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本編
そんなの喜んでやるよ♡
しおりを挟むファミレスの駐車場で伊織に胸倉を掴まれて説教されてる桃山を助けようと、茜と二人で伊織の腕を掴んで止めようとした。
さっきは笑顔で怒ってたけど、今はその笑顔は消え、本気で怒ってる顔だった。
伊織ってこんな顔もするんだ……
「桐原、俺からも謝るから、湊を許してやってくれないか?」
「なんでこいつが貴哉にあんな事してたんだ?」
「それはー……湊が人前で俺にキスして来たから、秋山に押し付けたんだ……俺が悪いんだ……ごめんなさい」
「そうかよ。お前が指示したんだな」
「き、桐原っ!?」
伊織に睨まれて茜が言いにくそうに答えると、怒りの矛先がそっちに向いたのか、桃山を突き飛ばして今度は茜に近付いた。
ヤバい!伊織を止めなきゃ!
「伊織!辞めろよ!ふざけてただけだろ!茜に手出したら嫌いになるからな!」
「!」
咄嗟にそう言うと、伊織の動きがピタッと止まって俺に振り返った。
その顔はまるでおもちゃを取り上げられた子供みたいに悔しそうな泣きそうな顔だった。
うわぁ、可愛い……!
「だって!貴哉にあんな事してるの見たら黙ってられねぇよ!」
「伊織、俺も悪かったよ。本当に茜達は気の許せる奴らでさ、今度からはちゃんとするから」
「二之宮は分かるけど、桃山は許せねぇ!一発殴らせろ!」
「いーくんからの暴力なら喜んで!あ、顔だけは辞めてね♡」
「だから手を出すなっての!桃山も変な事言うな!もー人集まって来ちゃうから違うとこ行くぞ!」
俺達が騒いでる間に通行人達が集まって来て、目立ち始めてた。明日から学校だっつーのにこんな事とこで暴力とかヤベーだろ。
俺は伊織を、茜が桃山を引っ張ってこの場所を離れる事にした。
しばらく歩いてどこか入れそうな所を探す。迂闊に入って二人がまた揉めてもやだしなー。どうすっかなー。
俺がいろいろ考えてると、後ろを歩く桃山が呑気に喋り始めた。
「なぁいーくん、来るのめちゃくちゃ早かったな」
「あ?ちょうど近くにいたんだよ。そしたらテメェがあんな事してやがるからよぉ」
「ち、近くにって何してたんだ!?」
ヤバい!やっと落ち着いたのに思い出したかのように伊織が振り向いた。
誤魔化そうと俺から話題を振ってみた。
「買い物♪貴哉と行きたかったんだけど、誘っても行ってくんねーから一人でしてた」
そう言って紙袋を見せて来た。あ、そう言えば服が見たいとか言ってたな。ちょっと機嫌取っとくか。
「そっかー!じゃあ今度一緒に行こうな♪」
「えっ行ってくれんの!?やったー♪」
「行く行く♪伊織が俺の服選んでくれよ」
「任せとけ♪あ、そういや早川とは話したのか?」
「えっ!」
「まだなのか?てかいつ話すんだよ?」
「桐原、実はその事で秋山は悩んでいて俺達に相談していたんだ」
「そーなのか?何に悩んでるんだ?まさか、早川のとこに戻るのか!?」
「違う違う!空からは連絡がねぇんだよ!だから話し合いも出来てねぇの!」
「は?何それ?あいつ何してんだよ」
「知らね。それよりも明日から学校だろ?俺、一人じゃ起きられねぇんだよ。そこでさ、伊織迎えに来てくれね?頼む!俺もう出席日数足りなくて遅刻出来ねぇんだよ」
「そんなの喜んでやるよ♡でも貴哉らしいな。出席日数足りないってそんな話、聞いた事ねぇぞ」
楽しそうに笑う伊織。良かったー!これで遅刻は大丈夫だな!後は空に言うだけだな。
「なぁいーくん、その役割って今まで早川がやってたんだって。明日からはいーくんがやんだろ?多分早川はそれ知らねーから、いーくんから言ってやってくんね?ほら、貴哉は早川に拒否られてっから」
「ああいいよ。電話じゃ喧嘩になりそうだからメッセージ入れとく」
「それは俺がする!伊織は普通に来てくれればいいから」
「だーめ♡俺がしとくから貴哉は気にせずゆっくり寝て待ってな♡」
そう言って機嫌良さそうに俺のオデコにキスをしてくる伊織。二人の前だし、恥ずかしかったけど、伊織が俺の為に朝来てくれる事になったのと、空に言ってくれるってのが嬉しくて、俺は伊織の手をギュッと握った。
本当はずっと伊織に会いたかった。だけど、空と話し合えてねぇし、もう中途半端なままはダメだと思ってたから我慢してたんだ。
それなのに、そんな嬉しい事言われたら俺……
「伊織ぃ……好き」
「貴哉……」
「やばぁ!貴哉可愛い過ぎん!?」
「ちょ、黙れ湊!秋山、俺と湊はここで帰るから。桐原、秋山を頼むな」
「おう。また明日な」
「茜!今日はありがとうな!」
茜が気を使ってくれて空気の読めない桃山を引っ張って帰って行った。
残された俺達はどちらともなく笑い出して歩き始めた。
今日伊織に会えて良かった。茜達と話して少しは気が紛れたけど、それでもモヤモヤは少しは残る訳で、でも伊織に会えた事でやっと踏ん切りが付いたよ。
ずっと悩んでいた空の事だけど、多分これでちゃんと話せると思う。
俺と伊織はまだ付き合っていない。ずっとこんな感じの関係が続いてる仲だけど、それもそれで悪くねぇなとか思ってる自分がいて。
だって、空と違ってやきもちの焼き方こえーもん。
伊織とはこの後何もせずに普通に家まで送ってもらった。
そして明日に備えて今日はゲームしねぇで寝ようと思っていたら、家のチャイムが鳴って母ちゃんの俺を呼ぶ声が聞こえて来た。
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