「是非名前で呼んで下さいー♡」

「やだよ。中西でいい」

「桃山さんに名前で呼んでもらいたいなぁ♡」

「湊さんはモテますね~♪学校でもモテモテなんて羨ましいです」

「お前めんどくせぇ奴だな。それ以上言ったら殴るぞ」

「受けて立ちます♪」


 俺が強気に返すと、桃山さんは表情を変えずにフラフラとこちら側に歩いて来た。
 そしてギロリと俺を見下ろして来た。

 細くて背の高い桃山さん。
 体格差では不利だけど、力なら負けない自信がある。

 俺は小学高時代、空手習ってたんだよね。
 理由は護身の為。小さい頃の俺は正に女の子みたいに可愛いかったんだ。更に言えばそこらの女の子より可愛いかった。
 だから心配に思った親から勧められたんだよね。
 でも腕とか足とかが太くなるのが嫌で辞めちゃったけど。
 辞める時に周りからは勿体無いって言われるぐらいの腕だった。

 桃山さんは何もせずジーッと俺を見下ろしていた。


「どうしたんですか?殴らないんですか?」

「み、湊さん、喧嘩はダメですよぅ」

「……辞めた。人を殴ると茜に怒られるから」

「へ?」

「良かったぁ!愛の力っすね!」


 何が愛だよ?
 茜さんに怒られるからだぁ?

 こんな猛犬注意な見た目してんのに、主人に忠実とかギャップが凄すぎてっ……

 待て俺!早まるな?
 俺には数馬くんがいるじゃないか。
 それに桃山さんは危険な人だ。

 これ以上深く関わるのはよそう……


「あ、危なかった」

「その代わり、俺もケーキ作る♪料理で中西の事コテンパンにしてやるよ」

「はぁ?……いいですよ。負けませんから♪」


 こうして俺と桃山さんのケーキ作り対決が始まった。
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