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本編
やれるもんならやってみやがれ!
しおりを挟む時間は22時。家に誰かが来たらしく、下から俺を呼ぶ母ちゃんの声で、寝ようとしてたけど、部屋から顔を出して返事をしてみた。
「貴哉ー!起きてるー!?」
「誰が来たんだー?」
「あ、起きてるみたい。上にいるから上がって行きな」
母ちゃんは俺の質問はシカトして、勝手に訪問者を俺の部屋へ導こうとしていた。こんな時間に来る奴なんて伊織か空ぐれぇだぞ?
伊織なら連絡すると思うし、空とは音信不通だし……楓か?
そのまま部屋から顔を出してそいつを待ってたら、まさかの人物に驚いた。
なんと、ずっと俺をシカトしていた空だったんだ。
こいつ!今の今までシカトしといていきなり来やがった!
ふと怒りが込み上げて来たけど、ここはグッと堪えて部屋に入れる事にした。
「貴哉、いきなり悪いな」
「ああ。マジで悪ぃな」
「…………」
「で、何しに来た?まさかやっと話し合う気になったのか?」
「……うん」
「今更かよ?お前何日俺を放置したと思ってんだ?俺の性格知ってるよな?」
「知ってる……ごめん」
元気の無さそうな空は部屋のドアを開けたまま入口に立って俯いていた。空がこんなんじゃ余計気まずくなるだろ。
「とりあえずドア閉めてここ座れ。さっさと話すぞ。俺はもう寝るんだ」
「……はい」
俺が指示すると言われた通りに動く空。うっ、いつもの空じゃねぇと調子狂うな……
何から切り出せばいいんだよ。いろいろ話したい事はある筈なのに、言葉が出て来ない。
それにしても久しぶりに会うな。変わってない空。いや、いつもはどんな時でもバッチリ髪型は決めてるけど、今日はボサボサで何も手を付けていない感じだった。風呂上がりか。空らしく無くてちょっと変な感じだった。
「さっき桐原さんからメッセージ来たんだ」
「そうか」
「貴哉は桐原さんを選ぶのか?」
「選ぶって言うか、お前連絡よこさなかったじゃん。俺はてっきり振られたと思ってたけど」
「振ってないっ」
「同じ事だろ。桐原のメッセージには反応して俺のメッセージには返事無しとか」
「それは、悪かったよ。少し距離を置こうと思ったんだ。言わなかったのは本当に悪かった」
「別にもういいよ。明日からは伊織に来てもらうし」
「……俺、まだ貴哉の事好きだよ!」
「…………」
「貴哉、ごめんっもうシカトしないからっ、ちゃんと返事返すから!お願い、俺と別れないでっ」
「悪ぃけど、もう決めたから」
「貴哉っ!」
なるべく空の顔を見ないように話を進めてた。すると、空は俺に近付いて来て腕を掴んだ。
ダメだ。俺はこのまま空と続けちゃダメだ。
何度も言い聞かせて空の手を振り払った。
「お願い……捨てないで」
「……空」
その言葉を聞いて空を見てしまった。
そこには今までにないぐらい大粒の涙を流している空がいて俺の心は苦しくなった。
てか捨てられたのは俺の方だと思っていたのに……なんで空がそんな事言って泣くんだよ……
こんな俺のどこがそんなにいいんだよっ。
「俺、貴哉に捨てられたら……もう……」
「捨てるとか言うな!お前は物じゃねぇだろ!そして泣くな!笑え!」
「無理だよぉっ」
まるでガキのように泣きじゃくる空に俺は戸惑った。結構空の泣き顔は見て来たけど、今回のはキツいな。
仕方ないから俺は空の頭をポンポンと撫でてやった。それしか出来なかった。下手に期待させるような事を言ってもまたおかしな事になるし、終わらないから。
「頼む、笑ってくれっ……俺は空の笑顔が一番好きなんだ」
「……じゃあ別れない?」
「それは……」
「ううっ笑えねぇよ!」
「あーもう面倒くせぇ!じゃあこうする!」
「?」
いつまで経っても終わらない会話にイライラしてきたから、俺は腹を括った。
本当は空とは別れて伊織と正式に付き合うつもりだったけど、正直このまま空を放っておけねぇ。
だったらどっちとも付き合わなきゃいい。
そうすりゃどっちか選ぶとかなくなるだろ?
これで文句言われたらぶん殴ってやる。
「空!俺はお前と別れる!そんで伊織とも付き合わねぇ!今決めた!」
「……え?ええーーー!」
「これはもう絶対だ。それならどっちも選ばれなかったんだから泣く必要ないだろ?ほら笑えよ」
「そんな無茶苦茶な……どうして俺と別れたいんだ?」
大分落ち着いたのか、まだ不安げな顔だけど、ちゃんと目を見て話せていた。
そして俺は全部思ってる事を打ち明けた。
「どっち付かずの自分が嫌だからだよ。しかも空には何度も嫌な思いさせてるしな。それなら別れた方がお互いの為だと思ったんだ」
「全然お互いの為なんかじゃない!俺別れる方が嫌だわ!」
「うるせぇ!もう決まった事だ!あと、この事に文句言った奴はぶん殴るって決めたからな!」
「貴哉ぁ」
「情けねぇ声出すんじゃねぇ。明日からダルい学校が始まるんだ。俺はもう寝る。ほら帰れ」
「じゃ、じゃあ約束して!」
「なんだよ?」
「絶対に桐原さんと付き合わないって。そしたら俺も貴哉と一度は別れる!」
「一度はってなんだ一度はって!でもそれは約束する。明日はそのまま迎えに来てもらうからそん時に言う。二人が揃うと面倒くせぇからお前は来んなよ」
「絶対だからな!嘘ついたら俺が貴哉をぶん殴るからな!」
「しつけぇな!上等じゃねぇか!やれるもんならやってみやがれ!」
「ホント、貴哉は……」
ここで空が笑った。
やっと見れた空の笑顔。
やっぱり俺は空の笑顔が好きだ。
結局どちらとも付き合わないという選択肢を選んだ俺。なんだかその方が楽な気がするしな。
そもそも俺に恋愛なんて向いてねぇんだ。
明日は伊織にうるさく言われるんだろうなぁ。
まぁそしたらぶん殴って黙らせてやればいい。
それに、伊織が心配してた空の所に戻るっていうのもしてねぇから文句なんか言わせねぇ。
こうして俺の短い初恋は幕を閉じた。
✳︎完✳︎
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