上 下
70 / 178
1章 写真ばら撒き事件

※ 違うっこれは嬉し涙だっ!

しおりを挟む

 ※茜side

 仕方ないから着替え終わるまで裏方の仕事の見学でもしてるかと作業している人達を見る。
 すると、そいつらはサッと俺から見えないように死角を作って作業を始めた。

 そうだよな。俺がいたらみんな嫌がるよな。
 この部屋にだって小平がいたから入れたんだし。
 俺は後ろの壁の方を向いてみんなを見ないように背中を向けて目を閉じた。

 こういうのに慣れている筈なのに、何だかとても辛かった。きっと秋山や湊といるせいで、人といる事に慣れたからだ。
 誰かに相手にされない辛さを思い出して俺は落ち込んでいた。

 しばらくすると、閉じた目の辺りが暖かくなって、俺の真後ろに誰かが立ったのが分かった。
 いきなりだったので驚いて目を覆う物を手で触ると、誰かの手だと分かった。


「な、なんだ!?」

「だーれだっ♪」

「あ、その声、犬飼か?」

「正解~♡」


 俺の目を覆う手が外れて首だけ振り向くと、ニッと笑う犬飼がいた。
 そうか、犬飼は裏方のリーダーだったな。
 ここにいてもおかしくはないか。


「茜ちゃんが見えたから飛んで来ちった♪」

「あ、邪魔して悪かったな。すぐに出て行くから」

「いやいいよ。ゆっくりしてってよ。それと約束してただろ?ちょうどいいから今やるよ」

「約束?」


 犬飼は俺から離れてみんなの方を向くと大きな声で控え室にいる全員に呼び掛けていた。


「おーい!お前ら良く聞けー!ここにいるのは演劇部副部長様の二之宮茜様だー!俺と茜ちゃんは和解して今はちょー仲良しだ。だから茜ちゃんに変な事言ったり変な態度取った奴は俺が直々に処刑してやる。これからは普通にしろよー!後、茜ちゃんの後輩の秋山貴哉にもだ!分かったな!?」

「……あ」


 そう言えば犬飼が裏方の連中に改めて俺を紹介すると言っていたな。まさかそれを覚えていて今してくれたのか!
 しかも秋山の事まで!

 俺はその犬飼の行動に感動して泣きそうになった。


「茜ちゃんから何か言いたい事あるー?ちゃんと大人しく聞かせっから何でもいいよー♪」

「……い、いや、俺からは……よろしく……」

「可愛い♡よーし、お前ら作業続けろー!」


 俺は涙を見られたくなくて、いつものように堂々と出来ずに下を向いてしまった。
 とても恥ずかしい!

 それにしても犬飼はリーダーとしてしっかりやっているんだな。みんなも大人しく聞いていたし、少し強引な感じはあったけど、凄くリーダーっぽかったぞ。

 そして泣いてる俺に気付いて犬飼が心配そうに俺の周りをウロウロし始めた。


「あ、茜ちゃん!今の嫌だった!?ごめんって!泣かないでよ~」

「違うっこれは嬉し涙だっ!犬飼が、良い奴だから、嬉しくて……本当にありがとう」

「茜ちゃん……♡」


 涙を拭いてお礼を言うと、犬飼はポケーっと俺を見ていた。
 俺ももっとしっかりしなくちゃな!

 自分に喝を入れて気合を入れていると、更衣室のカーテンから小平がひょこっと顔だけ出して引いた目で犬飼を見ていた。
 

「ちょっと今の何ー?二之宮茜様ぁ?ちょー仲良しぃ?誠也ってばこないだから頭おかしくなっちゃったのー?」

「って!七海ちゃんいたのかよ!?何してんだそんなとこで!」

「今衣装合わせしてたのー!二之宮、着替えたよ~」

「お、そうか。じゃあこっち出て見せてくれ」

「やー!二之宮がこっち入って?」

「何甘えてんだよ七海ちゃん~?俺らにも見せてくれよ♪」

「黙れ犬!早く二之宮だけ入って!」

「怖っ!何で怒ってんの!?」


 訳の分からないのは犬飼だけじゃなく、俺もだったけど、きっと恥ずかしいんだろうな。女装した姿なんて笑い物にされるのがオチだもんな。
 俺は周りに見えないようにカーテンを最小限に開いて中に入った。

 そして案の定小平は、恥ずかしそうに水色のドレスを着て立っていた。


「ど、どうかな?」

「綺麗だ……」


 小平は男の筈なのに、何故かそのドレスが妙に似合っていて、俺は見惚れてしまった。
 これはみんなに見せても笑い物にされないぞ!
 自慢していい出来だ!

 そこにいるのはまるで可愛い女の子で、キュッとしまったくびれが色っぽかった。今は付けていないけど、これに更に女性物のロングヘアーのカツラを付けるんだけど、それを付けてメイクをしたら完全に可愛い女子だ。
 絶対この作品をやらなきゃダメだ!薗田さんに取り上げられてたまるか!と思った瞬間だった。

 俺の口から出た素直な感想に、照れていた小平の顔は更に赤くなり、顔を両手で押さえていた。
 その仕草や行動が女子のようで、さすが演劇部のエースだなと思った。


「嬉しいっ二之宮に最初に見て欲しかったの……」

「ああ、俺も最初に見れて嬉しいよ。でもこの出来なら文句無しだ。みんなにも見せよう」

「必要ない!もう着替えるから出てって!」

「な、何でだ?せっかく着たのに」


 追い出される形で更衣室から出ると、まだそこにいた犬飼も不思議そうな顔をしていた。


「なぁ、俺七海ちゃんに嫌われるような事したかぁ?」

「さぁ?」


 まぁこれからも衣装合わせはすると思うし、みんなには本番で見せられるしな。
 小平のあの姿を見たらみんな驚くだろうな。

 俺はそんな事を考えワクワクしていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

それはきっと、気の迷い。

葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ? 主人公→睦実(ムツミ) 王道転入生→珠紀(タマキ) 全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?

全寮制男子校でモテモテ。親衛隊がいる俺の話

みき
BL
全寮制男子校でモテモテな男の子の話。 BL 総受け 高校生 親衛隊 王道 学園 ヤンデレ 溺愛 完全自己満小説です。 数年前に書いた作品で、めちゃくちゃ中途半端なところ(第4話)で終わります。実験的公開作品

【完結】どいつもこいつもかかって来やがれ3rd season

pino
BL
秋山貴哉の頭悪し口悪しのヤンキーは今回も健在だ。今までいろんな面倒な事にぶつかって来た貴哉は馬鹿なりに持ち前の天然さと適当さで周りの協力もあって無事解決?して来た。 もう無遅刻無欠席を維持しなくてはならないのは当たり前。それに加え、今度はどうしようもない成績面をカバーする為に夏休み中も部活に参加して担任が認めるような功績を残さなくてはいけない事になり!? 夏休み編突入! こちらはいつもより貴哉総受けが強くなっております。 青春ドタバタラブコメディ。 BLです。 今回の表紙は、学校一のモテ男、スーパー高校生の桐原伊織です。 こちらは3rd seasonとなっております。 前作の続きとなっておりますので、より楽しみたい方は、完結している『どいつもこいつもかかって来やがれ』と『どいつもこいつもかかって来やがれ2nd season』を先にお読み下さい。 貴哉視点の話です。 ※印がついている話は貴哉以外の視点での話になってます。

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

学園の支配者

白鳩 唯斗
BL
主人公の性格に難ありです。

処理中です...