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1章 写真ばら撒き事件編

お前馬鹿か!?

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 本当にブラックキングのアニメのDVDを持って来た一条はいつもと変わらない様子で俺の家にいた。

 ケーキまで、食い切らないだろってぐらい買って来て。俺がチーズケーキを選ぶと悲しそうな顔するから、どうしたんだと思い聞くと、「また俺に会えて嬉しい」と言って、お礼を言われてまた笑顔になった。

 俺を停学にまで追い込んでおいて何言ってんだ?
 それともワザと言ってんのか?
 訳が分からずにいると、今度は謝って来た。

 やっと謝罪されて、俺はつい声を荒げちまった。
 それに驚く一条は、すぐにいつものようにヘラヘラ笑い出した。

 こいつ何でそんな風に笑っていられるんだ?
 追い込んだのは俺だけじゃないんだぞ?
 伊織の事だって、瑛二の事だって、担任達だって、俺達に協力してくれてるみんなだって巻き込んでるんだぞ?


「大袈裟だな~。それを言う貴ちゃんだって俺の事をすぐに思い出してくれなかった癖に~」

「お前、さっきから何を言ってるんだ?」


 一条はずっと俺が何かを思い出してくれないとか言ってるけど、一体何なんだ?

 訳が分からないから首を横に捻ってると、一条のヘラヘラ顔は消えて真顔になった。


「貴ちゃん、もしかして俺の事を思い出してくれた訳じゃないの?」

「だから何なんだよそれ!分かんねーよ!」

「…………」


 一条はそのまま無言になった。
 何を考えているのか分からない顔で、ずっと俺を見たまま固まっていた。
 しばらくすると、さっきまでのヘラヘラ顔とは違って困ったように笑った。


「ハハ、そうか、俺のぬか喜びか。貴ちゃんは俺の事をまだ……」

「俺の分かるように話せ!」

「話したって分からないでしょ。もう貴ちゃんには何を言ってもダメだと思う」

「馬鹿にしてんのか!」

「馬鹿にしてるのはどっちだよ!俺は今までずっと貴ちゃんと再会出来て嬉しかったのに!」

「再会?俺とお前、前に会ってるのか?」


 一条は悔しそうに下唇を噛んで何かを堪えているように見えた。
 俺と一条がどこかで会ってるだと?
 こんな派手な頭した奴どっかで会ったらいくら俺でも忘れねぇよ。
 こいつの勘違いじゃねぇのか?
 

「最上貴哉。貴ちゃんの前の名前だよね」

「!……何でお前がそれ知ってるんだ!?」


 俺の母ちゃんと父ちゃんが結婚したのは俺が小学一年の時だ。だからその前までは母ちゃんはシングルマザーで、旧姓の「最上」のままだった。
 だから父ちゃんと結婚して俺の苗字も「秋山」に変わったんだけど、そんな事誰にも話した事ないし、言うとしたら母ちゃんが酔っ払って誰かに話すぐらいだ。

 
「俺と貴ちゃんは苗字が変わる少し前に会ってるんだよ。貴ちゃんは小学校に上がる前、俺は一年生だった」

「そんな昔に!?」

「俺は貴ちゃんを今の高校で見た時すぐに分かったよ。だって貴ちゃんは俺にとってのヒーローだから」

「ヒーロー?」


 ダメだ。全く思い出せねぇ。
 そんな昔の事なんか……
 あの頃の俺は母ちゃんがバイト昼も夜も掛け持ちでやってたからいつも一人だった。母ちゃんの実家に住んでたから爺ちゃんと婆ちゃんいたけど、ずっとは遊んでくれなくて俺は一人で遊んでた。
 保育園でも他の奴らに父ちゃんがいないのを馬鹿にされてムカつくからワザと一人で遊んでたんだ。
 
