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1章 写真ばら撒き事件編

※まぁ俺がみんなを洗脳したようなもんだしな

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 ※茜side

 今日の部活では部長、そして副部長の俺、それから各リーダー達も呼ばれて臨時部員である桐原と秋山について話し合いをした。
 それぞれ代役は立ててあるが、俺は出来れば二人に参加してもらいたかった。だが、部員達の中には二人には降りてもらって、演劇部だけでやるべきだと言う声も上がっていた。
 言いたい事は分かる。噂というものは有る事無い事どんどん膨らみ意外な所にまで広がって行くものだ。二人の件は学校だけじゃなく、保護者や学校に携わる人達の耳にも入るだろう。

 結局話はまとまらず、解散になった。
 疲れただけだな。

 話し合いが終わって俺は秋山もいないし、所属するチームも無いので一年の様子でも見に行こうとしていると、裏方のリーダーの犬飼に声を掛けられた。


「茜ちゃん、みんな否定的だったな」

「仕方ないさ。俺の言う事なんて聞いてくれる奴なんていないからな」

「そんな事ねぇよ!俺は茜ちゃんの味方だ!」


 そう、犬飼だけは俺の意見に賛同してくれていたんだ。こういう時、薗田さんがいたら平等な目で見て判断してくれてたけど、頼れる人がいない今、唯一味方してくれる人だった。


「ありがとう犬飼」

「茜ちゃん……」


 俺が不甲斐ないせいで秋山達が外されるかもしれない。せっかくあんなに頑張っていたのに……
 俺は力になれないなんて悔しい。

 今日の俺はやたらとミスを連発していた。
 昼休み過ぎからボーッとしてしまう事が増え、まともに授業も受けられないでいた。
 さっきの話し合いでも、キチンと自分の意見を言えてはいたけど、普段の俺ならもっと強く発言出来たんじゃないかって思う。

 犬飼が俺に近付いて来て肩を軽く叩いた。


「茜ちゃんはさ、頑張り過ぎなんだよ。たまには肩の力抜いてさ♪サボっちゃってもいいんじゃね?」


 へへっと笑って言う犬飼。
 犬飼の言葉を聞いて涙が込み上げて来てしまった。これに犬飼は驚き動揺していたが、俺はそのまま涙を流し続けていた。

 頑張り過ぎだなんて、そんなの秋山の方が頑張ってるじゃないか。慣れない環境にいきなり入って来て、歓迎すらされていない中、初めての事だらけなのに、夏休みだというのに毎日通って、毎日俺といてくれたじゃないか。
 そんな秋山を助けられないなんて、悔しくて悲しくて涙が止まらなかった。


「ううっ俺は何も出来ないっ……助けたいのにっ……」

「あ、茜ちゃん、ごめんって、えっと……」


 ほらこうしてせっかく励ましてくれてる犬飼にも迷惑を掛けてるじゃないか。
 こんな時秋山なら「泣くんじゃねぇよ!」って怒るかもな。はは、秋山に会いたいな。会って俺が思ってる事全部を話したい。
 早く戻って来いよ秋山……


「とりあえず、こっち来て!」

「っ……」


 泣き続ける俺といて、通る人に見られているのが耐えられなくなったのか、俺の手を引いて近くの空き教室に入った。
 ここはたまに演劇部でも使う教室で、今は使わない机や椅子が置いてあった。


