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1章 写真ばら撒き事件
※まず眉毛を生やせ!
しおりを挟む※誠也side
俺は演劇部裏方のリーダーをやっている犬飼誠也だ。素行は良くないっていう自覚はあるけど、勉強もそこそこの出来だし、周りよりは要領良く生きていると思ってる。
どんな時でも頼りにされて来たのもあって、俺は上に立つ事が多かった。
みんなヘコヘコして俺の言う事聞いて馬鹿みたい。
そんな風に思う事も多々あった。だけど、言う事を聞かない奴もたまにはいた。二之宮茜もその一人で、同じ演劇部になって、何故か二之宮ばかり評価されてるのには腹が立った。あんな真面目で地味な奴のどこがいいんだ?目付き悪いし、態度も悪いし、それなのにとにかく上からの評判は良かった。
ムカつく。
ただそれだけの理由で俺は周りを誘導して茜ちゃんをいじめた。初めはシカトして、だんだんエスカレートして、女っぽい名前を「茜ちゃん」なんて馬鹿にしたりした。
それでも動じないもんだからとうとうあいつが大事にしてる後輩に手を出す事にした。
そうすりゃさすがの茜ちゃんも壊れてくれるんじゃね?ってな。
でもそんなのしなきゃ良かった。
いや、手を出した相手がまずかった。
秋山貴哉は一年で、茜ちゃん同様生意気でムカつく奴だけど、こいつも上からの評価は高かった。みんなの憧れの桐原伊織にも気に入られてて、見事に桐原の怒りを買っちまったって訳。
普段温厚な桐原を怒らせた俺達はとてもじゃないけど、もう学校でデカい顔していられないと思っていた。
だけど、今回願ってもないチャンスが訪れた。
桐原と秋山が謹慎食らったって。
喜ぶべきだが、賢い俺は考えた。
これを使って桐原の怒りを収められないか?
実は俺達はバーベキュー大会で秋山を襲って桐原に追い出されて逃げる時に、二人が乗ってるバスに近付く奴を見たんだ。周りにはそいつしかいなかったから多分そいつが写真を撮った犯人だと思ってんだけど、この話を桐原の仲間に売れば俺達も株が上がるんじゃねぇの?
なんか猿野の奴、めちゃくちゃ後悔してるみてぇであの日から様子が変なんだ。まぁ猿野の事は置いておこう。
とにかく俺はまず比較的話やすい茜ちゃんに声を掛けてみたんだが、ここで俺達は本当の茜ちゃんを知る事になった。
初めは俺達に怒ってたけど、訳を話したらすんなり分かってくれたみたいで、何と、笑顔で仲間として受け入れてもらえたんだ。
え、茜ちゃんてこんな風に笑ったりするのか?
てかめちゃくちゃいい奴じゃん!
何その可愛い笑顔!ちょ、タイプなんだけど!
ってな感じで俺は茜ちゃんに恋をした。
だが茜ちゃんには凶暴な番犬が付いている。
桃山湊だ。
こいつは頭のおかしい奴で、見た目からしてヤバい奴だ。だから誰も関わろうとしない。
よりによって何でこの二人が付き合ってんだよって思ったけど、そんな事は気にしない事にした。
桃山がなんだ!俺は茜ちゃんが好きなんだ!
桃山なんかと付き合ってるなんて勿体ねぇから俺が奪ってやろうと思ってる訳。
次に茜ちゃんに会えるのは昼休みかぁ。
トイレ寄って髪セットしてこーっと。
「なぁ、誠也?お前本気なの?」
ロッカーからワックスやヘアスプレーを出してる俺を見て雉岡吉乃がそこだけ金色に染まってる襟足をいじりながら聞いて来た。
俺は特に気にする事もなく即答してやった。
「茜ちゃんの事?本気に決まってんだろ。お前ら協力しよろなー」
「いやー、今回はパス。桃山だけとは関わりたくねぇよ」
「桃山がなんだってんだ。あいつも人間だろ。勝ちゃいいんだ」
「おい、トモからも言ってやれよ。お前死ぬぞって」
「……え?何?」
吉乃に話を振られて気付くのに三秒かかったこの金髪オールバックは、猿野友則。トモが一番騒がしくてうるさいはずなのに、あの件からずっとこんな感じなんだ。
きっと秋山の事を考えてるんだろう。トモは秋山に恋してる。秋山を襲った日の帰りのバスで俺が撮ってたムービーをくれと言われて確信した。
こいつ、襲われてる秋山をオカズにする気だと。
そんな事はどうでも良かったからムービーを送ってやったんだが、それからこんな感じで、正直俺達も困っていた。
そんなトモに吉乃は頭をポンっと叩いて言った。
「トモもトモだったわ。桐原を敵に回すとかやめとけよー」
「桐原かぁ。俺も髪、赤く染めようかなぁ」
「「!?」」
「そうすりゃ少しは好きになってもらえっかなぁ?」
「や、やめとけ!お前は金髪のライオンヘアーが似合ってるんだ!」
「まず眉毛を生やせ!」
ぼんやり言うトモに俺と吉乃で必死に止めた。んな事したら桐原どころか桐原のファンまで敵に回すわ!桐原のファンって危険な奴多いんだよなぁ。今回の写真ばら撒き事件も桐原ファンの仕業だとか噂出てるぐれぇだし。
俺達の言う事を聞いてるのか聞いてないのかトモはそれからずっと窓の外を見ていた。
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