 
「貴ちゃんはお父さんがいない事を気にしていたね。そして俺は父親に夢を反対されて落ち込んでいた」

「…………」

「初めて声を掛けたのは習い事の帰りだった。いつも通る公園でいつも一人で遊んでいた子が気になってたんだ。どうして一人で遊んでるの?って聞くとその子は俺を睨んであっち行けって言ったよ。だからその日はそのまま帰ったんだ。そしてまた次の日もその子はその公園で一人で遊んでた。こんにちは。って声を掛けると、お前誰?って聞かれたよ。俺は答えた。紘夢だよって」

「……あ」


 一条の話を聞きいてると、あの頃の事を少しずつ思い出して来た。
 俺は保育園から帰ると必ず家を飛び出してその公園に行ってたんだ。理由は母ちゃんが迎えに来てくれると思ってたから。保育園には婆ちゃんが迎えに来てくれてたんだけど、他の奴らはみんな母ちゃんと手を繋いで帰ってるのを見て俺はそれが羨ましかった。
 だから遅い時間まで待ってれば母ちゃんが迎えに来てくれるって思ってその公園で一人で遊んでたんだ。

 母ちゃんは夜もバイトだから来れる筈ねぇのに。
 結局婆ちゃんが探しに来て帰るパターンだ。

 そういえば一緒に遊んだ奴がいた気がする。
 そいつはいきなり現れて、俺に馴れ馴れしくして来たんだ。いつの間にか一緒に遊んだり話したりする仲になってたけど、俺が引っ越してからは一切会わなくなって、そのままそいつの事なんか忘れていた。

 それが一条だったってのか?
 いや、まだピンと来ねぇけど……
 もしそうだったとしたら何で俺にひでぇ事しやがるんだ?

 俺が思い出したようにしてると、一条はスッと近付いて来て、俺の手を握って来た。
 自分の右手の指を俺の左手の指に絡めてギュッと握られた。
 突然の事でビックリしてると、笑われた。

 でも、その一条の笑顔はいつもの笑顔じゃなくて、優しくて穏やかな笑顔だった。


「思い出してくれた?」

「いや、まだ少ししか……」

「貴ちゃんの記憶力じゃ仕方ないか」

「わりぃ……ん?今馬鹿にしただろ!?」

「あはは♪やっぱり貴ちゃんは面白いなぁ♪」

「な、なぁ!お前の言う事が本当だとして、でも何で俺に嫌な事すんだよ?昔遊んだ時に俺悪い事でもしたのか?」

「まさか!貴ちゃんとはずっと仲良しだったよ♡」

「じゃあ何で?」

「俺の事を思い出してくれないからだよ。全然俺の事頼ってくれないし、どんどんいろんな人と仲良くなっていくし、俺の貴ちゃんなのに……貴ちゃんと一番先に仲良くなったのは俺なんだよっ」

「俺が悪いって言うのか?」

「うん。でも、俺も貴ちゃんと離れてから大分変わったんだ。俺の生き方全てを父さんに握られていて、とても窮屈だった。だから俺はいつか困らせてやろうと思って長い年月を掛けて準備を整えた。そして中学三年生になった時、やっとそれが実現したんだ!あはは!父さんのあの顔は傑作だったな~。俺ね、誕生パーティーっていう父さんの会社の人とか取引先の人とか大勢いる前で一条を継がないって宣言したんだ♪」


 あ、戸塚が言ってたやつか!
 それがあったから激怒した父ちゃんに家を追い出されたって言ってたな。
 それで芽依も兄貴のこいつを嫌ってるんだって。


「一条……お前……」

「ねぇ貴ちゃん!二人で旅しない!?お金ならたくさんあるから大丈夫だよ♪あの頃からずっと貯めて来たんだ♪二人一緒なら絶対に楽しく……」

「行かねぇよ!お前馬鹿か!?そんな自分勝手な事して、よく平気でいられるな!」

「……貴ちゃん?」


 俺が怒鳴ると一条は不思議そうな顔をしていた。
 俺は一条の言う事が許せなかった。
 だって、一条が言ってるのって全部自分のワガママじゃねぇか!
 そんなの知るか!それに俺を巻き込んだのが許せねぇ!
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