「茜ちゃん、大丈夫か?」

「……じゃないっ」

「え?」

「大丈夫じゃないっ!」

「!」


 俺が大きな声で言うと犬飼はビクッとしてしゅんと肩を落とした。こんなの八つ当たりじゃないか。俺は少し落ち着いて来たので少し反省をする事にした。


「わ、悪かった。犬飼は俺を庇ってくれてたのにな」

「ううん!茜ちゃんの為だし余裕っしょ」

「もう放っておいていいから、みんなの所へ戻れ。犬飼はリーダーなんだから」

「もう少し一緒にいる。茜ちゃんが笑うまではいるよ」

「それ、明日になるかもしれないぞ?」

「えー!さすがに今日中に笑うでしょ!」

「はぁ、本当に情けないな。湊とあんな事になったせいもあったからだと思うんだ」

「……そうかよ」


 湊の名前を出したら不機嫌そうに口を尖らせる犬飼。
 今日の昼休みに犬飼に告白をされたんだけど、どうやら本気らしいな。人生二度目の告白に、俺は湊の時と同じような気持ちになった。
 誰かに好きだと言われる事がない俺にとっては信じられないような事で。ずっと嫌われて来たから、好きと言われて反応に困るし、なんて言ったらいいか分からなくなるんだ。
 でも、好きだと言われた相手には嫌われたくないと思ってしまうな。湊にもそうだし、秋山にもそうだ。
 だから犬飼にも嫌われたくなかった。


「犬飼、俺達は今友達の関係……だよな?」

「一応な」

「そっか。良かった」

「俺は友達以上の関係になりたいけどなっ」

「……無理だと言ったら友達を辞めるのか?」


 俺には湊がいる。だから犬飼と付き合うのは出来ないんだ。せっかく俺の事を好きだと言ってくれて友達になれたのに、とても悲しくなった。


「そんな顔すんなよ~。茜ちゃんに振られたぐらいで友達辞めるかよ。茜ちゃんがいていいって言うならずっと側にいるよ」

「本当か?」

「本当だって。なぁ茜ちゃん、俺茜ちゃんともっと仲良くなりたい」

「嬉しい事を言ってくれるな」


 俺が言われたかった言葉を次から次へと言ってくれるな犬飼は。照れ臭かったので、目を逸らすと、犬飼が残念そうに言った。


「あーくそ!茜ちゃん笑っちゃった!」

「え、ダメだったのか?」

「笑うまでは一緒にいるって言ったっしょ?さすがにずっと戻らねぇとみんな変に思うし、そろそろ戻ろうと思うけど、もう少し一緒にいたかったなぁ」

「あ、そうか……ふふ、頑張れよリーダー」

「もー茜ちゃんも裏方来てよ。そうすりゃ一緒にいられんじゃん♪」

「俺が裏方にいたら不自然過ぎるだろ」

「そうか?みんなに紹介し直すよ!茜ちゃんて良い奴なんだぜーって」

「……それは、嬉しいな」

「まぁ俺がみんなを洗脳したようなもんだしな。これはマジでやるわ。茜ちゃん目一杯笑ってやってよ♪そしたらみんな茜ちゃんの事好きになるからさ」

「犬飼、ありがとう」

「俺の方こそありがとう。許してくれて嬉しい」


 まさか犬飼とこんな風に笑いながら話す時が来るとは思ってもいなかったな。
 これからはこうして俺の事を好きと言って変えてくれようとしている人を大事にしよう。
 そうすればいろいろ学べてもっと好かれる人間になるかもしれないよな。


「茜ちゃん!」
 
「なんだ?」

「大好き♡」

「お、俺も好きだ!」


 と、友達として言ってくれてるんだよな?
 犬飼が言うとどっちなんだか曖昧だけど、俺は正直に答えた。


「嬉しいー♡もっともっと好きになってよな!俺の良いとこいっぱい見せるから」

「…………」


 両手をあげて喜ぶ犬飼は、明るく笑ってそう言った。
 

「さてと、行きますかー!」

「ああ」


 犬飼はそのまま廊下に出ようとドアを開けると、まさかの人物が立っていて俺は思わず声を上げた。


「湊!」


 なんと、湊がドアの向こうに立っていたんだ。
 湊はジッと目の前にいる犬飼を見てたけど、目線だけを動かして俺を見た。
 あの目は怒ってる時の目だ。
 俺はこの場をどう収めようか必死に考えていた。
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