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1章 写真ばら撒き事件
※桃太郎さん♪桃太郎さん〜♪
しおりを挟む※茜 side
俺は廊下である三人の男達と話をしていた。
この三人とは同じ演劇部で、三人共担当は裏方。そう、俺を「茜ちゃん」と馬鹿にして来た奴らだった。
湊と二人で秋山達の件について話していたら突然声を掛けて来たんだけど、どうも様子がおかしかったんだ。
だから暴れそうになる湊を落ち着かせてこうして話をしているんだが……
この三人はバーベキュー大会の時の写真を誰が撮っていたのか知っているらしかった。これは大きな収穫だった。そしてそれは小平じゃない事が判明した。まず疑いを掛けてしまった小平に謝らなければと、湊を送ってここに連れて来てもらおうとしていた。
俺達が疑って声を掛けた時の小平は本当にショックを受けている感じだったからな。
その間に俺は三人から詳しい話を聞いている所だった。
「ところで、なんでお前達はその現場にいたんだ?秋山はバスで着替えていたんだろ?桐原は、まぁ秋山にちょっかい出していたんだろう。そして犯人はそれを撮っていたからそこにいた。じゃあお前達は何をしていたんだ?」
「うっそれは……」
「もう言っちまおうぜ!俺、ずっとモヤモヤしてたんだよ!」
俺が聞くと言葉に詰まる二人。そして意を消したように一番体の大きい金髪の男、猿野が話し始めた。
「あの時俺達は、部員でもねぇのに目立ってる秋山が気に食わなくて、秋山が一人になったのを狙って襲おうとしたんだっそしたら桐原が来て追い出されたんだけど、会場に戻る時にそいつを見たんだよ」
「襲おうとしただと!?」
「わ、悪いと思ってるよ!もうしねぇって誓ったし!な、なぁ桃山には言わねぇでくれ!頼む!」
両手を合わせて頼み込んで来る金髪に、俺は怒りが沸々と沸いて来るのを感じていた。
秋山に!俺の大事な後輩に!
「俺の事をどう思おうが、何と言おうがそれいい。だけど秋山の事を傷付けるのは許せねぇ!」
咄嗟に金髪に殴りかかろうとしたら、金髪の仲間の茶髪のパーマ頭の男、犬飼に止められた。多分こいつがリーダーだ。いつも真ん中で威張ってるのを知っている。
「おわっ茜ちゃん待って!ここ廊下!人見てるから!」
「そんなの知るか!このゲス野郎共!」
「茜ちゃん、説教なら後で聞くからさ、今は写真撮ってた奴の話聞いといた方がいいんじゃね?」
ここでずっと黙っていた、黒髪だけど襟足だけ金色の男、雉岡が落ち着いた様子で言った。
「秋山に酷い事したのは本当に悪いと思ってるんだ。特にトモがな。だから少しでも力になりたいって殴られる覚悟で茜ちゃんに打ち明けてんの」
トモとは猿野の事だろう。雉岡の話を聞いて俺は一度冷静になってから猿野を真っ直ぐに見た。
「聞こう。お前達の話を」
「ううっ……秋山にも直接謝りてぇんだ!だから早く学校に来て欲しくてよ!俺、あいつが早く来れるんなら何でもするから!」
「そうか。嘘をついてるようには見えないな。それならば力になってもらおう。正直、俺と湊だけでは力不足だったんだ。一緒に頑張ろう」
猿野の泣きべそをかきながらの訴えに、俺は怒るのを辞めて笑顔を作って本音を言った。
すると三人は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
「なんだよ?まさか嘘だったのか?」
「ち、違う!本当だっ!」
「いやいや、茜ちゃんってそんな風に笑うんだって。いつも睨みきかせて怒ってるようなイメージだったから驚いてんの。なぁ誠也ぁ」
「あ、ああ……」
雉岡にそう言われて、自分でも確かになとまた笑ってしまった。
自分自身秋山と出会ってから変わったなと思うからな。前までの俺はこんな風に人と落ち着いて話すなんて出来なかったからな。俺は普通にしていたつもりだが、相手からしたら話しにくい奴だと思われていたんだろう。
「なぁ、茜ちゃ……いや、茜!今まで本当に悪かったよ!これからは何でもするからっ!俺、お前の為なら何でも出来るから!」
いきなり犬飼に右手を両手で握られて、熱くそう言われた。本当に急にそんな事をされたので、俺まで豆鉄砲を食らってしまった。
そして犬飼の右隣にいた雉岡が何かに気付いて小さく声をもらして、何歩か後ろに後ずさった。
「あ」
「なんだ?どうしたんだ?よし、の……っ!?」
雉岡の反対側にいた猿野はいきなり前によろけて俺と犬飼の間に入る形で倒れ込んで来た。
何が起きたんだ?すぐに猿野が立っていた方を見ると、湊が右腕に拳を作って立っていた。
そしてその後ろにはガタガタ震える小平もいた。
どうやら湊が猿野を後ろから殴ったらしいな……はぁ、あれだけ問題は起こすなと言ったのに……
「犬飼ぃ?テメェ茜に何してんの?その手何?」
「も、桃山……」
湊はそのまま犬飼に近寄り、胸倉を掴んだ。
それでも俺の手を離さない犬飼。
俺は湊を落ち着かせる為に三人の事を説明しようとした。
「湊、落ち着け。三人は俺達に力を貸してくれると言ってくれてるんだ」
「それはいいんじゃない。でもこれは別問題。手、離せよ犬飼」
「……桃太郎さん桃太郎さん~♪」
「「!?」」
胸倉を掴まれて引っ張られて俺から引き離された犬飼は、恐怖のあまり頭がおかしくなったのか、突然歌い出した。
俺と小平は顔を見合わせて少しパニックになった。
「お腰に付けたきび団子~♪一つ私に……下さいーなっ!!」
「!!」
それでも歌い続ける犬飼。そして歌い終りと共に犬飼は湊に殴りかかった。
急展開に追い付かない俺と小平はただ見ているしかなく、湊はそれを素手で受け止めてマスク越しにニヤリと笑っていた。
「なかなかなパンチじゃん♪楽し~」
「演劇部裏方リーダーの体力舐めんなよ!」
「キャハ!面白ぇじゃん!あーげましょ~う♪あげましょう~♪ってかぁ!?」
ここから湊の反撃が始まった。
犬飼もなかなか喧嘩慣れしているようだったが、今はそんな事を言ってる場合じゃない。
ここは目立つし、落ち着いて話が出来る状況じゃない。
とりあえず二人を引き離してまた落ち合う事にした。
「雉岡!また昼休みに話し合おう!場所は演劇部部室だ!」
「了解。リーダー行くぞー」
まだやり合う二人を無理矢理引き剥がして、湊は俺と小平が、犬飼は猿野と雉岡がそれぞれ引っ張って別れた。
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